新年を迎える
今年の新年のご挨拶の場にはお兄様が立たれた。
次期領主からの挨拶に領民の皆様がとても喜んでいらっしゃる。
…いや、別に、寂しくないよ?
喜んでもらえて良かったぁ、と思ってるだけです。
お兄様やお姉様にお会いした領地の方々はとても丁寧にお辞儀をなさって見送るけれど、私には笑顔で手を振って下さる。私はその方が嬉しくて、ちょっと口元がニマニマしちゃう。
「フプリーのお兄様とお姉様は、フプリーとはだいぶ違うわね」
お客様のローザは、フプリーの部屋に寝台を持ち込んで連日パジャマパーティーを開催している。
寮住まいでも、フプリーやローザは個室を使っているので、誰かとこうして寝台を並べて眠るのはとても新鮮で楽しい。
入寮時に二人部屋か一人部屋のいずれかを選べるらしいのだが、フプリーもローザも勝手に一人部屋にされていて、相部屋で楽しそうにしているカーレやネリー達が羨ましかったのだ。
枕を抱きしめてベッドにあぐらをかくローザの姿は、令嬢というにはどうなの?とも思うけど、フプリーだって似た様なものだ。
「わかるでしょう?私がオマケのみそっかすだって。お気軽ポジ、万歳!」
「うーん、嫡子とかに嫁いだら、あんな感じにならないとマズイってことよねぇ。私には出来ないなぁ」
ローザは子爵令嬢で、実は格上だった伯爵家に招かれたのだと、今更ながらに気がついちゃった感じだ。
ホントはこんなことになるはずではなかったのだけど、申し訳ない。
「いつもはもっと砕けた感じなのよ。お兄様とお姉様は滅多に領地で年越ししないしね。どうしてこうなったかなぁ」
うーん、と、二人で唸ってみたところでどうもしようがない。
お兄様が呼んだオトモダチは2人。
お一方はフプリーの婚約者候補としてお名前があったジルベル伯爵家のディーン様。
もうお一方はディプソー男爵家のロイド様。
まだきちんとご紹介頂いていないが、お二方とも国立の学生さんだ。
明日の姉主催のお茶会でご紹介いただけるのだろう。
姉は茶会を3回行ってから、王都に戻るのだそう。
そのうちの1回は領民の皆様をお招きするらしいが、フプリーはそれとは別にいつものお宅にお呼ばれもしていて、むしろそちらの方が楽しみだったりする。
領地の皆様曰く、「お家に貴族を招くって名誉なことなのよ!」ですって。そういうものなのかな。
「魔法学校にいない男子をご紹介いただくなんて、なんだか仕組まれてるみたいに感じない?」
何も知らせていないローザだってそう思うよね。
いや、まさにその顔合わせなのよー!!
あちらさんはご存知かどうかってところだけれど。
「…デイプソー男爵家って、あの、ディプソー?」
貿易商の???
だとしたら、そんじょそこらの貴族家より余程名の知れた豪商だ。
お兄様、そちらの方も候補に入るのでしょうか?
お茶会で真っ先にご紹介頂いたディーン様は3つ年上でお姉様と同年の17歳。今年学校を卒業される予定で、卒業後は外交官として士官されるのだそう。銅色の癖髪を耳にかけた、おしゃれで清潔感があって人当たりの良さそうなお兄さんは、笑うとクシャっと整ったお顔が崩れて、それが逆に好感度を上げる。
そして、疑惑のディプソー男爵家ロイド様。フプリーの2つ年上だから16歳(フプリーは冬生まれなのでまもなく15になるけど)で、だけれど飛び級していて、ディーン様と同じく今年卒業予定。やはりご実家は貿易商のディプソー家だったみたいで、「学校よりも現場で学べ!」とお父様にせっつかれているのだそう。ロイド様は黒髪でちょっと異国の血が混じった様なエキゾチックなイケメンさんだ。
二人とも卒業したら国内で年越しができるとも限らないし、他領の年越しも見てみたいという話になって、お兄様に誘われるままカルマンに来たのだそう。
「我が家は両親が官僚を引退して領地にいますから、夜会の様な形でパーティーを開きますが、そうすると参加者が限られてしまう。こちらの様に屋外の広場での祝賀も良いですね」
そう、カルマン領では、うっすら雪の積もる朝っぱらから野外集会の様に集まって、領主家からご挨拶の言葉がある。振る舞い酒もあるから(お子様には祝い菓子が配られる)寒いのに参加率はとても高い。
「うちは拝領していないけれど、商隊や商艦が帰還したときの雰囲気に少し似てますね」
あ、それはちょっと絵が浮かんだ。
私はローザと共にコチラのお二方をオモテナシするのが今回のお仕事の様。
茶会のホスト役のお姉様と、領主代行のお兄様は、カルマン伯爵家に仕えてくださっている使用人のご家族(子爵家と男爵家が2つほど)と親戚たちと交流している様だ。
お姉様が茶会を3回行ううちの2回は、使用人たちを交代で招くためなのだそう。
なるほど、そういった気配りも必要なのね。
「最近はフプリー嬢がご挨拶されていたのでしょう?今回はセナー様に役割を譲られて、少し寂しかったのではありませんか?」
ディーン様の言葉に、フプリーはちょっとだけドキッとする。
目立ちたいわけではないけれど、領地のみんなの前でするご挨拶、今は結構嫌いじゃない。初めはどうすればいいのか、足が震えたものだけれど。
「寂しそうな顔、しちゃってましたか?」
恥ずかしくなって、上目遣いになる。
ディーン様はクシャッと笑って、
「いいえ、ちゃんと、淑女らしく微笑んでいらっしゃいましたよ」
と、おっしゃるけれど、バレたんだもんね。恥ずかしい!
「ローザ嬢は、いつもは領地に戻られるのでしょう?」
話を振られて、ローザがピキッと固まる。
「うちの領地は親戚に任せているので、私は居るだけです…何もしません」
か細い声に、ロイド様があははと笑う。
「王家勤めの家の領地はほとんどが親族預かりでしょうから、きっとそれが普通ですよ。そこに居るだけで良いんです」
そういって、パチリと片目を閉じる。あ、ウインクだ。リアルで初めて見た!
「ここの領地は領民との距離が近くて暖かい。良い関係を築けていますね」
ディーン様に褒められて、フプリーは誇らしい。
「フプリー嬢もその一助を担っていらっしゃるのでしょう」
その晩のパジャマパーティーは、女子会そのものだった。
フプリーの心臓はディーン様にガッツリと撃ち抜かれ、ローザはロイド様の笑顔の虜になってしまった。
恋する乙女たち爆誕である。
今までフプリーの周りにあんな人達はいなかった!
「あれって、人たらしって奴よね」
騙されちゃダメ、騙されちゃダメ!
ほら、ダリウス殿下も言ってたじゃない。お茶会では猫をかぶるって!
わかっていても、あのクシャッて笑顔が頭から離れない。
ローザは男爵家とは言っても元々は平民として育ったというロイドの話が面白くて仕方なかった様で、外国の話だとか、街の店の裏側に潜入した話だとかにかなり食いついていて、多分ロイド様も楽しませる気満々で喋ってくれていた。
蓋を開けてみれば、あんなに憂鬱だった新年のお茶会が、ものすごく楽しかったのだ。
明日のお茶会は参加せずに、領内をご案内するお約束をしているのだが、なんだかそれもダブルデートみたいでワクワクする。
明日、どんな服を着よう?!と胸を躍らせ様にも、残念ながらそんなにたくさんの洋服を持ち帰ってはいないのでオシャレのしようもなかったりする。
せめてたくさん寝てお肌の艶を良くしておこう、なんて乙女なことを考えようにも、二人とも浮かれまくっていてなかなか寝付けなかった。
「どうしよう!明日も、、ものすごく緊張する!!!」
騙されちゃいけない、騙されちゃいけない!
フプリーは口の中で呪文の様に唱えながらも、心は言うことを聞いてくれず、テンションを下げることができずにいた。




