村
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
村に到着した頃には、すでに午後になっていた。
一見すると、ごく普通の農村だった。
主な生計は農業によって成り立っているらしい。
エリンとリカはすぐに荷車から降り、村の様子を見回した。
アウエルはその後を追おうとしたが、荷車の持ち主に呼び止められる。
「おい、これ忘れてるぞ」
そう言って差し出されたのは、荷車につけるベルだった。
アウエルはそれを受け取り、リカとエリンの後を追った。
「わあ……すごく広い畑ですね」
エリンが感嘆の声を漏らす。
「ああ」
リカも周囲を見渡しながら頷く。
「でも、今って種まきの時期じゃないのか? なんでこんなに作物が少ないんだ?」
その問いに答えるより先に、一人の少年が近づいてきた。
「すみません」
礼儀正しく頭を下げる。
「どういったご用件でしょうか?」
「冒険者ギルドから来た」
アウエルが答える。
「赤狼討伐の依頼だ」
「えっ!」
少年は目を丸くした。
「僕はオウェル、村長の息子です。どうぞついてきてください。父のところへ案内します」
彼に導かれ、村長の家へ向かう。
道中、リカが尋ねた。
「なあ、天気はこんなにいいのに、なんで誰も畑を耕してないんだ?」
「赤狼のせいです」
オウェルは俯きながら答えた。
「本当なら今の時期に種をまくはずなんですが……何度も被害があって、みんな怖がっているんです。畑に出れば襲われるかもしれないって」
「その狼は、いつから現れた?」
アウエルが問う。
「確か……前の季節からです」
やがて村役場へ到着した。
村役場の前では、一人の男が花に水をやっていた。
「父さん!」
オウェルが呼ぶ。
「オウェル」
男は穏やかに微笑み、三人へ視線を向けた。
「私はこの村の村長、オーウェンです。失礼ですが、どのようなご用件でしょうか?」
「ギルドから来た冒険者だよ」
オウェルが答える。
「赤狼討伐のために来てくれたんだ」
その瞬間、村長の表情が強張った。
「……少し、パーティーのリーダーと二人で話せますか?」
すると返事を待たず、リカが突然アウエルを前へ押し出した。
「こいつがリーダーだ」
満面の笑みで言う。
アウエルは驚きと苛立ちを隠せず、リカを睨んだ。
「おい」
「だってお前が一番頭よさそうだし」
小声で囁かれる。
アウエルはため息をついた。
「……そうです。俺がリーダーです」
「オウェル」
村長は息子に向き直る。
「ほかのお二人を村の案内に連れていってあげなさい」
「はい、父さん」
オウェルはリカとエリンに笑いかけた。
「こっちへどうぞ。納屋に可愛い子羊がいますよ」
三人が去り、アウエルは村長と共に館の中へ入った。
「君たちのパーティーは、三人だけなのか?」
村長が切り出す。
「はい」
「なら、この依頼は任せられない。危険すぎる」
だがアウエルは落ち着いたまま答えた。
「分かっています。だからこそ受けたんです」
「……どういう意味だ?」
「赤狼は、これまで多くの冒険者を返り討ちにしてきた。違いますか?」
村長の目が見開かれる。
「な、なぜそれを……?」
「受付で聞きました。六人編成のパーティーが、少なくとも一組消息を絶っている」
村長は眉をひそめた。
「それだけ危険だと知っていて、なぜ挑む?」
「俺たちだけじゃありません。追加で別パーティーが来ます」
「その者たちなら倒せると?」
アウエルは少し考えてから答えた。
「正直、分からない。リーダーにしか会っていないし、仲間の顔も知らない。俺たちのパーティーだって昨日組んだばかりです」
村長の表情に苛立ちが浮かぶ。
「冗談はやめろ。ろくに知りもしない者たちと、命を懸ける気か?」
「もし見間違いでなければ、そのリーダーは金級です」
村長が凍りついた。
「……金級だと?」
「ちらっと見えただけです。隠そうとしていたが、ランクプレートが金色だった」
「偽物かもしれん」
「それはほぼありえない。階級詐称は全ギルドから永久追放です」
それでも村長は首を横に振った。
「だとしても駄目だ」
アウエルは静かに問い返す。
「なら、このまま狼を放置するつもりですか?」
「村人を移住させるつもりだ」
「その話、村人にしましたか?」
村長は言葉を詰まらせた。
「……」
「本気でそうするなら、もう準備が始まっているはずだ」
沈黙。
「金級が来たのは初めてなんでしょう?」
アウエルの声が強まる。
「それなのに断るんですか?」
村長は唇を噛んだ。
「……理由は、息子だ」
「オウェル?」
「違う」
村長は俯く。
「オウェルには兄がいた。オレグという」
拳を強く握りしめた。
「二人はよく一緒に剣を振っていた。冒険者になるのが夢だった」
声が震える。
「だがあの狼が現れた日……兄は弟を守ろうとして死んだ」
重い沈黙が落ちた。
「あの狼は多くの命を奪った」
村長は窓辺へ歩み寄る。
「だが村を捨てることも簡単じゃない。この畑が、皆の暮らしなんだ」
肩を震わせながら続けた。
「私は何も守れなかった。村も、冒険者たちも……そして自分の息子さえ」
アウエルは静かに言った。
「だからこそ、俺たちに任せてください」
「……なぜそこまで言う?」
アウエルはしばし沈黙し、それから答えた。
「冒険者の仕事だからです」
まっすぐ村長を見つめる。
「人を助けること。そして、オウェルを守ること」
一拍置く。
「オレグを取り戻すことはできない。過去は変えられない」
その声は静かだったが、確かな強さがあった。
「でも、これから先は変えられる。だから――この村の未来のために、俺たちに戦わせてください」
村長は目を閉じ、深く考え込んだ。
やがて小さく息を吐く。
「……分かった」
顔を上げる。
「許可しよう。だが、もし戻らなければ村は移住する」
アウエルは安堵の息を漏らした。
「今夜は村役場に泊まるといい。全員をもてなせる余裕はないが、休むには十分だ」
「ありがとうございます」
だがアウエルは首を横に振る。
「ただ、今夜休むつもりはありません」
「何?」
「もう一方のパーティーが来る前に、森を調査します」
村長の目が見開かれる。
「夜の森に入る気か!?」
「大丈夫です」
アウエルは冷静に答えた。
「調査だけです。たとえ狼を見つけても、交戦はしません」




