エルフ王国 - 12
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
祭りも、すでに夜を迎えていた。
いよいよ祭りは終盤に差し掛かっていた。
色鮮やかな花火が夜空いっぱいに咲き誇り、森全体を無数の色で照らしていく。
街の至る所から歓声が響き渡り、人々は皆、夜空を見上げていた。
「……綺麗だね」
また一発の花火が頭上で弾ける。
シルフィーは笑顔を浮かべながら、隣にいるアウエルをちらりと見た。
彼は何も言わず、ただ空を眺めていた。
「あなたが言ったんだよね。私が変わるべきだって」
「だから、頑張ってるよ」
「でも……今日も全然変わってないじゃない」
それでも、返事はない。
シルフィーは頬を膨らませると、再び花火へと視線を戻した。
「……本当に難しい人」
やがて花火が終わり、一行は宿へと戻った。
宿の酒場は、いつも以上に賑わっていた。
人々は祭りを祝い、何度もジョッキを打ち合わせている。
一行も一つのテーブルを囲んでいた。
「あぁ……」
リッカはジョッキを片手に椅子へもたれかかった。
「最高だったな」
「今まで行った祭りの中で一番だ」
そして、また大きく一口飲む。
「……まあ……」
「肉がめちゃくちゃ恋しいけどな」
「文句言わないの。ここじゃ肉料理なんて出ないんだから」
シルフィーが呆れたように言う。
「でも今、すげぇ肉が食いたい」
「うん……私も肉が恋しくなってきたかも」
ヘレンも続けた。
「でも、ここの料理も本当に美味しかったよ」
「分かってる、分かってる」
リッカはまたビールを一気に飲み干す。
「でもなぁ……肉には勝てないだろ?」
その言葉に、皆が思わず笑った。
シルフィーまで微笑んでいる。
そんな中、彼女は静かにアウエルの隣の空いた席へと腰を下ろした。
「それで?」
片手に顎を乗せながら、シルフィーが尋ねる。
「楽しめた?」
「別に」
シルフィーが瞬きをする。
「どうして?」
「あのドラゴンだ」
「まだ気になってる」
すると、ビールを飲み干したグラムが口を挟んだ。
「それは俺も気になってる」
「どこから来たんだ? それに、どうして空中に浮かんで、そのまま去っていった?」
アシュリーが首を傾げる。
「ただ通り過ぎただけのドラゴンじゃないの?」
「通り過ぎただけだとしても、あんな行動をするドラゴンはほとんどいない」
アウエルが答えた。
「ドラゴンは普通、山に巣を作る。そして、巣から遠く離れることもほとんどない」
「そうだな」
グラムも続ける。
「それに、お前は誰かが乗っていたって言ってただろ?」
エリンが驚いたように目を見開く。
「乗ってた?」
「本当に乗ってたってこと? 捕まってたとかじゃなくて?」
アウエルは頷いた。
「ああ。槍の一部が見えた。誰かが乗っていたのは間違いない」
するとギルがジョッキをテーブルに叩きつけた。
「ああ、それと、枢機卿たちから感じたあの悪寒も忘れるな」
「悪寒? 枢機卿? 何の話だ?」
ヴェインが尋ねる。
「ドラゴンが飛び去った後、誰かに見られてるような感覚があったんだ」
グラムが答えた。
「しかも、その方向は枢機卿たちの方だった」
ヴェインは本当に分からないといった顔をする。
「悪寒? 俺は何も感じなかったぞ」
「それは変だな。お前たちはどうだ? 何か変な感じをしなかったか?」
グラムが少女たちへ尋ねる。
アシュリーはゆっくり首を横に振った。
「ううん」
ヘレンも同じように首を振る。
「私も何も感じなかった」
エリンも静かに続いた。
シルフィーも首を横に振る。
すでに酔いつぶれているリッカは、答えるどころではなかった。
「うぅ……もうこの話は明日にしないか……」
「あぁ……頭が痛ぇ……」
皆が笑った。
「うん、リッカの言う通りだね」
シルフィーも続ける。
「今日はお祝いの日なんだから」
「今夜くらい、捜査の話はやめようよ」
アウエルは淡々と答えた。
「早く依頼を終わらせた方がいい」
「君にとってもその方がいいだろ。そうすれば王が戻ってくる。少なくとも、新しい王を迎えられる」
シルフィーの笑顔が消えた。
「どうしてそんなに急ぐの?」
彼女は眉をひそめる。
「ここにいるのがそんなに嫌なの?」
アウエルは彼女を見る。
「俺は冒険者だ」
「俺たちの仕事は依頼を終わらせることだ」
「だから、冒険者が依頼を早く終わらせることの何が悪い?」
「そういうことじゃない!」
「でも、たった一日くらい真面目な顔をするのをやめられないの?」
「今日は王様の誕生日なんだよ」
「みんな今日を楽しもうとしてるの」
「数分おきに捜査の話をして、雰囲気を壊す必要なんてないでしょ」
「俺は最初からこの祭りに参加するつもりなんてなかった」
その言葉で、全員が静かになった。
「お前が俺を無理やり連れてきたんだ」
シルフィーはアウエルを睨んだ。
「じゃあ、私のせいだって言いたいの?」
「いつも陰気な自分を責めたら?」
「私はあなたを変えようとしてるんだよ!」
アウエルは彼女を見つめる。
「俺はお前に助けを頼んだ覚えはない」
「それに、どうして俺の陰気な雰囲気がそんなに気に入らない?」
「今まで誰にも文句を言われたことはない」
「変えるべきなのは、お前の人の見方だ」
「他人を、自分の友人の代わりとして見るのをやめろ」
シルフィーは拳を握り始めた。
「じゃあ……大切な人を恋しく思うことも間違ってるっていうの?」
彼女の肩がわずかに震える。
「あなたは……そんな気持ちを感じたことがあるの?」
声が徐々に小さくなる。
「大切な人が目の前で消えていくのを見たことがある?」
「一人取り残される気持ちを味わったことがある?」
「――一度もないくせに!」
彼女は唇を噛みしめる。
「あなたは私がどんな気持ちだったのか、何も知らない!」
「それなのに……全部忘れろって言うの?」
テーブルの空気が凍りついた。
皆が二人を交互に見つめる。
そしてアウエルは、表情も声色も変えずに言った。
「死んだんだ。もう、お前にできることは何もない」
シルフィーの拳がさらに強く握り締められる。
「な……何を……」
「今、何て言ったの?」
「死んだ。もう何もできないって言った」
「それでもそんなに会いたいなら、どうしてあいつらのところへ行かない?」
次の瞬間――
酒場全体に大きな音が響き渡った。
ドンッ!
誰も反応できないほど一瞬の出来事だった。
アウエルの身体が床へ叩きつけられる。
シルフィーの拳が震えていた。
呼吸は荒い。
アウエルの顔面を、真正面から殴りつけたのだ。
「あなた……」
「よくも……!」
間髪入れず、シルフィーは次の拳を振り上げる。
「殺してやる!」
しかし、拳が振り下ろされる前に、ヴェインが背後から彼女の両腕を掴んだ。
「シルフィー!」
「落ち着け!」
「離して!」
シルフィーは激しくもがく。
「もう一度言ったな、この野郎!」
「絶対に殺してやる!」
アシュリーとヘレンもすぐに加わり、ヴェインと一緒に彼女を引き離した。
酒場は完全な静寂に包まれた。
彼女たちが外へ出ていってから、ようやく皆が息を吐いた。
エリンが急いでアウエルのもとへ駆け寄る。
「ア、アウエル……」
彼女は腫れた頬にそっと触れた。
柔らかな治癒の光が傷を包み込む。
グラムがため息をついた。
「さすがに、言い過ぎじゃないか?」
「特に最後の一言は」
「うん……あれはさすがに酷すぎる」
ギルも続けた。
アウエルは静かに身体を起こす。
「……放っておいてくれ」
話す気がないと察したグラムは、ただため息をついた。
「行こう」
完全に酔いつぶれているリッカを肩に担ぎ上げる。
「少し一人にしてやろう」
ギルも頷き、その後に続いた。
やがて……その場にはアウエルとエリンだけが残った。
「ね、ねえ……」
エリンがようやく口を開く。
「私も……ちょっと言い過ぎだと思う」
少し迷ってから、続けた。
「あなたが、一人取り残される痛みを感じたことがあるのかは分からない」
「大切な人に置いていかれる痛みも……」
「私も兄さんのことを忘れられない」
「もう一度、会いたいって思ってる」
無意識に、服の裾を握りしめる。
「でも……兄さんがまだ生きているのか、それすら分からない」
「ただ……もう一度会いたい」
「だから、彼女が過去を手放せない気持ちは分かる」
エリンはアウエルを見る。
「でも……私はあなたのことも何も知らない」
「あなたも……何かを隠してるんでしょう?」
「……そうでしょ?」
沈黙。
アウエルは答えなかった。
エリンは小さく笑った。
「ごめん」
「聞くべきじゃなかったね」
「おやすみ」
彼女は静かに酒場を出て、自分の部屋へ戻っていった。
アウエルだけが残された。
それからしばらくして、ヴェインが酒場へ戻ってきた。
一人で座っているアウエルに気づくと、何も言わず隣へ腰を下ろした。
「なあ……さすがに彼女には厳しすぎたんじゃないか?」
「それを言われるのは三回目だ」
ヴェインは苦笑した。
「彼女はまだ過去に囚われている」
「このままじゃ、何もできなくなる」
アウエルが言った。
ヴェインは静かに口を開く。
「まあ……お前の言ってることは間違ってない」
「俺だって……お前の意見には賛成だと思う」
アウエルが彼を見る。
「どういう意味だ?」
「お前が言ったことだ」
「……前に進むこと」
「……死んだ人たちのこと」
「俺にも、少し分かる気がする」
ヴェインは自分のジョッキを見つめた。
「図書館司書になる前、俺もお前と同じ冒険者だった」
「ずっと昔の話だけどな」
「エルフだから……仲間が一人、また一人と去っていくのを見送らなきゃならなかった」
彼の顔に淡い笑みが浮かぶ。
「その中には……今でも生きているはずの奴が一人いる」
「でも、もう何年も会ってない」
「どこにいるのかも分からない」
「今も生きているのかどうかすら……俺には分からない」
彼は苦笑した。
「俺も……今は本当に疲れてる」
「……時々……」
「もう一度、みんなに会いたいって思うんだ」
「同じテーブルを囲んで」
「一緒に酒を飲んで」
「昔みたいに笑って」
「もう一度だけ……そんな時間を過ごせたらって」
ヴェインの笑顔がゆっくり消える。
「シルフィーの気持ちは分かる」
「俺も……それほど変わらない」
「俺も……」
「……まだ過去に囚われてるんだ」
「そして……お前の言葉を聞いて、少し考えた」
ヴェインは目を伏せる。
「今すぐ、仲間たちのところへ行った方がいいんじゃないかって」
そして、再び微笑んだ。
「でも……思い出した」
「俺はまだ生きてる」
「だったら、まだ俺にやるべきことが残ってるはずだ」
ヴェインはまっすぐアウエルを見る。
「もう一度言うけど、お前が完全に間違ってるとは思わない」
「ただ……言い方がな」
「それが……」
ヴェインは笑った。
「お前は本当に言葉を選ぶのが下手だな」
「まあ、シルフィーも感情が絡むと大概だけどな」
「だから……話す前に、ちゃんと言葉を選べ」
「いいな?」
そう言って、ヴェインはアウエルの肩を軽く叩いた。
「少し休め」
「俺たちには、まだ王様を探す仕事が残ってる」
ヴェインは出口へ向かって歩き始めた。
「ああ……」
そして、ふと立ち止まる。
「それと、シルフィーのことだけど……」
気まずそうに頬を掻く。
「俺はあいつとかなり長い付き合いだからな」
「しばらくは、お前の顔を見たくないんじゃないかと思う」
「……まあ、頑張れ」
「また明日の朝な」
最後に手を振ると、ヴェインは酒場を出ていった。
再び、部屋は静寂に包まれた。
アウエルは椅子に深くもたれ、長いため息を吐く。
何も言わずに……。
自分の部屋へ戻っていった。




