ダブルデートの顛末
朝食の場で、お兄様が複雑そうな表情をしていた。
お姉様と視線を交したところを見るに、マズイ、何か見透かされている気配…
ここにローザは招かれているけれど、お兄様のお友達方は別で朝食をとっているはずだ。
「今日は、アイツらと領内を回るのだろう?」
カルマン領は、馬車を使って頑張れば1日で一周出来るが、もちろんそういう意味ではない。
ささやかな街の中心部や農村部、湖のそばにある脱穀の水車。これは魔法を使わずに動くので、他領の方がいらっしゃる時には必ずお披露目するお約束の場所だ。それからお二人のご希望で領主館で開かれる基礎学校(6歳から通う、貴族学校の国立版)の教室と、領民に開放している図書室もご案内する予定だ。
先に農村部から回るので、お昼は街に戻ってから。だけれどお店は新年で閉まっているので、カルマン家の厨房にお願いしている。
おそらく図書室が最後になるので、ここで解散になるだろう。
「どこか、ご案内した方が良いところはありますか?」
「いや、そのコースで良いだろう。だが、馬車は2台用意させる。仮にも他家のお嬢さんをお預かりしているからね。護衛もつけよう」
「ありがとうございます…?」
2台で行けるなら、侍女を一人つけようかしら。
ローザもフプリーも一人で動くことに慣れてはいるが、侍女が居てくれると何かと助かる。
後で聞いて知る。
ロイド様がローザを気に入って、お兄様に子爵宛の紹介状を依頼したのだそう。
ロイド様もディーン様も貴族学校を出た紳士であられるから大丈夫だと思うが、ロイド様は幼少の頃はまだお父様が叙爵されておらず、平民として暮らしていらっしゃった。彼の中の常識が貴族のそれと異なる可能性もあるから、と。
ローザ!両思いじゃない!!?
きゃーー!となりかかる私に、姉が釘を刺す。
「メートル子爵が許可されなければ、この話は無くなるのよ。ロイド様が男爵家で、しかも最近になって叙爵された歴史の浅い貴族家であることを良しとされない家もあるでしょう?」
貴族なのだから。
…それはそう。
特に、ローザは弟がいるとはいえ第一子だ。
大家は無理と言っていたが、弟さんのために少しでも意味のある縁を結びたいと考えるかも知れないし、でも、考え方によってはディプソーはかなりの大家と言える。
そんな大層な家に、うちの娘は無理です!
ってなる可能性もあって、ディプソーの名がどちらに転ぶかは全くわからない。エキゾチックな陽キャのロイド様が今までフリーだった理由が伺えた。
ディプソーの家自体は貴族との婚姻にこだわりはない様で、逆に持ち込まれる縁談を躱わし続けている様なところもあるのだとか。
「下手な貴族と繋がって取り込まれない様に、という警戒もあるのだろう。そういう意味では、官僚貴族のメートル子爵家との縁談はディプソー側では断る理由はないだろうね」
あー。うまくいくといいなぁ。
でも、ローザはそこまで考えているかしら?
領内視察の時には、ロイド様はローザを、ディーン様はフプリーをエスコートしてくださった。
バレてるかも知れないけど、フプリーはちゃんと表情を作って淑女らしく行動できてたと思う。
…少なくともローザよりは。
ローザはもう、隠せていなかったと思う。
エスコートされて真っ赤になり、
話しかけられて真っ赤になり、
目が合って真っ赤になり。
隣で見ていて…もうなんというか、居た堪れないくらいに可愛らしかった。
これはもう、ロイド様にもディーン様にも、それこそついてくれた侍女や護衛、御者にさえもローザの矢印の先はあきらかだったろう。
あまりの茹で蛸具合に、フプリーの方はかなり冷静になれた。
エスコートは家族以外にイエン様にもダリウス様にもしていただいたことがあったので、ちょっとだけ免疫があったのも良かった。
お姉様のお茶会の日程も終わり、兄はお二人を連れて先に王都に戻る。
お別れのご挨拶のとき、ディーン様はフプリーの手の甲に口付けを下さった。
え?
ふわりと載せられた魔力は、柔らかに包み込む様な真綿の様な心地よさだった。
お兄様とお姉様が王都に戻られたら、一気にいつもの冬休み。
頭のてっぺんからピンと張っていた糸がプツっと切れたみたいに、私もローザもグニャっとなった。
やっぱり私はこっちだわ〜
お呼ばれしたお宅にお菓子持参でお邪魔して、領地の子供たちのうち、誰が国立学校に進んだとか、年頃の誰と誰の結婚が決まっただとか、お母様の活躍でジャガイモの卸先が増えたのだとか、そんな身近で穏やかなお話に花を咲かせる。
フプリーと同じ年の娘さんが領地で護衛の仕事をしている若者と恋仲になって、反対する親御さんをみんなで説得した話は、ちょっと歌劇に出来るんじゃないかってくらいに盛り上がった。
オマケのフプリーを昔から知るみなさんは、お嬢様に縁談はないの?なんてことは絶対に聞かない。
フプリー様にはずっと、カルマン家のお嬢さんとしてここにいて欲しいと領民は思っているのですよ。
執事や使用人たちからはそう聞いているが、どうだろう?
もしも王都で上手く働き口を見つけられなかったら、領主館の基礎学校で教師をしても良いかも知れない。
冬休みが終わる。
フプリーはローザと共に王都に帰った。




