エルフ王国 - 10
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
朝が来た。
ダークエルフの村へ続く道には、何人もの警備兵が立っていた。
そのうちの一人が、身体を伸ばしながらあくびをする。
「なあ……俺たち、なんでこんなところを警備してるんだ?」
「ここ、誰も来ないだろ」
隣にいた警備兵がため息をついた。
「しかも、あと二日で王様の誕生日祭だぞ」
「一日中こんなところに立ってるより、祭りの準備でもしたほうがいいだろ」
「……そういえば」
男は声を落とした。
「なんで、まだ祭りをやるんだ?」
「王様はまだ行方不明なんだろ?」
もう一人の警備兵は肩をすくめた。
「さあな」
「最近、枢機卿たちの様子も変だしな」
その様子を、木々の陰に隠れたアウエルたちが静かに見つめていた。
全員、音を立てないように倒れた枝を避けながら慎重に進んでいく。
「冗談じゃなかったんだな……」
リッカが小声で呟いた。
「本当に警備兵が多い」
「だから言ったでしょ」
シルフィーが答える。
ヘレンは検問所の向こうに見える村へ視線を向けた。
「でも、どうしてここまで厳重に警備しているの?」
「ここへ来る前に言ってたよね」
「ダークエルフの文明は、エルフの国ほど発展していないんでしょ?」
「それは間違ってない」
ヴェインが答える。
「でも、枢機卿たちは今でもダークエルフが王の失踪に関わっていると考えているんだ」
そう言って、ヴェインはシルフィーを見る。
「ところで、君はなんでまだ俺たちについてきてるんだ?」
「巡回とか、他に仕事はないのか?」
シルフィーは眉を上げた。
「何言ってるの。ちゃんと仕事してるわよ」
「ここにいるのは、私たちの客に何か起こらないようにするためなんだから」
「昨日も同じこと言ってたぞ」
「じゃあ、何が不満なの?」
「客たちは私がいても困ってないでしょう?」
「ね?」
ヘレンが笑った。
「シルフィーの言ってることも間違ってないよ、ヴェイン」
「男女二人の案内役がいるっていうのも、いいんじゃない?」
ヴェインはため息をついた。
「……まあいい」
「それより、喋るのをやめて足元を見ろ」
「転ぶぞ」
彼らは足元に注意しながら、ダークエルフの村へ向かって進んでいった。
警備兵たちの目をかいくぐり、ようやく村へたどり着く。
村の入口には、警備兵の姿はなかった。
だが――
その違いは、すぐに分かった。
エルフの国を覆っていた豊かな緑の森とは違い……
ここには、緑がほとんど存在しなかった。
枯れ果てた木々が大地を覆っている。
土は乾ききっており、一歩踏み出すたびにひび割れた地面が音を立てた。
村全体が、くすんだ黄色と灰色に染まっている。
村人たちは見慣れない者たちが入ってきたことに気づくと、何も言わず家の中へと引っ込んでいった。
ほとんどの家は、今にも崩れそうだった。
腐った木材が、かろうじて壁を支えている。
ヘレンは何も言わず、辺りを見回した。
「……違うとは聞いていたけど」
「ここまでとは思わなかった」
ヴェインが頷く。
「ダークエルフのオーラは、少しずつ植物を枯らしていくんだ」
「それが何世代も続いて……今の村になった」
リッカは家々へ目を向けた。
「でも、なんでみんな隠れるんだ?」
「怖いのよ」
シルフィーが静かに答えた。
「何年もエルフの警備兵から酷い扱いを受けてきたから」
「そのうち……」
「見慣れない服を着た人間を、誰も信用しなくなったのよ」
「それは……かなり酷いな」
アシュリーが顔をしかめる。
シルフィーは頷いた。
「王様は、その数少ない例外だった」
「彼らを公平に扱って、ずっと生活を良くしようとしていた」
彼女は静かな村を見回す。
「だから、私は今回の事件に彼らが関わっているなんて信じられない」
「どう考えても、おかしいもの」
一行がさらに村の奥へ進んでいると、一人のダークエルフが家から出てきた。
短い白髪。
淡い紫色の肌。
「おお、トバリ」
ヴェインが声をかける。
ダークエルフの男は一行を見回した。
そして、人間たちのところで視線を止める。
その表情が一瞬で強張った。
「ヴェイン……ここで何をしている?」
「王の失踪事件を調べるのを手伝いたいという人たちがいるんだ」
「ダークエルフについて話を聞きたいらしい」
「今、この時期に?」
トバリは人間たちへ視線を向ける。
「もうすぐ……」
「……祭りまであと二日しかないのは分かっているだろう?」
「警備兵の巡回も増えている」
「それは分かっている」
ヴェインは笑顔を浮かべた。
「でも、こいつらをこの村に連れてくるなとは言えなくてな」
トバリは黙った。
しばらくの間、何か言いたそうな顔をしていたが……
結局、小さくため息をついた。
「分かった。ついてこい」
「警備兵が村の中まで入ってきて、お前たちを見つける可能性もある」
そう言って、トバリの家へ入っていった。
小さな家だった。
いや――
本当に「家」と呼んでいいのか分からないほど簡素な建物だった。
「ヴェインから俺の名前は聞いているんだろ?」
トバリが言う。
「すまないが、何も出せるものはない」
「大丈夫です。何か出してもらう必要はありません」
グラムが答えた。
「それで、何を聞きたいんだ?」
トバリは腕を組んだ。
全員が自然とアウエルへ視線を向ける。
アウエルが口を開いた。
「毒について聞きたい」
「司書に使われた毒だ」
トバリの目が細くなる。
「つまり、俺たちを疑っているのか?」
「そういう意味じゃない」
アウエルは答えた。
「ヴェインから聞いた」
「使われた毒は、ダークエルフの村でしか手に入らないと」
「だから気になった」
「なぜ、この毒だけがこの村でしか手に入らないんだ?」
トバリは何も答えず、部屋の隅へ歩いていった。
そしてしゃがみ込むと、しばらくして奇妙な小さなキノコを持って戻ってきた。
それをテーブルの上に置く。
「その毒に使われるキノコの一種だ」
「一種?」
グラムが尋ねる。
「どういう意味だ?」
トバリは頷いた。
「この森に自然に生えるものじゃない」
「俺たちのオーラによって生えてくるんだ」
全員の動きが止まった。
「何!?」
「俺たちの周囲の環境は腐っていく」
「そして時間が経つと、こういうキノコが少しずつ生えてくる」
ヴェインがキノコを指差した。
「司書を毒殺するのに使われたのは、『パープル・タン』という種類だ」
「これはまだ小さい。おそらく毒もない」
「毒を持つまで成長するには、かなり長い時間が必要なんだ」
アシュリーが首を傾げる。
「パープル・タン?」
「この毒は少しずつ筋肉を侵していく」
「そして最初に影響を受けるのが舌なんだ」
「だから『パープル・タン』とも呼ばれている」
ヴェインが説明する。
トバリが話を続けた。
「俺たちのオーラは、いろいろな毒キノコを生み出す」
「中には人を殺せるものもある」
「麻痺させるだけのものもある」
「その種類は数十にも及ぶ」
グラムはキノコを注意深く観察した。
「でも、ここへ来る途中では見なかったぞ」
トバリはキノコを手に取った。
「毒を持つまで成長する前に、俺たちが必ず処分しているからだ」
そう言うと、キノコを手の中で握り潰した。
「俺たちのせいで森の動物たちが傷つくのは避けたいからな」
アウエルは、地面に落ちたキノコの残骸を静かに見つめた。
――最初に舌を侵す毒?
――エルフたちは、すでにこの毒の治療法を持っている。
――なら、司書の命などどうでもよく、口を封じるためだけにこのキノコを使ったのか?
――だが、それならなぜ王には使わなかった?
「ヴェイン」
アウエルが尋ねる。
「王は、この毒に耐性があるのか?」
ヴェインは頬を掻いた。
「うーん……そこまでは知らないな」
「でも、王冠の加護で毒への耐性が高くなっていた可能性はある」
「王が毒に侵されたことなんて一度もないから……正直、分からない」
グラムが腕を組む。
「じゃあ、食材はどうだ?」
「調理する前に検査しているのか?」
「もちろん」
「料理人はいつも最高の食材を選んでいる」
「なら、どうして司書の料理に毒が入っていたんだ?」
リッカが尋ねる。
「犯人が最後の瞬間に毒を入れたんじゃない?」
ヘレンが答えた。
「まあ、それは誰にも分からない」
ヴェインが付け加える。
しばらく沈黙が続いた。
やがてアウエルは再びトバリを見る。
「王は、この村によく来ていたのか?」
トバリは黙り込み、それから慎重に答えた。
「ああ。時間があれば、いつも来ていた」
「他に、よくここへ来る人間は?」
「枢機卿か、警備兵くらいだな」
「いや」
アウエルは首を振った。
「一般市民だ」
「ここへよく来る市民はいるのか?」
トバリは再び黙った。
「……いない」
「誰も来ない」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
リッカが尋ねる。
「何か気づいたのか?」
グラムが笑みを浮かべながら続けた。
「分からない」
アウエルは答えた。
「ただ、一つ仮説がある」
「それは何だ?」
ヴェインが尋ねる。
アウエルが答えるより先に――
外から声が響いた。
「全ての家を調べろ!」
全員が凍りついた。
エリンの顔が青ざめる。
「……警備兵?」
トバリは静かに窓へ向かった。
そして外を覗き込む。
「……村に入ってきた」
リッカがすぐに立ち上がる。
「なら、戦おう」
「いや」
トバリが即座に止めた。
「戦う必要はない」
彼は家の奥にある裏口を指差す。
「そこの扉から出ろ」
「村の外へ逃げるんだ」
「俺が何とかする」
「待て、本当に大丈夫なのか?」
「いいから行け」
その声には、反論を許さない強さがあった。
一行は互いに顔を見合わせる。
そして静かに裏口から外へ抜け出した。
村の外へ無事に出たところで、ヘレンが振り返る。
「ねえ、本当にあの人たちは大丈夫なの?」
「分からない」
ヴェインが答えた。
「俺は戻って助ける」
「お前たちは先に戻って、俺を待っていてくれ」
「一人で?」
「大丈夫だ」
誰かが止めるより早く、ヴェインは村へ向かって走っていった。
残った者たちは宿へ戻ることにした。
警備兵に気づかれることなく、無事に宿へ戻る。
グラムがアウエルを見る。
「それで、さっき言いかけていた仮説は何だったんだ?」
アウエルはしばらく考えた。
「……いや、いい」
「何でもない」
「ただ、少し気になることを思いついた」
「でも、改めて考えてみたら……やっぱり変だ」
「でも、あそこではあまり情報を得られなかったな」
ギルが言う。
「そうだな」
グラムも頷いた。
「まだ分かっていないことが多すぎる」
「例えば、あのキノコがダークエルフのオーラでしか育たないなら……」
「犯人はダークエルフの近くにいたってことだろ?」
「トバリは、毒を持つまでには時間がかかると言っていた」
「そういうことになるな」
ヘレンが答える。
アシュリーが大きく伸びをした。
「まあ……」
「今日は一日中、この事件について考えていたんだし」
「頭がおかしくなる前に、少しくらい休もうよ」
「それに、祭りの準備も手伝わないとね」




