エスコート
長いです
新成人の謁見が始まる頃はまだ人はそう多くはなかった。
新成人と、エスコートのお相手。
それは婚約者が居れば、年齢に関係なく、年下も年上もいたし、そうでなければ親族の誰かか、寄家寄子や友人など近しい知人にお願いすることもある。
女性は必ずエスコートを誰かに頼むが、男性は必ずしも誰かをエスコートする必要はないので、必然男性の参加者の方が多くなった。
そのほかは警備の衛兵と、給仕の王宮使用人たち。
ディバレイドの貴族であれば、成人のタイミングでほぼどちらかの学校に所属している。国立の方では、成人式を終えたタイミングで学校を辞めて職についたり婚姻相手の家に入ることもある多いようであるが、成人式の時点で在学していないと招待状が届かないのだ。
貴族にとって社交と情報は命綱とも言われるが、それ以上に国王陛下に謁見できるのが大きい。
ディバレイド王国に敷かれている「天の災いを阻む魔法」は王国の初代王によって作られ、王家と国王によって維持管理されてきた。魔法陣に込められる魔力は王家の魔力であり、その黄金の魔力はディバレイドの貴族たちを魅了し、それはまた、祝福の意味合いを持つと言われている。
故に、貴族の親たちは必ず、自分の子が謁見できる機会を逃さない様に、成人の年の祝賀会が終わるまでは子を学校に通わせるのだそう。
その祝賀会は茶会同様に、新成人の中でもやはりなるべく家の格が低い者から入場するようだ。
もちろん、招待されている本人の家格がものを言うので、エスコートしてくださる相手が格上でも、本人の家格で入場することになる。
…え?ちょっと待って?
エスコートの組み合わせが同時に招待される場合は?
チラリと、リヨール君たちを見たら、まだ待機部屋でくつろいでいる。
伯爵家のリヨール君と侯爵家のミーレイ様であるが、この場合には、ミーレイ様に合わせて入場されるようだ。
フプリーのエスコートがダリウス殿下ということは…
周りを見渡すと、見知った魔法学校の生徒と、見覚えがない方たちは国立に通う生徒たちだろう。
王族と公爵家が揃うテーブルは大注目を浴びている。
現在、公爵は3公。ブリア公の他にアズマ公とガルディオ公の家があるが、今年成人するのはフォーリアだけだ。
そこに第二王子も居るのだから、それは注目もされるだろう。
魔法学校に通う者達には見慣れた面子ではあるが、国立の生徒達は皆コチラを見ている…気がする…
…はぁ、
気が付かれない様に、そっと息を吐く。
あー、気づかれてる。
横にある腕が小刻みに震えてるもん。
笑いを堪えてる、絶対。
リヨール君がミーレイ様の手を引いて立ち上がる。
見れば、伯爵家の男子が年上と思われるご令嬢を連れて部屋を出るところだった。あとに続く侯爵家の男子はエスコートする女性を連れていない。見慣れない方なので、国立学校の学生さんだろう。
後に続く侯爵家の令嬢は婚約者連れ。
ミーレイ様とリヨール君は、ミーレイ様の家格が高いため(王族に連なる、先代までは公爵家だった家)同じ侯爵家でも、入城はあとになる。
イエン様がフォーリア様の手を取り立ち上がったのを見て、ソファにもたれていたダリウス殿下が身を起こした。
あーーー、もう、逃げたい。
あれだけ賑やかだった部屋に、もういつもの4人しかいない。
使用人用の扉の向こうに人の気配がする。
私たちが出たあとに清掃が入って、次の招待客が利用するのだろう。
ダリウス殿下が立ち上がり、当たり前の様に私に手を差し伸べてくださる。
考えたら恐れ多すぎて身が縮こまってしまうので、この手が王子の手であることを忘れることにした。
私はこれ以上縮んだら困るもの。
「ディバレイド王国第二王子ダリウス殿下」
「カルマン伯爵家フプリー嬢」
開いた扉のすぐ横に、広間に向けて登場者の家名と名を読み上げる係がいた。
とても良く通る美声が朗々と響き渡る。
ああああ…
男性の方が先に呼ばれるから、結果的に私が一番最後に呼ばれてしまった…
なんで伯爵家の第三子が一番最後なのよーーーー!!!
…不本意すぎる。
フプリーは泣きたくなりながら、根性で抜群に美しく見える様に、カーテシーをする。
私、ちっちゃいから、めいいっぱい高い靴を履いてて、これでカーテシーとか、まじ地獄なの!!
いっそ、この靴を脱ぎ捨てて帰ってしまいたいくらいだ。
けれどダリウス殿下に腕を差し出されれば、そこに手を添えないわけにはいかない。
皆様が立ち並ぶ隙間の真っ直ぐ向こうにいらっしゃるのは、昨年お兄様の結婚式で祝福をくださったセヴァリウス陛下。
ああ、本当に。
ダリウス殿下は陛下に似ていらっしゃる…
その殿下にエスコートされてるって、どういうことだろうか。
小さく震えながら、殿下について一歩踏み出す。
…視線が、痛い。
不穏だ。
殿下の隣のあいつは誰だ、と、会場全体からの視線がフプリーに向けられ、フプリーは手に汗をかく。
無意識に力が入っていた右手に、ダリウス殿下が触れた。
顔を上げると、殿下の目がこちらを見た。
む。あの、ニヤニヤの目だ。
フプリーは、細く、息を吐き出す。
足は止めません。
陛下のところまで歩いてみせるわよ!!
据えられた玉座の前までやってくると、横に控えた女性がフプリーの髪に白い生花を刺してくださる。
隣を見れば、殿下の胸元にも同じくように白い花。
新成人への贈り物のようだ。
殿下が立礼するのに合わせて、再びカーテシーをお披露目する。
く!足が死にそう!!!
シャラン!と、軽く耳触りの良い笏の音がして、陛下のお声。
「我が子ダリウス。
そして、カルマン伯爵家フプリー」
わ!陛下に私の名前を呼ばれるの?!
感動に鳥肌が立つ。
「成人するそなたらの未来に、祝福を授けよう」
お言葉の後に、ふわりと、
これ、王家の魔力?!
キラキラの、黄金の魔力がフプリーの身体に降り注ぎ、消えた。
ダリウス殿下が立礼を深くするのに合わせて、フプリーも腰をさらに落とす。
「ありがとうございます」
殿下に合わせて、御礼を申し上げる。
そして、殿下とともに、
え、まさか壇上には行かないよね?!
不安になって見上げれば、方向を変えて、壇には上がらずに檀下のけれど王家の皆様に近いところに移動した。
「お前、その足は最後まで持つのか?」
「………自信ないです…」
白状したくはなかったけど。
「だろうな」
そう言いながら、殿下は私の腰を引き寄せた。
「わ?!」
ちょっとだけ、足への負荷は減る。
「助けを呼ぶから少しだけ我慢しとけ」
なになになになに?!
ビクビクする私のところに、王宮魔術師のローブを着た女性が来て、会場の外に導いてくれる。
ものすごい豪奢な部屋のソファに座らされ、
「ここには男性は来ませんので、ご安心くださいね」
と、声がけしてくれた女性が、フプリーの靴を脱がせる。
フプリーの足の甲に、小さな魔法陣を描いて、魔力が乗った。
その、魔力が
「王家の…?」
え?王女様?ナタリー様ではない、よね。別の方。
「王族ではありませんよ」
女性はそう言って、入室してきた別の女性から赤いブーツを受け取り、フプリーに履かせてくれる。
…ホールド力が違う。
「見た目は可愛らしくはないけれど、お色がある分ドレスにも合うでしょう」
フプリーのドレスは肩口がネイビーで、スカートの裾に向けてグラデーションで赤になる。
その下に履いていた靴は肩口と同じネイビーだったけれど、赤いブーツも悪くはない。
ブーツは履いた時に、少し大きいような気がしたのだけれど、また魔法陣が描かれて、スッとサイズが合う。
…すごい。こんなこともできるの?!
「ありがとうございます!」
感動とともに述べたお礼に、女性はニコリと笑ってくださった。
うわ、この人、凄く綺麗…
口元を黒いマスクで隠してらっしゃるけれど、隠しきれないほどの美人さんだった。
「さぁ、殿下の元に戻りましょう」
そう言って、また会場までエスコートしてくださった。




