イレギュラーな冬休み
カルマン伯爵領は王都から馬車で4日ほど。
東に湖、西にはさほど高くない山に接する長閑な領地だ。冬には雪も多少は積もるが馬車が出せなくなる程にはならない。
ディバレイド王国に張り巡らされている魔法陣の恩恵をしっかり受けていて、カルマン家がこの地を任されて以来、天の災に遭うこともなく穏やかに暮らして行ける。
カルマンの当主は代々王都で文官職を勤めていて、この領地も何代か前の当主が報奨として与えられたものだ。さほど大きな領地でもないので領地経営はおもに夫人が担っている。家の主な収入源は王宮からの給与で、領地収入はその半分にも満たない。それでもきちんと納税をして、領民たちとも良好な関係を築いている。
フプリーたち3兄妹は母の下、領地で育った。
父は単身赴任で、フプリーたちが学校に通い始める前は一月から二月にに一度、父が仕事の合間に帰って来ていた。
兄が学校に通う様になった頃からは、収穫祭と種苗祭には領地に家族が揃ったが、それ以外の時期には母が子供達を連れて王都に向かう様になった。
父の仕事が管理職になった都合と兄の学校の都合だったのだろう。
フプリーが学校に入ってからは、もちろん母が王都に来てくれた。
母娘で歌劇にハマったのは、姉が学校に入ったあとからだ。
婚約者もいないフプリーは長期休みの度に領地に帰る。
冬休み以外の長期休みは家族が揃う。婚約者や仕事の都合で他の家族は領地の滞在日数が短くなるが、フプリーはずーっと居る。
領地に居る間はもちろん領主館にいるのだけど、領民の皆様から色々とご招待いただいて、母と母の侍女のハミルと3人で毎日の様にお呼ばれする。母が社交好きなのもあるかもしれないが、人見知りのフプリーも、領地にいる時だけは、喜んで茶会に参加できた。
冬休みには、母も王都へ行ってしまうのだが、フプリーは執事のルダーを伴って母不在でもお呼ばれすれば領民の茶会に参加していた。
今年はローザも一緒に、と思っていたけれど、お姉さまもいるってこと?
お姉様と領民のお茶会とか、全く想像がつかない…
お姉様が本当にいる…
「ジオーヌ様とご一緒にいなくて大丈夫なのですか?」
余計なお世話である事は承知の上で尋ねると、今年はジオーヌ様もご実家の領地で過ごされる様だ。
ジオーヌ様のご実家であるオーバル伯爵領は王都からカルマン伯爵領の西の山を迂回してさらに西にある。王都から遠い分領地は広く、北部には王家が管理する鉱山があるがここで取れる魔石の管理もオーバル伯爵家に任されている。
同じ伯爵家とはいえ、我がカルマン伯爵家より遥かに家格が上だとフプリーは思っている。
姉はジオーヌ様が領地に戻るタイミングで同じ馬車で帰領し、帰りもジオーヌ様の馬車で王都に戻るのだとか。半ば政略的な婚約者であるはずなのに、仲が良くて何よりだ。
「ちなみに、お兄様も来るわよ」
…は?
「私はともかく、お兄様は来年に結婚されるでしょう?エネット様は今回が領地で過ごされる最後の年越しになるから、ウルマ侯爵家の皆さん水入らずで過ごしていただくのですって」
なるほど?
え?でも、新年の祝賀会は?
「お兄様の上司はお父様よ?いかようにもできるでしょう?あ、ジオーヌ様はもちろんシュドリウス殿下の許可をいただいてるわよ?」
え、今、お父様とお兄様、一緒に働いてたの?!
「ジオーヌ様はともかく、そしてエネット様の水入らずもわかるけれど、何故お兄様は領地へ?エスコートのお相手がいないと祝賀会に出てはいけないとかいうルールがあるの?」
お兄様だって、次期領主としても官僚としても祝賀会に招かれるはずだ。
「祝賀会に出席しても、陛下や王族に謁見できるのは一握りの貴族だけよ。領主と、初参加の次期領主だとか、管理職に昇進した官僚だとか、新成人とか?」
お兄様一人いなくてもバレない、と?
「…それでも最大の社交場だから、招かれる貴族はほぼ参加するものなのでしょう?」
その様に教えられ、そうか、まぁじゃあ私は社交せずに済むわ〜とか思っていたのだ。
ドレスとかにはちょっと憧れるけど、夜会ロマンスなんて、お話の中だけの世界だもの。
「今年はお客様を連れていらっしゃるわよ。社交は領地で行うおつもりなのでしょう。貴女もローザ嬢と帰って来たでしょ?」
…イレギュラー過ぎる…事前にローザを伴うことも知らせていたとはいえ、屋敷の中がバタバタしていてなんだかとても申し訳ない気がして来た。
「新年のご挨拶が終わったら、お茶会を開きましょう」
…お呼ばれするのではなくて、お姉様が主催者になるのね。




