邂逅
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
「ところで、狼について一つ聞きたいことがあります」
アウエルが切り出した。
「ええ……ですが、どこまでお答えできるか」
村長が困ったように頷く。
「大きさは?」
「……すまない。私はまともにその姿を見たことがない」
「では、出現頻度は?」
アウエルは続けた。
村長は少し考え込む。
「最初に現れた頃は……三日に一度くらいの頻度だった」
ゆっくりと言葉を選びながら続ける。
「だが最近は、一週間に一度……時には二週間に一度ほどだ」
アウエルは僅かに目を細めた。
「……つまり、出現頻度が下がっている?」
「そうだと思う」
「なるほど……」
アウエルは小さく呟く。
(情報が足りない……自分で確かめるしかないか)
「今夜、森を調べます」
そう言いながら、すでに扉へ向かって歩き出していた。
「仲間たちは納屋に?」
「ああ。この道をまっすぐ進んで右だ。すぐ見える」
「ありがとうございます。それと――これを預かっていてください」
アウエルは荷車のベルを差し出した。
村長がそれを受け取る。
アウエルはそのまま村役場を後にした。
一人残された村長は、ベルを握りしめながら俯く。
「……ガイアよ、どうかあの子たちをお守りください」
村の反対側、納屋の近く。
「見てください」
オウェルが小さく微笑んだ。
「可愛いでしょう?」
数匹の子羊が身を寄せ合い、柔らかな鳴き声を響かせている。
エリンはしゃがみ込み、そっと一匹を撫でた。
「はい……とっても可愛いです」
リカも腰を落とし、じっと観察する。
「……いい羊だな」
オウェルが瞬きをする。
「わかるんですか?」
「ああ」
リカは気軽に答えた。
「毛並みは綺麗だし、目も澄んでる。それに落ち着いてる。ちゃんと世話されてる証拠だ」
オウェルは少し驚いたように目を見開く。
「……兄が世話してたんです」
「兄?」
リカが視線を向ける。
オウェルの表情が曇った。
「毎朝ここに来てました」
子羊を優しく撫でる。
「動物は正直だから、優しくすれば信じてくれるって」
静かな沈黙。
「子羊たちはいつも兄の後をついて回っていました」
「……狼が来た時」
声が震える。
「兄は、僕を守ろうとして――」
言葉が途切れた。
「……戻ってきませんでした」
納屋の中が静まり返る。
子羊たちの鳴き声さえ弱まったように感じられた。
リカはゆっくり立ち上がり、オウェルの頭に手を置く。
「……なあ」
オウェルが顔を上げる。
「俺たちが来たんだろ?」
「……え?」
「あの狼は、俺たちが片づける」
その声は静かだが、力強かった。
「だから、もう心配しなくていい」
小さく笑う。
オウェルは目を見開いた。
「……本当に?」
「ああ」
リカが笑う。
「それが冒険者ってもんだ」
エリンも優しく頷く。
「私たち、頑張ります」
オウェルの目に涙が滲む。
それを慌てて拭いながら、
「……ありがとうございます」
と頭を下げた。
その時、背後から足音が近づく。
アウエルだった。
「村長とは話した」
二人に告げる。
「黒亀が到着する前に、森を調査する」
「だ、大丈夫ですか?」
エリンが不安そうに尋ねる。
「ああ。許可は取った。だが遭遇しても即撤退だ」
「了解」
リカが力強く頷く。
「狼退治だな」
三人は森へ向かった。
「頑張ってね、お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
オウェルが大きく手を振る。
歩きながら、リカが尋ねた。
「で、村長と何を話してたんだ?」
「大したことじゃない」
アウエルは淡々と答える。
「ただ、狼に妙な点がある」
「妙?」
「最初は三日に一度襲っていた」
「それが?」
エリンが首を傾げる。
「最近は一週間、あるいは二週間に一度」
「それって良いことじゃないのか?」
リカが言う。
「村が襲われる回数が減ってるんだろ?」
「そう見える」
アウエルは頷く。
「だが、それは別の可能性も示している」
「どういう意味だ?」
「狼が村を襲えば、ギルドは冒険者を派遣する」
リカが頷く。
「狼は冒険者を倒す。そして休息を取り、また襲う」
アウエルの目が鋭くなる。
「……まるで理解しているかのように」
リカが足を止めた。
「おい、まさか……」
「まだ仮説だ」
アウエルは言う。
「だが、考えて動いている可能性がある」
エリンの顔が青ざめる。
「そ、そんな……狼ですよね?」
「俺もそう思っていた」
アウエルは低く言う。
「だが、この村には羊が大量にいる。それなのにそちらを襲わず、人間だけを狙っている」
「……」
「何かがおかしい」
やがて三人は森の入口へ辿り着いた。
「ほ、本当に入るんですか……?」
エリンが不安げに呟く。
「大丈夫だ」
リカが先に足を踏み入れた。
「調査だけだろ?」
アウエルも続く。
「痕跡を探せ。爪痕、足跡、何でもいい」
慎重に森を進む。
だが、何も見つからない。
足跡も、爪痕も、獣の気配すら。
「なあ」
リカが呟く。
「村長、本当に狼を見たことあるのか?」
「ない」
アウエルが答える。
「だが六人パーティーを壊滅させたのは事実だ」
「……黒亀がいれば勝てるよな」
「そのはずだ」
「……ああ」
だがリカの声には、わずかな揺らぎがあった。
どれほど歩いただろうか。
森は次第に暗さを増していく。
その時。
「見てください!」
エリンが声を上げた。
二人が駆け寄る。
地面に残された、一つの足跡。
「……狼にしては大きすぎないか?」
リカが眉をひそめる。
アウエルがしゃがみ込んで観察した。
「……熊に近い」
「でも浅いな」
リカが指摘する。
「熊ならもっと沈むはずだ」
「他には?」
エリンは首を振った。
「これだけです」
アウエルは立ち上がる。
「追うぞ」
三人は痕跡を辿った。
しばらく進むと――
「……聞こえるか?」
リカが足を止める。
アウエルが耳を澄ませた。
「……水音?」
木々を抜けた先。
そこには大きな滝があった。
轟音を響かせながら落ちる水。
透き通った川面。
「わあ……!」
エリンが駆け寄り、水辺に足を浸す。
「この村、何でもあるんだな」
リカが感心したように呟く。
「畑に羊、それにこんな場所まで」
「……ああ」
アウエルも頷く。
束の間、穏やかな空気が流れた。
――その瞬間。
アウエルとリカの表情が凍りつく。
殺気。
同時に振り向いた。
リカが刀を抜く。
アウエルが構える。
足音はない。
滝の轟音が、すべてを掻き消していた。
そして。
そこに立っていたのは――
巨大な赤い狼。
全高は四メートルを超える。
鋭く伸びた爪。
湾曲した上顎の牙。
その下には、六本の禍々しい下牙。
「……なんだ、あれ」
リカが息を呑む。
アウエルは目を細めた。
「……嫌な予感はしていた」
ゆっくりと息を吐く。
「だが、当たってほしくはなかった」
その魔獣を見据え、告げる。
「――あれは、ただの狼じゃない」
静かな声が、滝の轟音に溶けた。
「ブラッドムーンウルフだ」




