年明けの祝福
冬休みが明けて、改めて最終学年だなぁなんて思いながら学校に行くと、フォーリア様から報告があった。
最終学年の半年ほどをレクトゼイルに留学するのだと言う。
「婚約が決まったの?」
ミーレイ様も、今はじめて知ったようだ。
「いや、まだ候補なだけ。実際に魔法陣の外を体験しておきたいと話したら、留学が決まった」
「言葉は?」
「話せる」
おお、さすが!
「俺も行く」
予想外のところから、予想外のセリフ。
「ダリウス殿下まで?」
リヨール君、知らなかった割に冷静。
「まぁ、一人放り出すわけにもいかないからな。王家から、牽制役」
「心強いよ」
ああ、フォーリア様が一人で行くのでなくて良かった。
そう思っていると、皆が私を見ている。
「左の守護と右の守護、両方居なくなるけど、大丈夫なの?」
リヨール君、言い方!
「私はもう18になるんです!お子さま扱いしないでください!」
ふんす!と、腰に手を当てると、またダリウス殿下の手が伸びてきて、
くそー!
避けたのに!避けきれなかった!
「お前、18だったのか!新入生と変わらねぇなぁ?」
二人の留学は、王太子殿下とサーシャ様の結婚式の後に出発するのだそう。
殿下達の結婚式は、種苗祭の前。
直轄領の種苗祭を回る都合があるせいだろう。
王家はこの時期、婚姻の儀式で大忙しだ。
それでも、新年の祝賀会の後あまり間を開けないまま行われる王太子の結婚式は貴族が参列し易い時期を選んでいるのだと思う。
まだ肌寒い初春の時期。
フプリーはサーシャ様の友人として結婚式に招待されてしまった。
光栄です!光栄だけど!度がすぎる光栄です!!!!
同級の姉マーリエも呼ぶから!と
笑顔が眩しすぎます!
そして、やっぱりそうなるよねぇ。
エスコート、ダリウス殿下。
いやいや、殿下!そこはイエン様が婚約者様をエスコートすることになってフリーのはずのフォーリア様にいかないと!
と、思っていたら。
登場しました!
レクトゼイルの王太子!!!
何故だろう?勝手に年上だと思っていたら、17歳。
まさかの年下!
学年も一つ下なのだそう。
レクトゼイルの王太子殿下はゼネスト様と仰るそうで、何と言うか…歌劇の発祥だと言うから勝手に線の細い人を想像していたけれど、体格がしっかりとした、好青年だった。
ゼネスト様がフォーリア様をエスコートするから、と、当たり前のようにダリウス殿下は私のエスコート担当になった。
ちなみに、婚約者様が未成年のナタリー様のエスコートは、大公アルドレット元大将軍なのだそう。
…もう、誰も止めない。
2年前に着た新成人のドレスは胸のサイズだけ調整したらそのまま着れてしまう。足元は初めから、以前いただいた革のブーツにした。(結局、これ、いただいちゃったのよね)
身長は伸びなかった。
流石にもう無理だろう。
結婚式はそれはそれはもう、壮観だった!
国王陛下の前で跪くお二人。祝福を送るのは、陛下だけではない。
ヨシュア公
ナタリー王女
アルドレット大公
ダリウス殿下
王家に生まれた皆様から、黄金の魔力がお二人に降り注ぐ。
こんな光景、もう二度と見ることはないだろう。
あまりの美しさを、フプリーは頭に焼き付けた。
王宮の裏手にある大きな広場には、騎士団の皆様が整列している。
広場を囲う塔の先端に、魔力で光が灯されていた。
お二人はそこを抜け、城下へ披露目のパレードに向かう。馬車の周りを固める近衛騎士たちと共に、主要路をぐるりと回るのだそう。
その間に、城は夜会の準備に入るようだ。
ダリウス殿下にエスコートされたまま、連れて行かれた控室は…
王族の。
逃げたい…
誰も疑問に思わないのだろうか?
皆さーん!
ここに何故だか、伯爵家の第三子が紛れ込んでますよーーーー!!!
豪奢な方々は、私のようなちっぽけな存在など、目に入らないのかもしれない。
くそー!!
こんなところでまで、背が伸びなかった弊害があったのか!
お父様もお母様もそれなりの背丈なのに!…おばあさまの血か?!
ここで初めて、エッセル侯爵家のイーリス様とお会いした。イエン様の婚約者様はスラリと背の高い、スレンダーのご令嬢だった。
くそ〜!と、思ったけど、どうやらイーリス様は私と真逆のコンプレックスを持っていらっしゃるようで、変に意気投合しちゃった。多分、学校で会ってもおしゃべりすると思う。
夜会は舞踏会だった。
本日の主役、シュドリウス王太子殿下とサーシャ妃殿下のダンスから始まり、
セヴァリウス国王陛下とリーフェリア王妃殿下、
アルドレット大公とナタリー王女、
ヨシュア公と公爵夫人…
ちょっと待って?
まさか?
ダリウス殿下に手を取られる…
マジか…多分まともに踊れないよ、わたし?!
戸惑っていると、目で合図していたのか、隣でゼネスト様がフォーリア様の手を取って踊り始める。
「ほら、次は俺らだ」
有無を言わせない、言えない状況…
泣きそうな顔をしてたと思う。
殿下が意地悪そうに笑って、手を引く。
あーもー、やだよー!!!
なにこのドレス?!めっちゃ綺麗に広がる!!
ダンスの出来は正直言ってよくわからない。殿下に振り回されて、クルクルされて、よくわからないまま終わったけど、このドレスがすごいのが分かった。
うわー!
前回踊らなかったの、申し訳なかった!!
「それ、ローザのと一緒に作ったドレスだろう?」
笑いを堪えて殿下が言う。
「あの時、ローザが踊ってかなり評判を呼んだんだよ。ディプソーから、次は絶対にお前を踊らせてくれと懇願された」
ええええ?!
やだ、ほんと、申し訳ない!!!
今日もこの会場のどこかにいるかもしれないディプソー男爵に全力で謝罪したい!
「いや、踊ったからいいんじゃね?」
殿下…私の心を読むのやめてください!!
踊ったら暑い、と言いながら、ダリウス殿下はそのままテラスへ移動する。
王宮に来ることなどほぼ無いフプリーの目には、テラスから見える庭が、庭と言うよりも庭園すぎて、びっくりする。
今日は招待客が多いので、庭園も招待客に解放されていて、幾つもある東屋に魔法の灯りが灯されているらしい。
王族の居住区もこの庭園に面していて、
さらにその向こうには、離宮があるのだとか。
…ああ、そうか。
ここはダリウス殿下のお家なんだなぁ。
「お前さ」
殿下が珍しく真面目な声で聞く。
「まだ結婚する気はないよな?」
なになに?急に?
「ないですよ。私、結婚しないかも」
私の言葉に、ダリウス殿下が笑う。
「盾をやるよ」
盾?
殿下がフプリーの手を取って、指先に唇を寄せた。
「え?」
ダリウス殿下の黄金の魔力が、フプリーに流れ込んだ。
「…眠いか?」
殿下がフプリーの瞳を覗き込んでくる。
「…大丈夫です」
フプリーは何とか応じた。
盾。確かに、これ以上の盾はない、のかもしれない。でも、これ…
「…欲しいな」
「え?」
「お前さ、俺のものにならない?」




