エルフ王国 - 16
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
翌朝。
ヴェインは一人で王宮へ続く道を歩いていた。
王宮の入口に立つ衛兵たちは、いつものように彼へ挨拶をする。
誰も彼を呼び止めない。
誰も何も疑っていない。
ヴェインも笑顔で挨拶を返し、そのまま王宮の廊下を進んでいく。
やがて、彼は玉座の間へと辿り着いた。
そして、扉をノックする。
しばらく沈黙が続いた後、四人の枢機卿の一人が声を上げた。
「入れ」
ヴェインはゆっくりと扉を開けた。
中では、ちょうど一人の伝令が報告を終えたところだった。
伝令は恭しく頭を下げると、そのまま部屋を出ていく。
扉が閉まる。
そこに残ったのは、四人の枢機卿だけだった。
それぞれが自分の玉座に座っている。
ただし、中央にある最も豪華な玉座――
王の玉座だけは……
空席だった。
左から順に、
装飾の施された帽子を被る、カエル・オーウィン。
肩まで垂れた長い髪を持つ、エルリック・ヴェイルス。
眼鏡を調整している、アレン・ヴァルサー。
そして最後に……
太い髭によって、その表情のほとんどが隠れているリオル・ファーン。
沈黙を破ったのはエルリックだった。
「ヴェイン……今日は何の用だ?」
ヴェインは一歩前へ出ると、頭を下げた。
「閣下……」
「もう一度、あの異邦人たちと話す許可をいただきたく参りました」
「彼らは今も、陛下の失踪について話し合いたいと望んでいます」
カエルはすぐに眉をひそめた。
「またか?」
「その申し出は、すでに却下したはずだ」
「これ以上、彼らの話に付き合う必要はない」
「異邦人なのだ」
「我々にできないことを、彼らに何ができるという?」
ヴェインは頭を下げたまま答える。
「承知しております」
「ですが、彼らはわざわざここまで来て、陛下を助けようとしているのです」
「ただ、あなた方と話す機会が欲しいと言っているだけです」
「もしかすると……」
「……我々が見落としている何かに気づくかもしれません」
カエルは舌打ちした。
「彼らにできることなど何もない」
その頃、ヴェインが枢機卿たちと話している間――
王宮の外では。
シルフィー、ヘレン、リッカ、ギルの四人が、王宮の壁際で静かに待っていた。
だが、彼らだけではない。
そこにはトバリも一緒にいた。
ヘレンは不安そうに辺りを見回す。
「ねえ、本当にこれで上手くいくの?」
トバリは腕を組んだ。
「分からない。昨日ヴェインに言われた通りにするしかない」
シルフィーは王宮を見上げた。
「今頃、ヴェインは枢機卿たちと玉座の間にいるはず」
トバリは頷くと、慎重に王宮の中へ入っていった。
――昨夜。
ヴェインは王宮の簡単な見取り図をテーブルの上に広げていた。
「俺たちの目的は戦うことじゃない」
「王冠を取り戻すことだ」
アシュリーが眉をひそめる。
「取り戻すって……」
「もう王冠の場所が分かっているの?」
ヴェインはゆっくりと首を横に振った。
「いや」
「でも、奴らに王冠の隠し場所を明かさせる方法なら知っている」
全員が身を乗り出した。
「トバリの魔法だ」
ダークエルフが顔を上げる。
「俺の隠蔽魔法?」
ヴェインは頷いた。
「ダークエルフにしか使えない魔法だ」
「完全に自分の存在を消すことができる」
「枢機卿たちの感知魔法でも、君を察知することはできない」
ヘレンが目を瞬かせる。
「本当に?」
「じゃあ、感知魔法には弱点があるってこと?」
「そういうことだ」
「だからこそ、トバリの存在が重要になる」
ギルが腕を組む。
「……それで?」
「トバリには王宮の中を動き回ってもらう」
「その間、何度も魔法を発動したり解除したりするんだ」
「そうすれば、枢機卿たちは何かがおかしいと気づく」
「そして、何が起きているのか確認しに来ることを期待する」
「奴らは、誰かが王宮に侵入したと思うだろう」
「そうなれば、枢機卿たちは王冠が無事かどうか確認しに行くはずだ」
全員が少しずつ理解していく。
そしてヴェインはシルフィーへ視線を向けた。
「ここからがシルフィーたちの出番だ」
「シルフィーには使い魔を使って、枢機卿の後を追ってもらう」
「必要なのは、王冠をどこに隠しているのか突き止めることだけだ」
「場所が分かったら、慎重に王冠を回収する」
「その間、グラムたちのチームには他の枢機卿を足止めしてもらう」
「その隙に、君たちは王冠を回収するんだ」
「王冠を手に入れたら、あとは王を探す」
「そして、王を取り戻せば――」
ヴェインがさらに話そうとしたところで、アシュリーが遮った。
「ちょっと待って、ちょっと待って」
「そもそも、どうして枢機卿たちが王冠を持っているって、そこまで確信してるの?」
「もし間違っていたらどうするの?」
アシュリーは続ける。
「それに、枢機卿たちと戦うつもりなの?」
「私たちは、あいつらがどんな力を持っているのかすら知らないんだよ」
「もし、この作戦が失敗したらどうなるの?」
ヴェインはしばらく黙った。
そして、笑顔で答えた。
「その時は――」
「俺たちは死ぬ」
「ええっ!?」
トバリでさえ、驚いたようにヴェインを見つめた。
「うん、分かってる」
「全部めちゃくちゃで、正気とは思えない作戦だってことくらい」
ヴェインは目を伏せる。
「でも、何もしないことのほうが危険なところまで来ている」
「それに、君たちがまだ知らないこともたくさんある。俺には話せないこともあるんだ」
「でも、それじゃ――」
「いいよ」
シルフィーが遮った。
そして、ヴェインを真っ直ぐ見つめる。
「ヴェイン。本当に……上手くいくんだよね?」
ヴェインは頭を掻いた。
「まあ……他に方法はない」
「全部、計画通りにいくことを祈ろう」
短い沈黙の後――
シルフィーは頷いた。
「……じゃあ、やろう」
――そして現在。
シルフィーたちは、まだ合図を待っていた。
「ねえ、どうしてヴェインの作戦をそんなに信じられるの?」
ヘレンが小声で尋ねる。
シルフィーは王宮の入口へ目を向けた。
「……正直、分からない」
「私だって、この作戦は無茶だと思ってる」
「でも、今は他に方法がないと思う」
「今の枢機卿たちは、明らかに怪しいから」
「それに……ヴェインが理由もなく、みんなの命を賭けるようなことをするとは思えない」
同じ頃。
トバリはヴェインに言われた通り、王宮の中を歩き回っていた。
魔法を発動する。
――存在が消える。
そして解除する。
――再び現れる。
また消える。
トバリはそれを繰り返しながら、静かに廊下を進んでいく。
そして、ある廊下へ辿り着くと――
再び魔法を発動した。
――玉座の間。
ヴェインは変わらず、枢機卿たちと話を続けていた。
その時。
リオルが何かを感じ取り、目を細めた。
そして、他の枢機卿たちへ何かを囁く。
「すまない、ヴェイン。少し用ができた」
「君は他の者たちと話を続けてくれ」
そう言って、リオルは部屋を出ていった。
同時に、ヴェインはポケットの中に隠していた小さな虫を、そっと指でつまんだ。
――シルフィーたち。
ポケットに入れていた虫が、ピィッと鳴った。
シルフィーはすぐに笑みを浮かべる。
「……合図だ」
ヘレンが目を瞬かせた。
「え? 本当に計画通りにいったの?」
「うん。どうやらね」
「でも、ここからやることがたくさんある」
シルフィーは別の使い魔を召喚した。
それは一匹のリスだった。
彼女は目を閉じ、そのリスを操り始める。
リスはすぐに王宮の中へ駆け込んでいった。
その目を通して――
シルフィーは、廊下を急いで進むリオルの姿を見ていた。
やがて、リオルは何の変哲もない壁の前で立ち止まる。
そして、指でいくつかの隠された石を、決められた順番に押していく。
すると――
壁の一部がゆっくりと横へ開いた。
シルフィーの目が見開かれる。
「えっ!?」
「シルフィー、どうした?」
仲間たちが尋ねる。
「そこに……」
「隠し扉がある」
「今、中に入った」
「じゃあ、枢機卿たちは本当に王冠を持ってるってこと?」
リッカが尋ねる。
「分からない」
「でも、リオルが入った直後に扉が閉じちゃった」
シルフィーは魔法を解除し、目を開いた。
「でも……これで一つだけ分かった」
「自分たちで確かめるしかない」
リオルを隠し扉まで追おうとする前に、シルフィーはポケットの中にいる虫を指で押した。
――ヴェインの側。
虫が鳴く。
ヴェインは笑みを浮かべ、そのまま枢機卿たちとの会話を続ける。
「彼らがあまり役に立たないことは分かっています」
「ですが、少しでも力を借りられるなら、何も問題はないでしょう?」
「彼らの助けは小さなものかもしれません」
「ですが、陛下を探す時間を少しでも短くできるかもしれない」
アレンがようやく口を開いた。
「ヴェイン。なぜそこまで、その異邦人たちが我々の助けになると思った?」
「我々では王を見つけられないとでも思っているのか?」
「いえ、そういう意味ではありません」
「彼らは我々について何も知らないかもしれない」
「ですが、少しだけ情報を共有するくらいなら、問題ないでしょう?」
すると、エルリックがすぐに口を挟んだ。
「駄目だ」
「もう十分だ」
「奴らにできることなど何もない」
「自分の仕事に戻れ、ヴェイン」
「……そうですか」
「では、私にできることはなさそうですね」
そう言いながら、ヴェインはもう一つのポケットに入れていた虫を指でつまんだ。
ピィッ――!
大きな音が鳴り響く。
「今のは何だ?」
枢機卿たちが驚く。
「何でもありません」
カエルの表情が険しくなる。
「ヴェイン……一体、何を企んでいる?」
彼は四人の枢機卿を一人ずつ見つめた。
「何も」
「ただ、あなた方にはもう少しここにいてもらいたいだけです」
――昨夜。
リッカが突然、手を上げた。
「でもさ、俺たちは枢機卿たちを足止めするんだろ?」
「どうやって王宮に入るんだ?」
「正面からじゃ、絶対に入れてもらえないぞ」
ヴェインは笑った。
「それについては、もう答えがある」
そう言って、ポケットから紫色の結晶を取り出した。
「転移魔法だ」
――その頃。
グラムたちのチームも、ヴェインからの合図を待っていた。
ヴェインが虫をつまんだ瞬間――
こちらの虫も鳴き声を上げる。
「これが合図だよね?」
エリンが尋ねる。
「ああ、そのはずだ」
グラムが答える。
「戦闘の準備をしろ」
その瞬間、アウエルが手の中で転移魔法を発動させた。
次の瞬間――
四人の姿が、一瞬にして玉座の間へ転移する。
全員が戦闘態勢を取った。
枢機卿たちは驚愕の表情で立ち尽くしている。
カエルの顔が怒りに歪む。
「チッ……ヴェイン、これはどういうつもりだ?」
ヴェインはゆっくりと振り返る。
「さっきも言ったでしょう……」
背中から短剣を抜き、構える。
「王を取り戻すんです」




