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フプリーは逃げ切りたい  作者: サンガツワサコ


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25/52

内省

王都にいても、私にはカルマンがあって、いつでも帰れると信じていた。



他領に嫁いでも、それこそヒュードル様とノルド辺境伯領に行ったとしても、私はカルマン領に帰る…いや、遊びに行くことは出来るだろう。


けれど。


ディーン様と外国に出てしまったら?


私は、ディーン様について行けるの?



そうだ。私は結婚したら、カルマンのフプリーじゃなくなる。


ディーン様の奥さん?

それとも、メルト様の?

ヒュードル様の隣に立つの?



お兄様の隣に立つエネット様の姿が脳裏に浮かぶ。

魔力を分け合う、夫婦。


「触られて、嫌じゃないのはどいつだ?」


ダリウス殿下の言葉が蘇る。


触られて、嫌じゃない。


少なくとも、ディーン様にはエスコートもしていただいたし、それに…


右手の甲にいただいた口付けと、魔力。


あの、柔らかで真綿のような…

キュッと、胸の奥が締め付けられる。


そしてふと、

殿下の魔力も思い出される。


王家の、黄金の魔力。

艶やかで、まっすぐな、クリアな。


王家の魔力、という衝撃が先に立ったが、殿下の魔力は真っ直ぐな黄金だ。


あー。なんだろう。意味もなく、ダリウス殿下に会いたくなってきた。




私はまた、発熱した。

なんだろう。頭を使うのがダメなのかな。

背丈だけでなく、頭の中まで子どもみたいで嫌になる。

寝込んでいたら、お姉さまが枕元で詠唱してくれていて、それは癒しの魔法だったのかな。ガンガンと痛む頭がスッと軽くなったようだった。


「なにも無理に選ぶ必要はないのよ。噂だって、実害がなければ放っておいていいの。結婚なんてせずに、ずっとここに居ていけないことなんて、何もないでしょう?」


お姉様の声は心地よくて好き。

いつまでも聞いていられる。

もしかして、声にも魔力を乗せたり出来るのかしら。


「学生のうちは、ダリウス殿下にでも、フォーリア公女にでも、結果的には守ってもらえる。もし、貴女が卒業した後になにかあれば、お父様もお兄様も私も、全力で貴女を守るから。そんなの、言わなくたってわかるでしょう?」


だから、心配しないで良いのよ。


お姉様は私の額に手を当てて、満足そうに頷くと迎えにきたジオーヌ様と共に王都に帰っていった。





結婚、しなくてもいいの?


え、でも…


机の上の封書。


お返事を、しなければならない。


え、私、お断りするの?


…ディーン様も?


あ。



フプリーは気がつく。


いつのまにか、ディーン様のお話を受けるか、受けないかになってる。


そんな、と思って、改めてヒュードル様とメルト様のお手紙を手に取る。


送っていただいた思いに、フプリーは舞い上がるほどに嬉しかった。

今だって嬉しい。

嬉しいのに。


間違いなく言えるのは。


ヒュードル様もメルト様も。


ただ一人だけからの婚約の打診だったら、お受けしたかもしれない。


メルト様のお手紙だけが届いたら、きっと私はメルト様の手を取ったろう。


ヒュードル様からだけ、お手紙が届いたとしても。

戸惑いながらも改めてお会いして、すぐにお受けできなくとも、ヒュードル様を理解する努力をしたに違いない。


触られて、どうか。


それは、わからない。

触れられた事はないし、触れたこともない。

お二人の魔力は、見る限りは好ましいけれど。



では、ディーン様からのお手紙だけが届いたら?


触れられて嫌悪感はないし、少しだけ触れた魔力も嫌ではない。


これは、答えではないのか。


それでも。


踏み切れない。




私は、ディーン様が好き。

間違いなく、好きなのに。





両思いじゃないの、と、大騒ぎしたローザとロイド様のご縁。


ローザの覚悟は強い。

大家を避けていたはずのローザ。

貿易商のディプソーは間違いなく、ディバレイド王国の外へも出る。

そこにローザがついていくかはわからないけれど。

ロイド様の帰りを待つのか、共に魔法陣の外を行くのか。

どちらにしても、ローザは覚悟を決めている。

それほどに、ロイド様を思って、求めているのだろう。

ローザの思いは強く、迷いがない。


それが、羨ましい。



覚悟が私にはない。


ディーン様と共に歩む未来。


どうして。


ディーン様は外交官になるのだろう?

王宮にはさまざまな職業があるのに、何故外に出てゆく仕事を選ぶのだろう?


そんなことを考えはじめて、フプリーは息を呑む。


ディーン様が、私の思い通りにならないから?


そんな自分勝手な思い。


勝手すぎる恋が、結婚にブレーキをかけているのか。




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