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失われた王子

読んでいただきありがとうございます。


日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。


もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

森はすでに夜に包まれていた。


アウエルたちは、盗賊たちによって完全に打ち負かされていた。


すると、茂みの奥から一人の盗賊が現れた。

その肩には、エリンが担がれている。


「おい、こいつ結構かわいいじゃねえか」


盗賊の一人がそう言いながら、ゆっくりとエリンへ近づいていく。


そして、彼女の顔へ手を伸ばそうとした――その瞬間。


「おい……彼女に触るんじゃねえ」


何度も盗賊に殴られたにもかかわらず、リカはまだ意識を保っていた。


「だったら、どうする?」


盗賊は手を止め、地面に倒れているリカのもとへ歩いていく。


リカの身体には、まだ金色の輪が巻き付いていた。


「何もできねえだろ」


盗賊はリカの髪を掴み、その頭を無理やり持ち上げた。


その目の前に立っていたのは、中年の男だった。


茶色の髪を片側へ流し、左目の下には傷跡がある。


男はリカの頭に巻かれているヘッドバンドに気づいた。


そして、それを乱暴に引き抜く。


「……おい。これ、ホムラの紋章か?」


男はそれをしばらく眺めた。


「お前……結構すげえ奴なんだな」


「こんなもんを人前で身につけてるとはな」


「おい、それを返せ!」


リカは拘束された身体を必死に動かす。


「そいつらのことを悪く言うんじゃねえ!」


「落ち着け……俺も昔のことを思い出したよ」


盗賊は左目の下にある傷を、ゆっくりと指でなぞった。


「奴らは最高の炎使いだった」


「その一方で……本当に厄介な連中でもあったがな」


男は苦い笑みを浮かべる。


「俺にも、いろいろと“プレゼント”をくれたもんだ」


その言葉を聞いた瞬間、リカの身体が固まった。


血が一気に沸き上がる。


「てめぇ……!」


――ドゴッ!


盗賊はリカの顔を地面へ叩きつけた。


そして立ち上がると、他の盗賊たちへ振り返った。


「こいつは俺がやる。残りは牢へ運べ」


「ボス、この男はどうします?」


盗賊の一人が、地面に倒れているアウエルを指差す。


「ん? そいつも牢に入れとけ」


男はアウエルをちらりと見る。


「顔は結構いい。誰かが買ってくれるかもしれねえ」


そのとき、男は何かを感じた。


ぽつり。


水滴が手の甲へ落ちる。


雨だった。


「チッ……早くそいつらを運べ」


「それで、こいつらはどうします、ボス?」


別の盗賊が、倒れている仲間たちを指差す。


「埋めとけ。もう使い物にならねえ」


「それと、できるだけ遠くにしろ。いつ王国の衛兵がが通るか分からねえからな」


「はい、ボス」


盗賊たちはすぐに命令を実行し始めた。


――


洞窟の中。


アウエル、エリン、シルフィーは、それぞれ別々の牢へ入れられていた。


そこに、リカの姿はない。


聞こえるのは、天井から滴り落ちる雨水の音だけだった。


エリンはまだ意識を失っている。


一方、アウエルとシルフィーはすでに意識を取り戻していた。


シルフィーは、手を縛っている縄を何度も引っ張る。


「チッ……これじゃ無理ね」


やがて、彼女はアウエルへ目を向けた。


アウエルは牢の中で床を見つめたまま、静かに座っている。


天井から落ちてくる水滴が、ちょうど彼の頭へ落ち続けていた。


「ねえ……あいつらに殴られすぎて頭がおかしくなったの?」


「ちょっと、何かしなさいよ!」


返事はない。


アウエルはただ黙っていた。


しばらくすると、二人の盗賊が牢の前へやってきた。


そして、エリンの牢の前で立ち止まる。


一人が何本もの鍵を取り出し、牢の扉を開けようとする。


「おい、本当にいいのか?」


「いいんだよ。ボスもいいって言ってただろ」


「それに、お前だって我慢できないだろ?」


「でも……一度使われた奴隷なんて、買う奴がいるのか?」


盗賊の一人が不安そうに尋ねる。


「誰も気づきゃしねえよ」


カチャリ。


牢の扉が開く。


二人の盗賊は、意識を失ったままのエリンへ近づいていく。


「それに……見てみろよ」


一人がエリンの顔を持ち上げ、頬を舐める。


「こいつなら、かなりいい値段になる」


「それに、もし誰も買わなかったら……」


盗賊の視線が、意識を失ったエリンの身体へゆっくりと移る。


「俺たちのものにすればいい」


シルフィーの表情が一瞬で変わった。


彼らが何をしようとしているのか、すぐに理解した。


「やめなさい!」


盗賊の一人がシルフィーを見ると、笑い声を上げる。


「だったらどうする?」


「お前に何ができるってんだよ」


「そうそう。そこで大人しく待ってろ。こいつと楽しんだ後で、お前とも遊んでやるよ」


「やめて……お願いだから、彼女に触らないで!」


シルフィーは必死に止めようとする。


だが、盗賊たちは止まらない。


そのままエリンへ手を伸ばしていく。


――そのとき。


「……おい」


アウエルがようやく立ち上がった。


そして、牢の柵へゆっくりと歩み寄る。


「お前たちのボスと話がしたい」


盗賊たちは動きを止め、牢の中にいるアウエルを見る。


彼の髪は、頭上から落ち続ける水によって完全に濡れていた。


「俺たちのボスと話したい?」


一人が聞き返す。


「ああ」


アウエルは冷静に答えた。


「奴隷を買いたい。せっかくの客を無駄にはしないだろ?」


盗賊たちは互いに顔を見合わせる。


そして――


「ハハハハハ!」


一斉に笑い出した。


「お前、頭がおかしくなったのか?」


「身の程を知れ、ガキ」


「お前は俺たちの奴隷なんだぞ。それなのに、別の奴隷を買いたいだと?」


笑い声がさらに大きくなる。


「俺たちはお前の持ち物を全部取り上げたんだぞ?」


「一体どうやって奴隷を買うつもりだ?」


それでも、アウエルは落ち着いていた。


「本当に、全部取り上げたのか?」


「なら……どうして俺のペンダントがまだポケットに入っている?」


盗賊たちの笑い声が止まった。


「……何?」


二人は慌ててアウエルの牢へ駆け寄る。


一人が柵越しにアウエルの服を掴み、ポケットを探る。


そして、何かに触れた。


それを引き抜く。


それは、月の形をしたペンダントだった。


クリスタルで作られており、透明感のある白と青の色をしている。


「へえ……これで奴隷が買えると思ってるのか?」


「どうして信じない?」


アウエルはまっすぐに盗賊を見る。


「今すぐ、ボスに聞いてみればいい」


盗賊たちは再び顔を見合わせる。


そして、急いでその場を離れていった。


「ちょっと、何をしたのよ?」


シルフィーが尋ねる。


「それに……あのペンダントは何?」


「黙ってろ」


アウエルは再び座り込む。


「俺が自分で片付ける」


――


洞窟の別の場所。


そこにある私室では、リカが椅子に縛り付けられていた。


その周囲には、何人もの盗賊が立っている。


リカの身体は、無数の打撲傷で覆われていた。


そして、盗賊のボスもその場にいた。


椅子に座り、ワインの入ったグラスを傾けている。


「お前、なかなか大したもんだな」


ボスはリカへ声をかける。


「これだけやられて、まだ意識があるとはな」


男は立ち上がる。


そして、腰から短剣を抜くと、リカへ近づいていく。


「さて……あとどれだけ持つか、試してみるか」


短剣を振り上げる。


そして――


「ボス!」


扉が開き、二人の盗賊が慌てて入ってきた。


「ボス!」


男は振り上げた短剣を止める。


そして、長いため息を吐いた。


「入ってくる前にノックしろって言わなかったか?」


優しい口調だった。


「あっ……す、すみません、ボス」


「申し訳ありません。でも、重要なことを伝えに来たんです」


「重要なこと?」


ボスの声は依然として穏やかだった。


「俺の楽しみを邪魔してまで伝える価値がある、重要なことってのは何だ?」


二人の盗賊は、不安そうに顔を見合わせる。


「そ、その……すみません」


「奴隷の一人が……別の奴隷を買いたいと言ってます」


部屋全体が、一瞬静まり返った。


そして――


「ハハハハハ!」


全員が一斉に笑い出した。


「おい、お前ら馬鹿なのか? 奴隷が奴隷を買いたいだと?」


「いや、本当なんです!」


二人は慌てて言い返す。


「こいつを使って支払うと言ってます!」


そう言って、ペンダントを取り出し、部屋の中へ見せる。


「おいおい、まさかペンダント一つで奴隷が買えると思ってるのか?」


「それは分かってます! でも、そいつがボスに聞けと言ったんです!」


「……俺に?」


ボスの笑いが止まった。


盗賊の手からペンダントを取り上げる。


最初は何気なく眺めていた。


だが――


表情が変わった。


クリスタルを細かく調べる。


形を確認する。


そして、指に力が入る。


数秒間。


男は何も言わなかった。


やがて、その額に汗が浮かび始める。


「……見せろ」


突然、声が真剣なものへ変わった。


「そいつを見せろ。今すぐだ!」


二人の盗賊は慌ててボスを牢へ案内する。


「ボス、こいつです」


一人が牢の中にいるアウエルを指差す。


ボスは一歩、アウエルへ近づく。


そして、ペンダントをアウエルの目の前へ掲げた。


「おい、ガキ……このペンダントをどこで手に入れた?」


「なぜ教える必要がある?」


アウエルは答える。


「重要なのは、これを代金として受け取るかどうかだ」


「ふざけるな」


ボスは牢の柵を掴む。


「俺の質問に答えろ」


「普通の人間が、こんなものを持っているはずがない」


その声が、冷たくなる。


「それに……お前みたいな奴がこれを持っていることが、どれだけ危険なことか分かっているんだろうな?」


アウエルは黙ったままだ。


「このペンダントは、王族のものだ」


ボスはアウエルをまっすぐ見つめる。


「もし王国の衛兵が、これを持っているところを見つかったら……」


そこで一度、言葉を止める。


「どこで手に入れたのか聞かれるだけじゃ済まねえ」


「お前は殺される」


ボスは柵越しにアウエルの服を掴み、その身体を柵へ叩きつけた。


「だから答えろ。これを一体どこで手に入れた?」


盗賊が険しい表情で問い詰める。


アウエルは、相変わらず冷静だった。


「俺は、このペンダントを見つけたなんて一言も言っていない」


ボスの動きが止まった。


「……何?」


水滴が、アウエルの髪から落ち続けている。


ボスはアウエルを見つめた。


その表情に、初めて本物の困惑が浮かんだ。


「お前……一体何者だ?」


アウエルは答えない。


ボスの手から、ゆっくりと力が抜けていく。


そして――


あることに気づいた。


アウエルの髪。


頭上から落ち続ける水が、黒く染められていた髪を完全に濡らしていた。


その黒の下から――


かすかな白が浮かび上がっている。


ボスの目が見開かれた。


心臓が早鐘を打つ。


全身から汗が噴き出す。


男は、半分だけ露わになった白い髪を見つめていた。


だが――


無理やり息を整える。


震える手を抑える。


そして、苦々しい笑みを浮かべた。


「……そうか。やっと思い出した」


声は一瞬だけ震えた。


だが、すぐに無理やり平静を取り戻す。


「お前が死んだって噂……俺は本当だと思ってた」


「だが……どうやら、間違った噂を信じてたみたいだな」


「お前は死んだんじゃない……」


「行方不明になったんだ……」


苦い笑みが、無理やり引きつったようにさらに広がっていく。


「そうだ……」


ボスはアウエルの目をまっすぐ見つめる。


「お前が――失われた王子だ」


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