エルフ王国 - 9
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
※お知らせ※
本章および前章に関して、用語を「統べる者」から「守護者」に変更しました。
混乱させてしまった場合は、申し訳ありません。
「ああ」アウエルは頷いた。「まだ調べたい場所が一つある」
「どこだ?」ヴェインが尋ねる。
「ダークエルフの村だ」
ヴェインは顎に手を当てた。
「でも、本当にあそこに調べることなんて残ってるのか?」リッカが首をかしげる。
「毒があの村のものだってことは、もう分かってるだろ?」
「それに、もし犯人が本当にダークエルフだったとしても」ギルが続ける。「自分たちの村に隠れるとは思えないけどな」
「その通りだ」アウエルは答えた。「でも、調べて損はないだろう?」
グラムは頷く。
「アウエルの言う通りだ。今のところ、俺たちは片方の話しか聞いていない」
「どんなに小さな手がかりでも、確かめる価値はある」
ヴェインは微笑んだ。
「もう日も暮れるし、今日は宿へ戻ろう。続きは明日だ」
全員が頷き、宿へ戻った。
宿へ着くと、酒場ではすでに女子組が待っていた。
「おっ、帰ってきたね!」アシュリーが声をかける。
「それで?」ヘレンは身を乗り出した。「何か分かったの?」
「もちろんさ」リッカは得意げに胸を張る。
「君たちが観光してる間にな」
ヘレンはくすりと笑った。
「それで、何が分かったの?」
「まず、《森の守護者》が王冠を作ったっていう話は、本当だった」
女子たちは一斉に固まる。
「《守護者》って本当に実在したの!?」アシュリーが驚きの声を上げた。
シルフィは目をぱちぱちさせる。
「えっ……そこが驚くところなの?」
「エルフなら違うでしょうけど」ヘレンは肩をすくめた。「人間はずっと伝説だと思ってたからね」
シルフィはゆっくり頷いた。
「なるほど……それで、それがどう重要なの?」
「その話を聞いて、アウエルが一つの可能性を考えたんだ」
「犯人は神聖魔法を使ったんじゃないかって」
その瞬間、エリンの体がぴくりと震えた。
「し、神聖魔法……で、でも――」
机の下で、誰かが彼女の腕を強くつねる。
「いたっ……」
ヘレンは首をかしげた。
「エリン? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
エリンは無理やり笑顔を作る。
「わ、私……神聖魔法なんて初めて聞いたので……」
「簡単に言えば、人の理解を超えたことすら可能にする、とても強力な魔法だよ」とヴェインが説明する。
「不可能を可能にする魔法だな」とグラムが付け加えた。
「ほとんどの人は伝説だと思っているが」
「でも、《守護者》が実在すると分かった以上……」ヘレンが呟く。
「神聖魔法も存在する可能性はある」グラムが言葉を引き継いだ。
シルフィは腕を組む。
「じゃあ、王様は神聖魔法でやられたとして……誰が使ったの?」
「伝承では」ヘレンが続ける。「使った術者は死ぬんでしょう?」
グラムはため息をついた。
「そこが問題なんだ」
「まだ犯人は分からない」
「それともう一つ」
「司書に盛られた毒は、ダークエルフの村にしか存在しない毒だった」
ヘレンは瞬きをする。
「じゃあ、犯人はダークエルフ?」
シルフィの声が鋭くなった。
「ちょっと待って!」
「ヴェイン、あなたも分かってるでしょ!? ダークエルフがそんなことするはずないって!」
皆の視線が彼女へ集まる。
「王様はずっとダークエルフを支えてくれていた」
「どうして自分たちを助けてくれる唯一の人を攫う必要があるの?」
「それに、仮にそうしたかったとしても……どうやって王宮へ入るの?」
「落ち着いて、シルフィ」ヴェインが宥める。
「誰もダークエルフが犯人だって決めつけてるわけじゃない」
「だからこそ、彼らの話も聞きたいんだ」
「何か重要なことが分かるかもしれない」
「……で、どうやって村まで行くつもりなの?」
シルフィはヴェインを見つめた。
「普通に道を通ればいいだけじゃない」
「そんなに難しいこと?」
「門番がいるのに?」
「……門番?」
「まさか忘れたの?」
「あと三日で何があるか」
「三日後? 何があるんだ?」
シルフィは額を押さえた。
「王様の誕生祭よ」
「三日後にあるの」
「自分の国の王様の誕生日くらい覚えてなさいよ……」
ヴェインは目を見開く。
「えっ!? 本当だ!」
「でも王様はいないのに、まだ祭りをやるの?」
「知らないわよ!」
「枢機卿たちが、王様がいなくても祭りは予定通り開催するって言ったの!」
「だから国中の門に警備兵を増やしたし、ダークエルフの村へ続く道にも兵士を配置したのよ」
ヴェインは少し考え込む。
「……なら、こっそり忍び込めばいい」
シルフィは大きく深いため息をついた。
「時々、本当に分からなくなるわ」
「あなたって天才なのか、それともただの馬鹿なのか」
「ところで、その祭りってどんなものなんだ?」ヘレンが尋ねる。
「食べ物とかある?」
「屋台とか?」
シルフィは思わず笑ってしまった。
「うん。人間のお祭りとそんなに変わらないよ」
「王様がいつも町を歩いてみんなと交流するんだけど……」
「今回はどうなるか分からない」
ヘレンはぱんっと手を叩いた。
「決まりね!」
「明日はダークエルフの村へ行って、その後はお祭りを楽しみましょう!」
「おい待て」ギルが呆れ顔になる。
「お前、本当に依頼を旅行か何かだと思ってないか?」
ヘレンはにやりと笑う。
「いいじゃない」
「依頼だって楽しめるなら、その方がいいでしょ?」
「その通りだよ」とヴェインも笑った。
「少しくらい肩の力を抜いた方がいい」
「昨日来たばかりで、もう王宮を調べて、次はダークエルフの村だろ?」
「そんなに急がなくても依頼は逃げないさ」
「だから今日はゆっくり休んで」
「明日に備えてくれ」
「また朝、ここで集合しよう」
ヴェインとシルフィは宿を後にし、それぞれも自分たちの部屋へ戻っていった。
部屋へ入る直前、アウエルは静かにエリンを見る。
「二人とも来い」
エリンは頷いた。
三人はアウエルとリッカの部屋へ入る。
「さっき、どうして私をつねったの?」エリンが尋ねる。
「神聖魔法のことは誰にも話すな」
アウエルは静かに言った。
エリンは瞬きをする。
「どうして?」
「知っている人間は少ない方がいい」
「神聖魔法の真実が漏れたら面倒なことになる」
「で、でも……」
「グラムさんたちなら、そのことを広めたりしないと思います」
「信用していないわけじゃない」
アウエルは首を横に振った。
「あの日、シーアと接触したのは俺たちだけだ」
「最初から、あいつの狙いは俺たちだった気がする」
「もし、あいつの計画に巻き込まれるとしたら……」
「俺たちだけでいい」
腕を組みながら続ける。
「あいつが望まない形で、その存在を他人が知ったら何が起きるか分からない」
「だから、もっと分かるまでは」
「あの日のことは、俺たち三人だけの秘密だ」
エリンはゆっくり頷いた。
「……分かりました」
しばらく沈黙が流れる。
「そういえば、アウエル」
「シルフィさんの話、聞いた?」
「シルフィ?」
「昔の仲間の話か?」
エリンは頷く。
アウエルは肩をすくめた。
「別に興味はない」
「ただの出来事だろ」
「でも、本当にただの偶然かな?」リッカが口を挟む。
「ヴェインも言ってただろ」
「何度も同じ顔の人に出会ったって」
「うん……」エリンも頷く。
「私も偶然とは思えません」
「昔の仲間のことも少し聞きましたけど……」
「みんな、どこか似ていました」
「でも俺は違う」
アウエルは即答した。
「た、確かに違います」
「でも、人を助けるところとか……少し似てると思います」
アウエルは静かにため息をついた。
「冒険者なら誰だって人助けくらいする」
「それに、あの子は過去に縛られすぎだ」
「どういう意味だ?」リッカが尋ねる。
「誰を見ても、昔の仲間を重ねている」
「それじゃ前へ進めない」
「過去は過去として受け入れて」
「目の前の人間を、新しい一人として見るべきだ」
リッカは少し考える。
「でも、それって簡単じゃないだろ」
「大切な人を忘れて前へ進むなんて」
「忘れる必要はない」
アウエルは静かに答えた。
「でも、人は誰だって自分自身として見られるべきだ」
「誰かの代わりじゃない」
表情は少しも変わらない。
「エルフは何百年も生きる」
「その長い人生を、もういなくなった人に縛られ続けるなら……」
「苦しむのは自分だけだ」
「だから、手放すべきなんだ」
「大切じゃなかったからじゃない」
「大切だったからこそ」
アウエルは立ち上がる。
「もういい」
「今日は寝ろ」
「明日は朝早い」
エリンもリッカも、それ以上は何も言わなかった。
部屋は静かな沈黙に包まれた。




