魔法 - 1
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
一行は街へと戻ってきた。
到着したのは朝。休む間もなく、そのまま冒険者ギルドへ向かう。
いつも通りギルドの酒場は賑やかだった。
冒険者たちの笑い声。
ジョッキのぶつかり合う音。
依頼や武勇伝を語り合うざわめき。
「受付と話してくる。ここで待ってろ」
アウエルがそう言うと、リッカとエリンは頷き、近くの空いている席へ腰を下ろした。
アウエルはそのまま受付へ向かう。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢が営業用の笑顔を向けてきた。
「依頼の報告だ」
アウエルは村長の印が押された依頼書を差し出す。
「かしこまりました。報酬を用意いたしますので少々お待ちください」
受付嬢が立ち去ろうとしたその時、
「待ってくれ」
アウエルが呼び止めた。
「これも読んでほしい」
そう言ってグラムから預かった巻物を差し出す。
受付嬢は巻物を開き、内容を読み始めた。
数秒後、その表情がみるみる青ざめていく。
「……大変申し訳ございません」
明らかに動揺した声だった。
「今回の件は、ギルド側も依頼担当者も予測できない事態でした。すぐにギルドマスターへ報告し、適切な補償について協議いたします」
そう言って受付嬢は革袋を差し出した。
「ひとまずこちらをお受け取りください」
中には金貨が四枚。
決して多くはない。
「重ねてお詫び申し上げます」
「別にいい」
アウエルは淡々と答え、席へ戻った。
「どうだった? 報酬は?」
リッカが身を乗り出す。
アウエルは何も言わず、金貨二枚をリッカへ、一枚をエリンへ渡した。
「え? これだけか?」
リッカが眉をひそめる。
「追加補償についてはギルドマスターと相談するらしい。しばらく待て」
「あー、なるほど」
リッカは納得したように頷く。
その後、エリンの手元を見て首を傾げた。
「待てよ。なんで俺の方が多いんだ?」
「お前が一番長くブラッドムーンウルフを引きつけてただろ」
「おぉ、サンキュー」
リッカは嬉しそうに笑った。
しばらくして肩を回しながら息を吐く。
「それにしても、まだ身体が痛ぇな……。次の依頼まで少し休むか」
「そうだな。俺もまだ痛いし」
リッカは席を立ち、手を振った。
「じゃあまた来週な」
そう言い残し、ギルドを後にする。
残されたのはアウエルとエリンだけだった。
少し沈黙が流れた後、
「お前、ルーツ魔法が使えたんだな」
アウエルが口を開いた。
「えっ……あ、うん……」
エリンは照れくさそうに頷く。
「戦闘中ずっと回復魔法を使ってただろ。なのに、まだ別の魔法を使うだけのマナが残ってたのか?」
「わ、私、マナだけは多いから……特別なことじゃないよ」
「多いってどのくらいだ?」
アウエルは首を傾げる。
「グラムたちのパーティにいた魔法使いより多いのか?」
「えっと……よく分からないけど……」
「倍くらいあるか?」
「……た、多分」
エリンが恐る恐る答える。
アウエルは思わず眉を上げた。
予想以上だった。
「それだけマナがあるなら、なんで攻撃魔法を使わなかった?」
「わ、私が使える攻撃魔法って初級だけだし……」
エリンは杖を抱きしめる。
「それに狙いを付けるのが苦手だから……使っても役に立てないと思って……」
「だったら練習すればいいだろ」
「で、でもどうやって……」
彼女は視線を泳がせる。
「その……アウエルが教えてくれたりしない?」
「俺が?」
「戦いの後で疲れてるのは分かってるけど……狙い方とかだけでも……」
「うーん……」
アウエルは頭を掻いた。
「正直、魔法は詳しくないんだよな」
「……」
「でもまあ、やってみるか」
エリンの顔がぱっと明るくなる。
「ほ、本当!?」
「ただ今日は無理だ」
アウエルは即答した。
「ブラッドムーンウルフの件でほとんど寝てない。明日にしよう」
「う、うん!」
「朝、城門前で待ってる」
「ありがとう!」
そうして二人はギルドを後にし、それぞれ帰路についた。
翌朝。
アウエルは街門の前で一人待っていた。
首には長袖の上着を引っ掛け、腰には愛用の刀を佩いている。
「お、おはよう……。わ、私、遅れてない?」
背後から聞こえた声に振り返る。
私服姿のエリンが杖を抱えながら小走りでやって来た。
「いや」
アウエルは短く答える。
「行くぞ」
そう言って街の外へ歩き出した。
エリンも慌てて後を追う。
「どこに行くの?」
「人に被害が出ない場所だ」
「?」
「魔法の練習をするなら広い場所の方がいい」
「あ、そっか」
歩きながら、エリンはふと彼の腰に視線を向けた。
「そういえば、一つ聞いてもいい?」
「なんだ」
「どうして刀を持ってきたの?」
「試したいことがある」
アウエルは前を向いたまま答える。
「それに何が起きるか分からない」
「何か起きるかもって……?」
「盗賊だ」
エリンの肩がぴくりと震えた。
「この辺りには結構いる。農民や低ランク冒険者を狙う連中だ」
「ぬ、盗賊……」
「金や荷物を奪うだけならまだマシな方だな」
「え?」
「最悪の場合は誘拐される」
「ひっ……」
エリンの顔が青くなる。
そんな彼女を見て、アウエルは肩を竦めた。
「別に心配するな。慣れてる」
「で、でも……」
エリンは遠慮がちに尋ねる。
「アウエル、まだ疲れてるように見えるけど……戦えるの?」
「問題ない」
即答だった。
エリンは少し迷った後、
「ご、ごめんね。もう一つだけ」
「なんだ」
「どうしてそんなに眠れないの?」
アウエルの足が一瞬だけ止まる。
だが、それだけだった。
「別に大したことじゃない」
彼は再び歩き出す。
「子供の頃から不眠症なんだ」
「……そうなんだ」
それ以上は聞けなかった。
やがて二人は大きな一本木の立つ草原へ辿り着く。
風が草を揺らし、心地よい音を立てていた。
アウエルは木陰へ腰を下ろす。
「よし」
そしてエリンを見る。
「まずは普段通り魔法を使ってみろ」
「う、うん」
エリンは杖を構えた。
小さく息を吸い、
静かな声で詠唱を始める。
すると――
数発の火球が草原を駆け抜けた。
アウエルの目が僅かに見開かれる。
「……待て」
「え?」
「今、どうやった?」
「ど、どうって?」
「詠唱だ」
アウエルは眉をひそめた。
「声が小さすぎる」
「そ、そうかな?」
「普通はもっと大きな声で唱える」
エリンは首を傾げる。
「でも、お父さんとお母さんに教わった通りだけど……」
「魔法は誰に習ったんだ?」
「両親」
「なるほど」
アウエルは少し考える。
「ガイアについて何か聞いたことはあるか?」
「ガイア?」
エリンは首を横に振った。
「ないと思う」
「聞いたことも?」
「うん」
アウエルは黙り込んだ。
ガイアを知らない魔法使い。
そんな話は聞いたことがない。
「やっぱり変かな……?」
エリンが不安そうに尋ねる。
「ああ」
アウエルは正直に答えた。
「普通、魔法使いはガイアを信仰してる」
「信仰?」
「魔法を使うにはガイアの許可が必要だって言われてる」
「許可?」
エリンはますます混乱した顔になる。
「どういうこと?」
「俺も詳しくは知らない」
アウエルは肩を竦めた。
「ただ、魔法を使うには詠唱が必要だろ?」
「うん」
「その詠唱をガイアが聞いて許可を与えるって考えられてる」
「へぇ……」
「だから魔法使いは声に出して唱える」
「でも、そのガイアって何?」
「さあな」
アウエルは興味なさそうに答える。
「世界を創った存在らしいが、証明されたことはない」
そして小さく鼻を鳴らした。
「俺は信じてない」
そう言うと立ち上がる。
「もう一回火球を撃ってみろ」
「う、うん」
エリンは杖を構える。
だがアウエルは手を上げて止めた。
「その前に一つ」
「?」
「詠唱を始めた時、自分の身体の中で何が起きてるか意識してみろ」
「身体の中?」
「マナの流れだ」
エリンは頷いた。
そして再び火球を放つ。
数発の火球が飛んでいく。
「どうだ?」
「マナが身体から腕に流れる感じがした」
「そうか」
アウエルは少し考える。
「じゃあ次だ」
「うん」
「目を閉じろ」
「え?」
「そして詠唱を心の中だけで唱える」
エリンは首を傾げながらも従った。
目を閉じる。
杖を握る。
頭の中で詠唱を唱える。
だが――
何も起こらない。
数秒後。
彼女は目を開いた。
「ダメだった」
「そうか」
「何をしようとしてたの?」
アウエルは少しだけ考えてから答える。
「サイレントマジシャンって聞いたことあるか?」
エリンは首を振る。
「ない」
「まあ、ただの噂だ」
アウエルは肩を竦めた。
「詠唱なしで魔法を使う魔法使いがいるって話」
「すごい……!」
エリンの目が輝く。
「だろうな」
アウエルは頷く。
「魔法使いの弱点は詠唱だ」
「うん」
「何を撃つか相手に分かる」
彼はブラッドムーンウルフとの戦いを思い出していた。
「あの狼が火球を避けられたのも、それが理由かもしれない」
「なるほど……」
「だが、お前は声が小さい」
アウエルは言う。
「それだけでも十分な利点だ」
そして数歩後ろへ下がった。
距離を取る。
「次だ」
「え?」
「今度は俺に向かって撃て」
「えぇっ!?」
エリンが目を丸くした。
「だ、大丈夫なの!?」
「大丈夫だ」
アウエルは刀に手を添える。
「もし怪我しても治してくれればいい」
「そ、そんな簡単に……」
「いいからやれ」
エリンは不安そうな顔をしながらも杖を構えた。
そして火球を放つ。
三発。
火球が一直線に飛ぶ。
アウエルは鞘を握った。
火球が目前まで迫る。
その瞬間――
刀を数センチだけ抜く。
刃が陽光を反射した。
火球が接触する。
アウエルはそのまま刃で火球を受け流し、即座に納刀。
そして次の瞬間。
抜刀。
一閃。
紅蓮の斬撃が空へと駆け上がった。
火の軌跡が青空を裂く。
「わぁっ!?」
エリンが目を見開く。
「い、今の何!?」
「俺の技だ」
アウエルは平然と答えた。
「刀で属性魔法を吸収して鞘に蓄積する」
「えっ」
「溜めた力を攻撃として放つだけだ」
エリンの瞳が輝く。
純粋な尊敬の色だった。
「すごい……!」
「だから遠慮はいらない」
アウエルは再び構える。
「今度は本気で来い」
「は、はい!」
エリンも杖を握り直した。
こうして二人の訓練が始まった。
朝日が降り注ぐ草原で。
魔法使いと剣士の、小さな特訓が。




