婚約だと?
お父様から連絡が来る。
殿下から、婚約の打診が来た、と。
フプリー不足を解消したらしい殿下は、学校に戻ればいつも通りだった。
殿下、私、結婚しないって言ったよね?
「俺だってしない。卒業したら、しばらくはレクトゼイルだ」
フォーリア様は、ゼネスト様との結婚を決められた。
その婚姻の準備は外交が絡むので、王子であるダリウス殿下が立ち会うのだそう。こちらの王宮からも侍女や官僚がフォーリア様つきとして移住することが決まったようだ。
ミーレイ様とリヨール君は呆れ顔だ。
「なんでそこで殿下が婚約の申し込みをするのか、わからないよ」
「だって、結婚しないんでしょう?」
そーだ、そーだ!!!
ミーレイ様とリヨール君、もっと言って!
「ダリウス、向こうで入れ食い状態だったんだよ。こっちは平和で良いね」
淡々と語るフォーリア様。
入れ食いって、なんですか。
「ドアを開けたら裸の女とか、マジ勘弁してほしい。魔力がないから、開けるまで気が付かないんだよ」
あーーー、そう言う。
ダリウス殿下が、ぐったりしている。
「今度はフプリーが盾になるんだ?」
リヨール君が私を見る。
「そのくらい、してくれたって良いだろ?」
弱ってるダリウス殿下って新鮮だ。
「フプリーさんである必要は?あるの?」
そーよ!他の人でも良いじゃない!
「他の奴の魔力入れるなんて、鳥肌が立つ」
なんだろう、ちょっと、ドキッとした。
「…断れないね、フプリー?」
フォーリア様、脅迫しないで。
結局。
フプリーは断れなかった。
お父様は、もう、何も言わない。
お父様の中では、だいぶ前から覚悟は決まっていたようで、
「あとはお前が納得できるタイミングで輿入れを決めると良い。気が向かなければ、いつまででも放置してやれ。カルマンはお前の意思を尊重する」
ありがたい。ありがたい、が、
「王家…何故こんなことになったのかしら」
「王家の肩書が重ければ、殿下が公爵に臣籍降下するのを待てば良い。シュドリウス殿下に太子が生まれれば、その許可も下りるだろう」
なるほど。
お父様、それまではカルマンの娘としてよろしくお願いいたします。
…えええと?
受けると言った…言ったが!!!!
婚約式って何?
そんなのあるの?
私そんなの知らない!!!
口約束じゃないんですか?!
ドレスというほどではないけれど、そこそこフォーマルなワンピースを着せられたフプリーは、王宮の、おそらく王家の居室の一部と思われる部屋に招かれていた。
右にお父様。
左にお母様。
あー、着心地の良いこのドレス。
ルヴィル製だよね…
カルマン伯爵家、すっかりルヴィルのお馴染みさんになろうとしている?
ふわっふわなソファーは、ちゃんと背筋を伸ばしておかないと、身体が沈み込んでしまう。
部屋には先に殿下が居て、後からやってきたのは、もちろん王様と王妃様。
ダリウス殿下、王子様なのよね、そうよね。
え?王子?この、おちゃらけた方か?
嘘だと思いたい。
いや、知ってた!忘れたかっただけで。
ひとしきり、王前の貴族的ご挨拶を終えたところで、セヴァリウス陛下が、笑いを噛み殺したような顔をする。
「いやぁ、長かった!もっと早く連れてくると思っていたよ、ダリウス」
あ、この方確かにダリウス殿下のお父様だ。
お隣でリーファ王妃殿下も笑っていらっしゃる。
隣で父が、背を伸ばして発言する。
「婚約はお受けします。ですが、王家への輿入れは遠慮したい」
どういう意味だ、と、陛下が殿下を見る。
「俺もすぐには結婚する気はないし、多分フプリーは研究室に置いておいた方が国に貢献すると思う」
「サーシャの男子を待つという意味ですね」
王妃様の言葉に、陛下は呆れたようだ。
「いつになるかわからんぞ?」
「俺たちの結婚も、いつになるかわからん、と思っておけば良い」
言い放つ殿下に、隣でお母様がため息をついた。
「なんのための婚約なの?」
お母様、王族の前です!!!
「俺の身の安全と、フプリーの確保」
ダリウス殿下…とても勝手な台詞に聞こえます…
「私もまだ結婚したくないのです。このまま結婚しない人生でも良いと思うくらいなのですが」
「まぁ、兄上に子ができたら覚悟するんだな」
なかなか複雑である。
サーシャ様にお子はできてほしいけど。
…殿下が飽きるかもしれません…
その台詞は、流石に憚られた。




