想像される未来
年越しから4ヶ月が経とうとしている。あれ以来お会いしていないのに、他の候補者と比べても鮮やかに思い出せる。
あの笑顔のそばに居られるなら。
私、頑張れる?
でも、実は今、ちょっと魔法陣の研究が面白い。秀才ダニエル先輩と、魔法陣で動く絵を作っているのだ。立体ひよこの後頭部を埋めるより、平面の絵を動かす方が面白い、という事になって、ひよこさんが歩いて、成長して、鶏さんになった。コケコッコーって、鳴いたりするのかな。
出来ればまだもう少し、魔法陣の研究をしたいなぁ。
「婚姻の打診が幾つか、と話していたから、ディーンだけではないと思うよ。お前、他の候補者ともそれなりに接触しているだろう?」
トムソン子爵家のダニエル様、
ガレ伯爵家のメルト様、
ノルド辺境伯家のヒュードル様は…来ないよね、きっと。馬乗れないし。
メルト様はいつも来てくださるから、もしかしたら…
「父様の方でも精査してからお前に通すだろうから、もし先に気になっている方が居るなら私からそれとなく水を向けておくよ」
「もちろん、お兄様があげた候補でない方で気になる方がいらっしゃるなら、私の方で調べておくわよ?」
お忙しい兄に代わって、姉が動く宣言をしてくれる。
本当に、兄姉は私に甘いなぁ。
「皆様…とても良い方で、嫌な方はいらっしゃらないんです」
「嫌な方はいなくても、気になる方もいらっしゃらないの?」
.…気になる方、は、ディーン様だけれど。
これを口に出したら、一気にそちら側にフプリーの未来は舵を切るような気がしてならない。
憧れた王宮でのお仕事。
けれど、憧れた理由は、歌劇で見たような華やかな世界と素敵な恋…恋?
婚約して結婚したらもう恋を楽しむとかないよね。
じゃあ、働く場所は王宮である必要、無いんじゃない?
食いっぱぐれない安定した働き口という理由もあったけど、それはオールドミスを目指したから。
でも、安心できる環境だから、王宮が良かった。
お父様も、お兄様も王宮に居る。もちろん、他領や地方に赴任することもあるだろうけれど。
そうだ、サーシャ様は確実に王宮にいらっしゃるだろうし(会えなくなるとは思うけど)ダリウス殿下だって、王宮に居るだろう。
ディーン様しか知っている人がいない外国に行く。というか、ディーン様はまだ2〜3日をご一緒させていただいただけだから、正直よくわからない。今、すぐになんて決められることじゃない。
では、他の方はどう?
秀才ダニエル様は、きっと王宮魔術師になるだろう。
飛び級されているので、お姉様やサーシャ様と同様に今年の秋に卒業されるが、先日アマリオ先生が王宮魔術師を連れていらして、ダニエル様とお話しされていた。
ダニエル様が王宮魔術師になられるのであれば、彼と婚姻すれば、フプリーも王宮で勤め続けることもできるだろう。
まぁ、王宮が雇ってくれれば、の話だけれど。
魔石オタクなメルト様は…そうね、メルト様も王宮魔術師になられる可能性、高いかも。
ダニエル様以上に研究者っぽいし。あ、でも、リヨールくんのお兄様みたいに、魔石の採掘とかに興味を持たれたりもするのかな。
何だろう?メルト様と結婚しても、放っておかれる気がする。
たまに帰宅されては、ドバーッとお喋りして、じゃあ、研究室に帰るね!とか言って。
フプリーはそんな想像をしたけれど、それがすごく嫌だというわけではないのが不思議だ。
ヒュードル様は…きっとフプリーを選んではくれないだろうなぁ。
まぁ、もし選んでいただけて、結婚するってなれば、ノルド辺境伯領に行くんだろうな。ノルドといえば東の辺境だ。王都から、どのくらい離れるだろう?けれども、確かなのは、ノルド領に行ったらそこに根付いた生活になるだろうということ。
初めは怖いけれど、カルマンの新年の挨拶と同じで、なれたらきっと好きになれる。慣れるかわからないのは、ヒュードル様が騎士で、辺境であるからには本当に闘いの場に出ていくということ。王宮の警備とは話が全く異なるのだ。敵は他国の兵士かもしれないし、族かもしれない。野獣や魔獣だって相手取るだろう。
フプリーはハラハラしながらヒュードル様の帰りを待つ事になる。
今まで漠然と、騎士爵様も良いなと思っていたけれど、戦うということは、怪我をするし、下手をしたら命を落とす事だってある。
文官の家に育ち、魔法陣に守られた国の中にいて、もちろん王都から出れば当たり前に盗賊だって出るし魔獣だってゼロではないけど、辺境ほどではない。
王宮が働き口として人気なのは、天の災いだけでなく、異端なる存在と異端なる魔術を阻む魔法陣に守られているから、というのもある。
今までフプリーは、領地にあっても、王都にきても、甘々な家族たちや友人たちに守られてきた。
子ども扱いは嫌だと言いながら、守られている事だけは、甘受するの?
だからと言って、フプリーは自分で自分の身を守れない。コレは物理的に。今は馬にだって乗れないのだから、逃げるのにも足手纏いになってしまうだろう。
守られているばかりじゃダメよね。足手纏いにはなりたくないな。
どなたと結婚出来たとしても、私は私の足で立って、自分を、そしてもしかしたら授かるかもしれない子どもを守らなきゃならないんだ。




