衝突 2
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
「目を閉じろ!」
聞き慣れた声が戦場に響いた。
パキッ――
空中で何かが砕ける。
次の瞬間、眩い閃光が炸裂し、周囲一帯を白く染め上げた。
狼の視界が奪われる。
その巨体がよろめいた。
そして――
ドゴォン!
重い一撃が、その顔面を真正面から叩きつけた。
衝撃音が川辺に響き渡る。
そこに立っていたのは、大柄な男だった。
黒い鎧を纏い、左腕には丸盾。
右手には片手用の戦鎚を握っている。
「よう、小僧」
男はにやりと笑った。
「俺たち抜きで始めないって約束しただろ?」
その背後から、すでに落ち着きを取り戻したアウエルが姿を現す。
「エリン。治療を」
「う、うん!」
迷うことなく、エリンはリカのもとへ駆け寄り、杖を掲げた。
淡い緑色の光が灯る。
「……ごめん。私の治癒魔法、そこまで強くないの。傷を塞いで、痛みを少し和らげるくらいしか……」
光がリカの身体を包む。
裂傷はゆっくりと塞がっていく。
だが、狼の尾撃で受けた胸の奥のダメージは残ったままだった。
リカは息を吐く。
まだ重い痛みが胸に残っている。
「……ていうか、なんでこんなに早く来れたんだ?」
困惑したように尋ねる。
「後だ」
アウエルは短く答えた。
「まずはこいつを片付ける」
一瞬の沈黙。
「何かわかったか?」
リカは狼を睨みながら答える。
「……普通の狼じゃない」
「攻撃の途中で動きを変えてくる。途中で軌道を切り替えて、別角度から仕掛けてくるんだ」
アウエルの目が細まる。
(適応してる……? どこまでだ)
無意識に鞘を握る手に力が入る。
狼がゆっくりと立ち上がった。
呼吸は荒い。
その瞳には怒りが燃えている。
そして――
動いた。
先ほどよりさらに速く。
「よし、野郎ども!」
大男が前へ踏み出す。
「構えろ!」
戦鎚を大きく振り上げる。
だが。
狼はその軌道から突如消えた。
跳躍。
完全に無視して飛び越える。
(後衛狙いか!)
アウエルが即座に反応した。
親指で鍔を押す。
抜刀。
鋭い斬撃が空気を裂く。
だが、空を切る。
「……ちっ、速すぎる」
狼は視線すら向けない。
一直線にリカとエリンへ突進する。
エリンはまだ治療の最中。
狼が大きく口を開いた。
「パワーショット!」
森の奥から声が響く。
次の瞬間。
矢が凄まじい速度で飛来した。
ドッ!
狼の身体が数メートル吹き飛ばされる。
惜しくも目は外した。
「ちっ……外した」
影の中から少女が姿を現す。
弓を構えたまま、小さく舌打ちする。
「悪いね、ギル」
狼が唸り、頭を激しく振った。
「バインド」
続いて別の声。
黄金の光が瞬時に狼を包み込む。
光の鎖が脚と顎を絡め取り、その動きを封じた。
弓使いの背後から、赤と茶のドレスを纏った少女が現れる。
その隙を見た瞬間、アウエルが動いた。
刀を鞘へ戻す。
「敏捷強化」
小さく呟く。
次の瞬間――
姿が消えた。
抜刀。
正確無比な突きが狼の目を貫く。
ズブッ!
狼が苦痛の咆哮を上げた。
「エリン、下がれ!」
リカが立ち上がる。
刀を構え、踏み込んだ。
炎が刀身を駆ける。
前脚を狙って薙ぐ。
――ガキィン!
「……は?」
弾かれた。
硬すぎる。
想像以上に、その肉体は頑丈だった。
次の瞬間、拘束が砕け散る。
狼が暴れた。
アウエルはすでに後退し、滑らかに刀を鞘へ戻している。
だが、リカは間に合わない。
ズシャッ!
衝撃が走る。
リカの身体が地面を滑った。
「リカ!」
エリンが再び駆け寄る。
すぐさま治癒を開始する。
大男が魔導士へ視線を向けた。
「ヘレン、グラムは?」
「準備できてる」
ヘレンは冷静に答えた。
狼が再び動く。
狙いはリカとエリン。
「気をつけろ!」
大男が盾を構える。
「ファイアボール!」
三つの火球が連続で放たれる。
だが狼は容易く回避した。
「クイックショット!」
矢が飛ぶ。
外れる。
狼はなお突進する。
目前。
牙を剥き、飛びかかる。
ガァン!
大男の盾がそれを受け止めた。
牙が金属に食い込む。
即座に戦鎚を振るう。
だが狼は離脱し、後方へ跳ぶ。
「ちっ」
その身体が捻られる。
尾が地を薙ぐ。
「パーフェクトウォール!」
大男が強化を発動。
全身が固定される。
尾撃が直撃した。
だが、微動だにしない。
「グラム!! 今だ!」
咆哮が響く。
影から現れたのは、巨大な戦斧を両手で握る巨漢。
グラム。
「筋力強化・ウォリアーズマイト・ウォークライ」
その肉体が膨れ上がるように力を帯びる。
狼の頭部へ一直線。
だが狼は察知し、尾を振るう。
グラムは即座に標的を変更した。
跳躍。
そして――
一閃。
ズバァッ!
狼の尾が宙を舞う。
鮮血が飛び散った。
狼が耳をつんざく咆哮を上げる。
「全員、固まれ!」
グラムが命じる。
隊列が整う。
前衛に大男。
その後ろにグラム。
左右にアウエルとリカ。
後方に少女たち。
狼が動きを止めた。
じっと陣形を観察している。
筋肉が怒りで張り詰める。
牙が剥かれた。
「……完全にキレてるな」
大男が呟く。
そして――
再び動く。
これまでで最速。
「クイックショット!」
外れる。
「ファイアボール!」
外れる。
「ライトニングスパーク!」
雷撃が走る。
だが、それすら避けた。
「……え?」
ヘレンが凍りつく。
「全部避けてる……」
狼は止まらない。
さらに速く。
さらに近く。
跳躍。
大男が盾を構える。
「パーフェクトウォール!」
狼の前脚が盾に乗る。
続いて後脚。
まるで足場にするように――
跳んだ。
大男を飛び越える。
「後ろだ!」
グラムが叫ぶ。
遅い。
狼の爪が魔導士へ迫る。
ヘレンは辛うじて回避。
弓使いがエリンを引き寄せて救う。
狼は即座に反転。
グラムへ爪を振るう。
大男が割って入り、防ぐ。
「グラム、今だ!」
グラムが踏み込む。
戦斧を振り上げる。
決着の一撃。
だが。
狼が一歩退いた。
その瞳が向いた先――
アウエル。
標的を選んだ。
突進。
低く身を沈め、力を溜める。
一直線。
アウエルは動かない。
ただ静かに、鞘に手を添えて待つ。
最後の瞬間。
彼は小さな球を空へ弾いた。
「目を閉じろ」
パキッ。
閃光が炸裂する。
アウエルは目を閉じたまま構える。
静寂。
ほんの一瞬。
そして目を開く。
――遅かった。
身体が宙に浮く。
鋭い痛みが胸を裂いた。
血飛沫が舞う。
「……っ!」
目を見開く。
狼は、無傷だった。
アウエルは凍りつく。
冷たい理解が脳を貫いた。
「……こいつ……」
震える声が漏れる。
「目を閉じたのか……」




