メリッサの研究室
卒業前に、メリッサ様の研究室を訪ねる機会に恵まれた。
メリッサ様の研究室は、王宮を囲うように据えられた塔のうち、魔法使いの塔と呼ばれる塔の最上階にあった。
塔の入り口で、久しぶりの秀才ダニエル先輩がニッコニコで出迎えてくれた。
塔の床に描いた魔法陣に一つ陣を追加して魔力を流すと、大きな魔法陣がふわりと光る。
この光った魔法陣が床ごと持ち上がって、対になった魔法陣の元まで運んでくれるのだ。
塔の中の途方もない階段を登らなくてもすむのはとても助かるけれど、初めて乗ったフプリーは腰を抜かすかと思った。
研究室はシンプルな作りで、ちょっと学校の教室に似ている。魔石が収納された箱が壁一面を覆い、反対側には古いものから新しいものまで様々な書物に覆われている。窓もあるが主な光源は天井に吊るされた魔道具のようで、光の強さは外光に合わせて勝手に調整されるのだそう。
「フプリーは学校で寮住まいよね。ダニエルは通いだけど、王宮の寮を申請する?独立すれば、自分の研究室で寝起きすることも可能だけど、それまでは地上で住まいよ」
聞けばメリッサ様はこの研究室の個室で生活しているのだそう。
え?メリッサ様、侯爵令嬢ですよね?
「侯爵令嬢って!おばさん捕まえて何言ってるのよ!あ、ちなみに私、子爵位持ってるから、どちらかといえば女子爵かな?」
メリッサ様はケラケラ笑って言う。
子爵位は筆頭魔術師の役を押し付けられた時に一緒に与えられたのだとか。
「私はなんでもできるわよ、うちの師匠と違ってね!」
「師匠?メリッサさまのお師匠ですか?」
「ええ、魔法爵グレイシア様よ。めっちゃ美人!そのうちに紹介したげるわ」
メリッサ様、気さくすぎる。
フプリーとしてはとてもありがたいけれど、王宮筆頭魔術師様だ。
「フプリーは王宮魔術師の肩書を希望してると思って良いわよね?王宮魔術師になれば王宮から給金がでるから、生活は安定するわよ。まぁ、やる事は多少増えるけど、肩書あったほうが何かと便利だし。師匠の推薦があればいけるから、推薦しとくわ」
「…ありがとうございます」
フプリーはちょっと、ポカンとする。
え、そんなに簡単になれるものなの?
みんなの憧れ、王宮魔術師だよ?
驚いていたら、魔法陣の気配がして、研究室のドアがノックされた。
ノックに返事をする前にドアは開いて、王宮魔術師のローブを着た男が入室してきた。
「姐さん!あ、悪い!客?」
「新弟子よ。スカウトしてきた。かわいいでしょ?」
「おー!!!可愛いな!宜しくな!」
すっごい気さくなこちらの方は、ヴィクター様とおっしゃる。
メリッサ様と同世代に見えるけど、一番目のお弟子さんなのだそう。
今はもうとっくに独立しているけれど、筆頭魔術師をしているメリッサ様の補佐をしているのだとか。
「この師匠、人使い荒いから気をつけな。言う事全部聞いてたら研究してる暇なくなるからな」
手が伸びて、頭に触れそうになった所を、メリッサさまがその手をはたき落とした。
「気持ちはわかるが、あんたの娘じゃないんだ、気安く触るな」
「おっと!悪い!ウチの末っ子と同じくらいの背丈だから、つい」
…ヴィクター様のお子さんて、何歳だろう。
「悪い人じゃないんだけど、結構迂闊ですよね、ヴィクター様」
ダニエル先輩が容赦ない。
それが許される空気がここにはある。
フプリーはここに来る未来に期待を膨らませた。




