エルフ王国 - 17
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
シルフィーたちは、警備兵に細心の注意を払いながら、静かに王宮へと忍び込んでいた。
先ほどリスの使い魔が通った道を、そのまま辿っていく。
何度か角を曲がったところで、ようやく目的の廊下へと辿り着いた。
シルフィーは、何の変哲もない石壁の前で足を止めた。
「ここだ」
シルフィーが小声で呟く。
「よし。でも、隠し扉はどこにあるんだ?」
リカが眉をひそめる。
「待って。ちょっと時間をちょうだい」
シルフィーは目を閉じ、先ほどリオルが押していた石の配置を正確に思い出す。
そして、一つずつ。
リオルが押していた順番と同じように石を押していく。
すると――
ゴゴゴゴ……。
低い轟音が廊下に響き渡った。
石壁がゆっくりと横へと開いていく。
「あった……」
シルフィーが小声で呟く。
「行こう」
四人は中へと足を踏み入れた。
全員が入った瞬間、石の扉が背後で閉じる。
その先には、細く長い通路が続いていた。
壁に取り付けられた薄暗い明かりが、かろうじて通路を照らしている。
しかし、その先は闇に覆われ、何も見えない。
リカが剣に火を灯した。
オレンジ色の炎が揺らめき、石壁を照らし出す。
シルフィーも矢を番える。
「気をつけて」
「俺たちの予想が正しければ、この先にいる枢機卿が探知魔法を使っているはずだ」
「つまり、もう俺たちが中に入ったことはバレてるってことだな」
三人は頷き、ゆっくりと前へ進んでいく。
音はない。
枢機卿の姿もない。
それどころか、暗い通路の終わりすら見えない。
全員が周囲を警戒しながら歩き続ける。
その瞬間――
一瞬の出来事だった。
暗闇の中から、棘のようなものがいくつも飛び出してきた。
「危ない!」
四人は身を屈め、それを避ける。
だが、体勢を立て直すよりも早く、今度は壁から太い蔓が伸び、ヘレンへと襲いかかった。
「伏せろ!」
ガキィンッ!
ギルが盾を構え、蔓を受け止める。
そしてシルフィーは、矢を手にしたまま蔓へと斬りつけた。
蔓が切断される。
続けて、シルフィーは矢を放った。
矢は暗闇に包まれた通路の奥へと一直線に飛んでいく。
しかし――
何かに当たった様子はない。
「チッ」
すると、ヘレンが前へ出た。
「ライトニングスパーク」
バチィッ!
稲妻が通路の奥へと走り、一瞬だけ辺りを明るく照らす。
だが、そこにも何もなかった。
見えるのは、ただの石壁だけ。
シルフィーは眉をひそめる。
「臆病者! 出てきて私たちと戦いなさい!」
返事はない。
苛立ったシルフィーは魔法を発動させる。
「出てきて、狼!」
彼女の使い魔が召喚される。
シルフィーはその使い魔を操り、暗い通路を一気に駆け抜けさせた。
三人はその場で待つ。
数秒が過ぎた。
すると突然、シルフィーの表情が強張った。
「どうしたの?」
ヘレンが尋ねる。
「……この先に部屋がある」
「でも……何かがおかしい」
「何が?」
リカが尋ねる。
「使い魔がそこへ入った瞬間……」
「突然、死んだ」
全員の表情が変わった。
「何だって!?」
「うん……私にも何が起きたのか分からない」
「でも……」
「この先に何かがいるのは間違いない」
「慎重に行こう」
四人はさらに警戒を強めながら、前へ進んでいく。
今度は何も襲ってこなかった。
そして――
前方に光が見えた。
部屋だ。
「あそこだ」
「準備しろ」
ギルはすでに先頭へ出て、盾を構えていた。
その先にあったのは、閉ざされた部屋だった。
何もない。
ただ広い、円形の部屋があるだけだった。
四人が中へ入った、その瞬間――
ドゴォンッ!
頭上から巨大な岩が落下してきた。
「俺の後ろへ!」
三人はギルの盾の後ろへと身を隠す。
「パーフェクトウォール!」
ガキィィンッ!
巨大な岩がギルの結界へと激突し、無数の破片となって砕け散った。
もうもうと砂埃が部屋を覆う。
ギルが盾を振り、砂埃を払う。
その直後――
再び攻撃が来た。
今度は、砂埃の中から巨大な拳が飛び出してくる。
「チッ、避けろ!」
四人は散開し、拳をかわす。
ドゴォンッ!
巨大な拳が石の床へと叩きつけられる。
あまりの威力に、床に亀裂が走った。
一瞬だけ、その拳が地面にめり込む。
「なんだ、あれ……?」
リカが呟く。
だが次の瞬間。
それは何事もなかったかのように、地面から拳を引き抜いた。
全員の意識が砂埃の向こうにいる巨大な存在へ向いている中、シルフィーは部屋全体を見渡していた。
そして――
見つけた。
リオル。
部屋の最奥に、静かに立っている。
シルフィーは即座に矢を引き、リオルへ向けて放った。
矢は凄まじい速度で飛んでいく。
しかし――
砂埃の中にいた何かが動いた。
巨大な手が矢の前へ伸びる。
矢はその手によって弾き飛ばされた。
「何っ!?」
やがて砂埃がゆっくりと晴れていく。
その正体が、ついに姿を現した。
巨大なゴーレム。
その身体は、絡み合った巨大な蔓と、巨大な石の塊によって形作られていた。
---
その頃、王宮の別の場所では――
グラムたちが、残る枢機卿たちと対峙していた。
カエルの顔は怒りに歪んでいる。
「チッ……ヴェイン。何をしている?」
「さっきも言ったはずです……」
ヴェインは背中から短剣を抜き、構える。
「王を取り戻すんです」
「何を馬鹿なことを言っている?」
「俺たちは、あなたたちが王の失踪の裏にいると考えている」
「そして、リオルのあの動きを見る限り……」
「俺たちの推測は当たっているようですね」
カエルが一歩前へ出ようとする。
だが――
エルリックがそれを止めた。
「もういい」
冷たい表情で、カエルを見つめる。
カエルは舌打ちしながらも、一歩下がった。
エルリックはゆっくりと一行を見渡す。
「つまり、我々の秘密を知ったということか」
「それで……どうする?」
ヴェインは短剣を下ろした。
「何を言っている?」
エルリックはしばらく黙っていた。
そして、空席となっている玉座へと視線を向ける。
「王は長い間、何もしてこなかった」
「奴らのような下等な生き物が世界中に広がり、愚かさで世界を満たしていくのを放置している」
アシュリーは眉をひそめる。
「下等な生き物……」
「それが、あなたにとって他の種族すべてのことなの?」
「あなたたちは、ずっと他の種族を見下しているだけじゃない」
エルリックは落ち着いた口調で答える。
「彼らを憎んでいるわけではない」
「ただ、事実を述べているだけだ」
「なぜ、我々が彼らと同じように扱わなければならない?」
「彼らが弱いのは、我々の責任なのか?」
ギルが一歩前へ出る。
「事実? 弱い?」
「いったい何を言ってやがる?」
エルリックは表情を変えずに答えた。
「人間は弱い生き物だ」
「簡単に死ぬ」
「寿命も短い」
「そして、その力は我々には遠く及ばない」
「それなのに、なぜか彼らは驚くほど速く数を増やし、世界を自分たちの種族で埋め尽くした」
「王国を築き」
「意味のない戦争を繰り返し」
「同じ過ちを、何度も繰り返す」
「何のために?」
「すべては、自分たちのくだらない楽しみのためだ」
「なぜ、そんな生き物たちがこの世界の大半を占めなければならない?」
「つまり、世界を全部自分たちだけで支配したいってことか?」
グラムが尋ねる。
「王を排除して、この森を少しずつ支配し……」
「最終的には世界そのものを支配するつもりなのか?」
エルリックは迷うことなく答えた。
「違う」
一行は、その答えに驚いた。
「私は王になりたいわけでも、この世界の支配者になりたいわけでもない」
「私が望んでいるのは、優れた種族だけが生きる世界だ」
「誰がこの世界を支配するかなど、私にはどうでもいい」
「それがエルフである必要すらない」
「ただ、頂点に立つ者が……そこに立つに相応しい種族であればいい」
「私の理想とする世界は、エルフだけで満たされた世界ではない」
「本当に生きる価値のある者たちで満たされた世界だ」
「それが一つの種族だけでも……」
「二つでも……」
「三つでもいい」
「数など問題ではない」
「重要なのは、生き残ったすべての種族が、自分たちの力だけで立っていられることだ」
「重荷はない」
「無力な弱者もいない」
「何の役にも立たない者たちのために、誰かが犠牲になる必要もない」
「そして、我々のオーラはその条件を満たしている」
「生命そのものを育むオーラ」
「それこそが、我々がその世界に存在する資格がある証だ」
ヴェインはゆっくりと目を細めた。
「つまり……あなたがダークエルフを憎む理由は、それか?」
エルリックは真っ直ぐな表情で答える。
「そうだ」
「彼らのオーラは、我々のものとは正反対だ」
「周囲にあるものすべてを腐らせてしまう」
「そんなものを、この世界が必要とする理由がどこにある?」
「あなたも同じだ」
エルリックはグラムを指差した。
「人間には特別なものなど何もない」
「他の種族なら、人間にできることはすべてできる」
「いや……人間よりも優れている者すらいる」
「ならば、なぜこの世界に人間が必要なんだ?」
「なぜ、この世界はそんな弱い生き物を必要とする?」
「なぜ、彼らを排除して、優れた種族だけの世界にしない?」
「弱い生き物に構うことなど、何の意味もない」
「ただ我々の資源を浪費するだけだ」
「なぜ、最も役に立たない種族を守るために、貴重な資源を使う?」
「その資源を、すでに力を持つ者たちのために使ったほうがいいとは思わないか?」
「私の目的は単純だ……」
「弱いという概念そのものが存在しない世界を作ることだ」
グラムは斧を握る手に力を込めた。
「……そんな世界が、いったい何だっていうんだ?」
「本当にそんな世界を望んでいるなら、すべてを平等にすればいいだろ」
「なぜ弱い者を排除する必要がある?」
「弱い者たちを、強くすればいいじゃないか」
「その弱い種族を、優れた種族の一つにすればいい」
「種族が遅れているなら――」
「導けばいい」
「教えればいい」
「強くなるための機会を与えればいい」
「それが、王がいつも言っていたことだ」
エルリックが答える。
「そして、今でもそう考えているエルフはいる」
「本当に、私の邪魔をするのが得意な連中だ」
「だが、答えは簡単だ」
「それには長い時間と力が必要になる」
「そして、その結果が我々の望むものになる保証もない」
「ならば、価値のないもののために資源を浪費する必要がどこにある?」
「不確かなもののために、無限の時間と資源を賭ける必要があるのか?」
「彼らを排除したほうが早い」
「たとえ結果が悪かったとしても、最終的に残るものは同じだ」
「生き残るのは、優れた種族だけ」
「彼らは他者の助けなどなくても生きていける」
「誰も、誰かに頼る必要がない」
「そうすれば、より強い世界を築ける」
グラムは斧を握る手に、さらに力を込めた。
「……違う」
「そんなやり方で、強い世界なんて生まれない」
「そこにあるのは、ただ……より孤独な世界だけだ」
「誰かを救う価値がないと決めた瞬間」
「お前はもう、自分が弱いと呼んでいる奴らより弱くなっている」
ヴェインはしばらく黙っていた。
そして、再び短剣を構える。
「……どうやら、もう話し合いだけでこの問題を終わらせることはできないようですね」
エルリックは小さく息を吐いた。
「……そのようだな」
「ならば――」
「いいだろう」
「それがお前たちの答えなら……」
エルリックは手を掲げる。
「証明してみろ」
「来い」




