エルフ王国 - 15
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
翌朝。
三人はダークエルフの村へ続く道を歩いていた。
グラムはニヤリと笑いながら、ヴェインに視線を向ける。
「なあ……これからは『陛下』って呼んだほうがいいのか?」
ヴェインは気まずそうに笑った。
「いやいや、やめてくれ」
「今の姿でそんな呼び方をされたら、余計にややこしくなる」
「ヴェインでいいよ」
グラムは小さく笑った。
「それにしても……本当に騙されたよ」
「まさか、俺たちを案内してたのが国王本人だったとはな」
「まあ……俺も、君の友人がこんなに早く見抜くとは思わなかったけどね」
ヴェインはアウエルを見る。
グラムも笑いながらアウエルに視線を向けた。
「そりゃ、この依頼に向いてる奴なんて、他にいないだろ」
そう言われても、アウエルは何も言わなかった。
しばらく歩いたあと、グラムが再び口を開く。
「でも、それなら国王のお前は、枢機卿たちが外の人間を嫌ってるって、前から知ってたんだろ?」
「だったら、どうして止めなかったんだ?」
「せめて枢機卿を入れ替えるとかさ」
ヴェインは後頭部を掻いた。
「俺は……そういうことをする人間じゃないんだ」
「昔から、できるだけ穏便に解決するほうを選んできた」
「だから、あいつらには警告した」
「理解してくれると思ってたんだけどね」
ヴェインは苦笑した。
「……どうやら、それだけじゃ足りなかったみたいだ」
「それに……」
「考え方が気に入らないからって、簡単に枢機卿を解任するわけにもいかない」
グラムはため息をついた。
「でも、あいつらが今回の件の黒幕だって証拠はまだないんだろ?」
「今ここで解任なんてしたら、余計に問題が増えるだけだ」
「その通り」
「だから、まずは話し合ってみるつもりだ」
「もしまた君たちと話すよう説得できれば、俺たちがまだ見つけられていない証拠を見つけられるかもしれない」
ヴェインは微笑んだ。
「ただ、あいつらと話すのは明日にする」
「今日はまず、村を手伝おう」
三人はそのままダークエルフの村へ向かって歩き続けた。
村に到着した瞬間、グラムは足を止めた。
想像していた以上に、被害は酷かった。
いくつもの小屋が崩れ落ちている。
地面には黒く焦げた跡が残り、壊れた柵があちこちに散らばっていた。
ダークエルフたちは黙々と家を修理している。
子供たちは自分の身体ほどもある木材を運んでいた。
誰も文句を言わない。
誰も泣いていない。
ただ、壊れたものを直している。
グラムはゆっくりと拳を握った。
「くそ……村人をさらうだけだと思ってた」
「まさか、村全体をこんなに滅茶苦茶にするとはな……」
ヴェインは静かに周囲を見回した。
「うん……たぶん、探し回ったんだと思う」
「あの毒キノコを探すためにね」
「だから、家までひっくり返したんだろう」
グラムは眉をひそめる。
「ってことは……また誰かを毒殺するつもりなのか?」
「俺もそう思う……」
ヴェインの表情が暗くなる。
「そして今回は……君たち全員が狙われているんだと思う」
グラムは無理やり笑った。
「まあ、ダークエルフたちがさらわれるのを止められたんだから、それだけでもよかっただろ?」
「だからといって、俺たちが安全とは限らない」
アウエルがようやく口を開いた。
「枢機卿たちは、すでにこのことを知っているはずだ」
「そして、俺たちを黙らせるために、別の手を考えている可能性もある」
三人が村の中を歩いていると、一人のダークエルフがこちらへ近づいてきた。
トバリだった。
「おお……陛――」
トバリは、ヴェインの後ろにアウエルとグラムがいることに気づいた瞬間、言葉を止めた。
「……ヴェイン。どうしてここに?」
「大丈夫。二人とも、もう事情を知っている」
トバリは目を瞬かせた。
「知っている?」
ヴェインは困ったように笑った。
「ああ。まさか、こんなに早くバレるとは思わなかったよ」
「まあ、とにかく今日は村の手伝いに来ただけだ」
トバリは小さくため息をついた。
「……そうか。なら、手を貸してくれ」
それからトバリは、三人にやるべきことを説明した。
壊れた家を修理しながら、アウエルは自分の推測をトバリに話した。
話を聞き終えたトバリは、その場で固まった。
「待て……つまり……」
「さらわれた子供たちは、奴隷として売るために連れていかれたんじゃない」
「奴らは……」
「……あのキノコを育てるために、子供たちを連れていった」
アウエルは小さく頷いた。
トバリの呼吸が次第に荒くなる。
「じゃあ……」
「あの子たちは……まだ生きているのか?」
アウエルはしばらく黙った。
「……それは保証できない」
「でも……俺は、生きているとは思わない」
トバリはゆっくりと顔を伏せた。
「だから……またこの村を襲ったのか」
「もしかしたら、もう死んでいて……キノコだけが必要になったのかもしれない」
トバリは歯を食いしばった。
そして、拳を壊れた木の壁へ叩きつける。
「くそっ!」
壁にひびが走った。
ヴェインは目を伏せる。
「……すまない」
「俺がもっと早く動いていれば、こんなことにはならなかったかもしれない」
「奴らがこんなことをする前に、止めるべきだった」
トバリはすぐに首を横に振った。
「違う」
「お前のせいじゃない」
「悪いのは……奴らだ」
「あのクソったれな枢機卿どもだ」
長い沈黙のあと、トバリはヴェインを真っ直ぐ見つめた。
「だが、一つ聞かせてくれ」
「本当に……あいつらと話せば、すべてが変わると思っているのか?」
ヴェインはすぐには答えなかった。
「……分からない」
「俺たちが知っているのは、あいつらが外の人間を……特に君を嫌っていることだ」
「ダークエルフのことだって、何年も嫌っている」
「でも、だからといって……今回のすべての黒幕があいつらだという証拠はない」
「今ここで疑いをかけても、あいつらは何もかも否定するだけだ」
「だから、まずは話す」
「運が良ければ、何か掴めるかもしれない」
「……それで、失敗したら?」
ヴェインは視線を逸らした。
「その時は……別の方法を探す」
トバリは疲れたようにため息をついた。
「お前はいつもそうだ」
「いつも待つ」
「いつも希望を持つ」
「いつまであいつらに時間を与えるつもりだ?」
「お前は、あの枢機卿どもを止めるために何もしようとしなかった」
トバリは一歩近づく。
「お前は国王だ」
「何も行動を起こさないまま、どうやってこの森を守るつもりなんだ?」
その言葉に、ヴェインは黙り込んだ。
しばらくして、ようやく口を開く。
「……分かってる」
「でも……行動を起こすことが、本当に最善なのか分からないんだ」
ヴェインは俯いた。
「ヒイロが魔王から世界を救ったことは知っているだろ?」
ヴェインは自分の手を見つめた。
「でも……その代償はどうだった?」
「魔王の残党は今も世界中に散らばっている」
「盗賊たちは、小さな村を襲い続けている」
「人々は今も苦しんでいる」
ヴェインの声が少しずつ小さくなる。
「……あいつの犠牲は、本当に世界を救ったのかな?」
「ヒイロが望んでいたのは、世界を救うことだった」
「すべての種族を救いたかった」
「でも、そのすべてを止めるために……結局、あいつは自分自身を犠牲にした」
「自分が犠牲にならずに済む方法は、本当になかったのか?」
「世界には……まだヒイロが必要だったはずなのに」
「俺は何度も考えるんだ……」
「もし、あいつのような人間ですら、苦しみのない世界を作れなかったのなら……」
「俺みたいな人間に、一体何ができるんだって」
村に静寂が広がった。
「……でも、その一方で」
「何もしないことが間違いだってことも分かってる」
「俺が迷っている間にも、毎日誰かがその代償を払っている」
ヴェインはゆっくりと目を閉じた。
「でも……行動したからといって」
「何かが変わるとは限らない」
「もし、何も変わらないのに……誰かを犠牲にしてしまったら?」
「もし俺が成し遂げられることが……また意味のない犠牲を生むだけだったら?」
その声は、今にも消えてしまいそうだった。
「……もう、誰にもヒイロのようになってほしくない」
「別に、あいつの犠牲が無意味だったと言いたいわけじゃない」
「ただ……一人の犠牲だけが答えになるような世界にはしたくない」
「枢機卿たちを一方的に解任すれば、民衆の反発を招くだろう」
「……そして最終的には、もっと大きな争いに発展するかもしれない」
「……どこまで大きな争いに発展するのか、俺たちには分からない」
トバリは黙ってヴェインを見つめていた。
ヴェインがなぜ、これほどまでに行動を躊躇うのか。
トバリにも、ようやく分かった。
ヴェインは戦うことを恐れているわけではない。
人が死ぬことを恐れているのだ。
そして……その犠牲を払ったところで、世界が何も変わらないことを。
長い沈黙のあと、ヴェインはかすかに笑った。
「……でも、約束する」
「もし、この話し合いが失敗したら……」
「その時は、別の方法を見つける」
「……たとえ、自分自身を犠牲にすることになっても」
トバリは静かに言った。
「それで十分だ」
「ただし、今回は何もかも一人で背負うな」
ヴェインは微笑んだ。
「……努力するよ」
それから三人は、再び村の修復作業へ戻った。
――翌日。
パーティーは、ヴェインが枢機卿たちとの話し合いの結果を持って戻ってくるのを待っていた。
ヘレンが首を傾げる。
「ねえ……昨日、あなたたち三人は何をしてたの?」
グラムが何気なく答えた。
「ダークエルフの村を手伝ってただけだ」
「三人だけで? 変なの」
リッカが眉をひそめる。
「そうよ。なんで私たちにも声をかけなかったの?」
ヘレンも腕を組む。
「正直に言うと……」
「ヴェインが村へ向かってるところを、たまたま見かけたんだ」
「だから、そのままついていった」
「特に深く考えてなかったよ」
「本当に?」
「他に何を隠すっていうんだ?」
「それに、村ももうかなり修復された。今は大丈夫だ」
「それなら……よかった」
リッカは安心したように言った。
「で、これからどうする?」
グラムの表情が真剣になる。
「俺たちは、枢機卿について話し合っていた」
「そして今のところ……」
「……やっぱり、最大の容疑者はあいつらだ」
「だから、直接話を聞いてみたい」
「少なくとも、この事件に関係しているのかどうかは分かるはずだ」
アシュリーが目を瞬かせる。
「話を聞くって……?」
「何の証拠もないのに?」
「まさか、証拠もなしに尋問するつもりじゃないでしょうね?」
グラムは気まずそうに笑った。
「正直に言うと……そのつもりだ」
「ほとんど何も証拠がないからな」
「えっ!?」
ヘレンがグラムを睨む。
「つまり……証拠もないのに尋問するってこと?」
「……最悪の作戦ね」
「分かってる」
「でも、待ってるだけじゃ何も進まない」
「そうだな。あとは、うまくいくことを祈るしかない」
「それじゃ、ヴェインを待とう」
「枢機卿たちと話す許可を取れたかどうか……だな」
グラムはテーブルに座っているシルフィーを見る。
「なあ……本当に大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
シルフィーは冷たい声で答えた。
以前とは少し違っていた。
今の彼女は、アウエルから少し離れた席に座っている。
グラムは何か嫌なことが起こるのを避けるため、それ以上は何も言わなかった。
そして、再びヴェインを待った。
だが今回は、いつもより早くヴェインが戻ってきた。
「それで……どうだった?」
グラムが尋ねる。
「……悪い知らせだ」
「断られた」
「何!?」
「どうやら、俺たちがあいつらを疑っていることに気づいたらしい」
「それで、俺たちとの接触を断とうとしている」
「じゃあ、尋問することもできないのか?」
リッカが尋ねる。
「別の容疑者を探す?」
アシュリーも続ける。
「いや」
ヴェインは自信ありげに答えた。
「どういうこと?」
「確かに、あいつらは俺たちと話すことを拒否した」
「でも……許可を取らずに話す方法が一つだけある」
「何それ?」
リッカが尋ねる。
ヴェインは説明しようとした。
しかし、その時になってシルフィーがここにいることに気づいた。
「……待て」
「なんで君がここにいるんだ?」
「本当に大丈夫なのか?」
「チッ……うるさ――」
シルフィーは一瞬言葉を止めた。
そして、声の調子を整える。
「い、いいから……どうやって枢機卿たちと話すのか説明して」
ヴェインは、その口調の変化に戸惑った。
だが、深くは追及しなかった。
「さっき言った通りだ」
「枢機卿たちの許可なしで話す方法が一つある」
「それは……」
ヴェインは一度言葉を止めた。
そして、静かに告げる。
「……力ずく」




