祝賀会
会場に戻ると、新任官僚と昇進官僚の招待者たちから陛下への挨拶が始まっていた。
ずらりと並んだ官僚たち。
コレ、全員の挨拶を聞くのか…
陛下、大変だわ。
そう思いながら戻ったフプリーは王宮魔術師様にお礼を言う。
魔術師は控え室を出る時にフードを被り、その豪奢な髪も全て隠してしまっていた。
「大丈夫か?」
「はい、コレなら最後まで大丈夫です。ありがとうございます」
再び腕を貸してくださるダリウス殿下にお礼しながら、フプリーは興奮を隠せなかった。
「凄く綺麗な人ですね」
殿下がチラリと奥を見る。
「ああ、メリッサじゃなかったのか。珍しいな」
「え?メリッサ様?」
メリッサさまって、筆頭魔術師の?
「いや、多分違うだろう」
あっさりしているなぁ。あんな美人さん、そうそう見ないのに。
まぁ、本人がコレだけ綺麗な顔をしているから、美人に興味がないのかしら。
考えていると、殿下の腕が少し動いた。
なんだろう、と、顔をあげる。
あ。
銅色の癖毛。
ディーン様…
彼はフプリーには気が付かず、真っ直ぐに陛下の元へ向かう。
官僚たちは皆一様に片膝をついてご挨拶なさる。
「ジルベル伯爵家 ディーンでございます。外交官として王国の他国間利益と友和を保つ一助を担えるように努力してまいります」
陛下からは、「励まれよ」と言う言葉だけ。
けれど、その言葉とともに、ディーンさまの手首がチラリと光ったような気がした。
ディーン様がたちあがり、王前を辞する。
身を翻した時に、フプリーと目が合った。
キュッと、胸が身体が締め付けられた気がした。
後ろの方が御前に進む都合があるので、ディーン様は少し歩を進めて、こちらに向き直る。そうして、目を伏せて立礼された。
え?
戸惑うフプリーの横で、殿下が右手を挙げて応じられる。
ディーン様は、もう一度、今度は会釈をしてから、向きをかえ下がっていかれた。
…ディーン様だ。
ディーン様だった。
変わっていない。
締め付けられていた身体がちょっと弛緩して、ふわふわする。
「泣くなよ?化粧してるからな?」
耳元に、ダリウス殿下の声。
くそ〜!!!
泣いてたまるか!
そのあと、昇進した官僚たちのあと、領主達が陛下に新年の挨拶をされる。
都度、陛下から祝福の魔力が授けられている。隣にリーファ妃殿下。
ああ、ここでも。
夫婦の間では、魔力の譲渡がなされているようだ。
けれど、授けられる祝福の魔力は、王家のもの。
リーファ様の魔力は陛下にだけ譲られている。
畑の比では無いわね。
けれど、祝福を受けた身であるフプリーには理解できる。
魔法使いにとって、王家の魔力はなんと魅力的なのだろうか。
このためだけにでも祝賀会に出る意味がある。
ただし、謁見できるのは決まった者たちだけ。
毎年受けたければ領主になるか、官僚でも重鎮と呼ばれるほどの、一角の人材にならなければ、謁見の機会は得られないのだ。
チラリと、殿下を見る。
王族なのよね、この方。
その、ダリウス殿下の腕に乗せた自分の手を見る。
王族にエスコートされている。
これって、壮大な夢だったりするのかしら。
目が覚めて、なんか良い夢見たなぁ、となりそうな気もする。
ずいぶんと、突拍子もない夢。
自分が望んでもいない内容だけれども、振り分けるなら、良い夢なのだろう。
…初恋も夢?
泣いたことも?
「移動するぞ」
ぼんやりとしていたら、祝賀会が終了して夜会に移行するようだ。
貴族たちが、謁見会場を出て、夜会の準備がされた会場へ移動する。
歌劇で舞台上に設えられた物とは雲泥の差の、本物の夜会会場に、フプリーは空いた口が塞がらなかった。




