エルフ王国 - 8
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
「その毒は、ダークエルフの村にしか存在しないものなんだ」
「待ってくれ」ギルは眉をひそめた。「それなら、ダークエルフが犯人なのは明らかじゃないのか?」
「普通ならそう考えるだろうね」ヴェインは頷いた。「でも、いくつか辻褄の合わない点がある」
「一番大きな問題は――どうやって、だ」
「どうやって?」
「どうやって、その毒を王宮へ持ち込んだのかってことさ」
「夜中に忍び込んだんじゃないのか?」リッカが言った。
ヴェインは首を横に振る。
「それは考えにくい。この王宮には、枢機卿の一人が常時展開している感知魔法があるんだ」
「だから、王宮へ足を踏み入れた者は、誰であろうと必ず感知される」
「だったら、どうして枢機卿は俺たちの行動を報告しろなんて言ったんだ?」グラムが尋ねる。
「あの魔法は会話の内容や行動までは分からないんだ」
「分かるのは、誰かが動いているということだけ。誰が動いているかまでは判別できない」
「だから僕に、君たちの行動を全部報告しろって命じたんだよ」
ギルは腕を組んだ。
「昔、姿を消せる敵と戦ったことがある。透明化なら感知魔法をすり抜けられるんじゃないか?」リッカが言う。
「それは分からない」ヴェインは正直に答えた。「でも、仮に可能だったとしても……」
彼はため息をつく。
「相手はエルフ王だ。かつて勇者一行の一員だった人物なんだ」
「司書に毒を盛ることはできても、エルフ王を誘拐する? 僕にはとても信じられない」
会話が始まってからずっと黙っていたアウエルが、ようやく口を開いた。
「神聖魔法は?」
全員の視線が彼へ向く。
「神聖魔法?」グラムは顎に手を当てた。
「そうだ。神聖魔法は、とてつもない力を持っているって噂がある」
「この手の話に詳しい知り合いがいるんだ」
「そいつは、人の理解を超えた奇跡すら起こせる魔法だと言っていた」
「ただ、それはあくまで伝説で、実際に見た者はいないとも言っていたけどな」
ギルは眉をひそめる。
「ただの噂なら、どうして今その話を持ち出す?」
「俺も、《守護者》は伝説だと思っていた」
アウエルはヴェインを見る。
「でも実在していた」
「なら、神聖魔法も実在するかもしれない」
グラムは納得したように考え込み始めた。
ヴェインも腕を組む。
「神聖魔法については、僕も少しだけ聞いたことがある」
「でも、ダークエルフがそんな魔法を使えるなんて話は聞いたことがない」
彼はアウエルを見る。
「確認なんだけど、その神聖魔法って、使うと術者は死ぬって話だった?」
アウエルは頷く。
「ああ。体に奇妙な紋様が浮かび上がって、最後には死ぬらしい」
「ふむ……」
ヴェインは俯く。
「その可能性は考えたこともなかった」
「だとしたら、いくつか説明がつくかもしれない」
「ところで、図書館でもう一度手がかりを探さないか?」グラムが言った。
「実際に現場を見れば、何か分かるかもしれない」
「そうだね。行こう」
ヴェイン、グラム、ギルは会議室を出ていく。
リッカが出ようとしたところで、アウエルが呼び止めた。
「リッカ」
「……?」
「嫌な予感がする」
「まるで――」
「《悪夢》に足を踏み入れるみたいな感じがする」
リッカの表情が曇る。
「ああ」
拳を強く握り締める。
「あの日から、覚悟はできてる」
「だから今度こそ……」
その声には決意が宿っていた。
「エリンには、二度とあの魔法を使わせない」
「絶対に」
アウエルは静かに頷いた。
そして二人も、皆の後を追って図書館へ向かった。
◇
数分後、一行は王立図書館へ到着した。
部屋中を隅々まで調べる。
本棚、机、窓――どこにも手がかりはない。
「ところで、どうして王は夜に図書館へ来たんだ?」グラムが尋ねた。
「正直分からない」ヴェインは答える。
「時間が空くと、よくここへ来ていたんだ」
「そして、ここでよく話していた相手はフルシアだけだった」
「でも、その彼女はもう……」
「亡くなっている」
「普段はどんな本を読んでいたんだ?」グラムはさらに尋ねる。
ヴェインは頭をかく。
「うーん……覚えてないな」
「は?」ギルは眉をひそめた。
「記録はないのか?」
「貸出記録とか、閲覧記録とか」
ヴェインは瞬きをする。
「そこが問題なんだ。この図書館には蔵書記録がない」
グラムが思わず聞き返す。
「待て、図書館なのに記録がないのか?」
「いや、そもそも必要かな?」
皆が呆れたように彼を見る。
「王立図書館に入れるのは、王と枢機卿、それに王宮の職員だけなんだ」
「それに、枢機卿も職員もほとんど利用しないから、記録を取る必要がなかったんだよ」
グラムは顎に手を当て、アウエルを見る。
「何か気づいたか?」
アウエルは少し黙ってから尋ねた。
「この図書館に、何か重要なものはあるのか?」
「重要なもの?」
ヴェインは首をかしげる。
「古代の記録とか、魔法の巻物とか、機密文書とか」
ヴェインは少し考えた。
「いや、特にないと思う」
「ここにある本は、ほとんど全部読んだ」
「特別なものは何もないよ」
重要な物は何もない……
だが、王は頻繁にここへ来ていた。
それなのに、あるのは本だけ。
なら、答えは一つ。
――死んだ司書だ。
「王宮の厨房も調べてみないか?」リッカが提案した。
「犯人が何か残しているかもしれない」
「分かった。ついてきて」
一行はすぐに厨房へ向かった。
厨房では、今も職員たちが料理の準備に追われていた。
ヴェインは司書が倒れていた場所まで案内する。
「ここだ。それと、ちょっと待って」
彼は戸棚を探り、一つのケーキを持って戻ってきた。
「これが、そのケーキだ」
慎重にテーブルへ置く。
ギルはそれを見つめる。
「事件は二か月前だったよな?」
ヴェインは頷く。
「なのに、どうしてまだ新鮮なんだ?」
「それに、どうして処分されていない?」
「新鮮な理由は、王宮で働く職員のおかげだ」
「前にも言っただろう? エルフには生まれつきのオーラがある」
「その職員のオーラには、食べ物を長持ちさせる力があるんだ」
「そして処分されていない理由は、枢機卿たちが証拠として保管しているから」
「枢機卿は、ダークエルフに犯人かどうか聞いたのか?」グラムが尋ねる。
「もちろん聞いた」
「でも当然、彼らは否定した」
「それでも今なお、枢機卿たちはダークエルフを疑っている」
「この毒に解毒薬はあるのか?」アウエルが尋ねた。
「あるよ」
「解毒薬はすでに作られている」
「でも、あの時は手遅れだった」
アウエルは目を細める。
つまり、この毒そのものはそこまで危険ではない。
エルフたちはすでに解毒薬を持っていた。
ということは――犯人の目的は、ダークエルフへ罪を着せること。
そしてもう一つ。
枢機卿たちは感知魔法を持っている。
それなのに、王がどこへ消えたのか誰にも分からなかった。
転移したのか?
やはり、一番怪しいのは枢機卿たちだ。
だが――どうやって?
今なお世界最強クラスの存在であるエルフ王を、どうやって倒した?
それに、ヴェインの話では、神聖魔法も使用者を死に至らしめる。
だが枢機卿は誰一人死んでいない。
まさか、シヒルから受け取ったような巻物でも持っているのか?
アウエルはふとヴェインを見た。
「一つ聞きたい」
「何?」
「王は冠を外すことがあったか?」
「図書館に来る時とか、王宮の外に出る時とか」
ヴェインは首をかしげる。
「いや、なかったと思う」
「どこへ行く時も、いつも冠を身につけていた」
アウエルの目が鋭くなる。
「じゃあ、その冠は今どこにある?」
ヴェインは頭をかく。
「それも問題なんだ」
「冠も行方不明なんだよ」
「つまり今は、王がいないだけじゃなく、新しい王を立てることもできない」
「枢機卿には、冠を探す魔法はないのか?」
「うーん……ないと思う」
王が消えた今、枢機卿は自由に動ける。
それでも誰一人として冠を手にしていない。
つまり、誰も冠に選ばれなかった。
だが、それでも分からない。
どうやって王を倒した?
冠はどこへ消えた?
――本当に枢機卿が犯人なのか?
考え込んでいたアウエルへ、グラムが声をかけた。
「何か思いついたか?」
アウエルは大きく息を吐く。
「いや」
「何も」
ヴェインは苦笑した。
「気にしなくていいさ」
「僕たちだって二か月調べ続けて、何一つ分からなかったんだから」
「君たちはまだ、一日も調べてないだろ?」
「……それもそうだな」ギルが頷く。
「今日は宿へ戻って頭を休めよう」
「待って」
アウエルが皆を呼び止めた。
「一か所、行きたい場所がある」
ギルは眉をひそめる。
「図書館も厨房も見ただろ?」
「事件に関係ある場所は、それだけじゃないのか?」リッカも言う。
アウエルは頷いた。
「ああ」
「でも、もう一つだけ確かめたい場所がある」
「どこだ?」ヴェインが尋ねる。
アウエルは静かに答えた。
「――ダークエルフの村だ」




