エルフ王国 - 5
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
朝になった。
アウエルとリッカがまだ部屋で眠っていると、不意に扉が勢いよく開かれた。
「おい、お前ら! 起きろ!」
ギルの大声に、リッカは飛び起きそうになる。
「な、何があった!?」
「朝飯の時間だ」
「それだけかよ!?」
ギルはニヤリと笑う。
「はぁぁ……」
リッカは大きくため息をつきながらベッドを降りた。一方のアウエルも、半分眠ったような目でゆっくりと体を起こす。
二人は顔を洗い、宿の食堂へ向かった。
宿の酒場はすでに多くの客で賑わっていた。
そのほとんどはエルフではない。
獣人、蜥蜴人、ドライアド、それに見たこともない種族までいる。
エルフは宿の主人以外、一人も見当たらなかった。
どうやらこの宿は、外部の者を受け入れることで有名らしい。
アウエルとリッカは仲間たちのテーブルへ向かう。
全員すでに席について食事をしていた。
「よく眠れたか?」
グラムが尋ねる。
「最高だったよ」
リッカが笑顔で答える。
アウエルは何も言わない。
その答えは誰もが知っていたため、誰も聞き返さなかった。
「ヴェインは?」
アウエルが食事をしながら尋ねる。
「さあ。今朝から一度も姿を見てないわ」
ヘレンが肩をすくめる。
「待つしかないな」
グラムが言う。
「たぶん、まだ枢機卿たちを説得してるんだろう」
そしてアウエルは、向かいに座る人物へ視線を向けた。
「それで、お前は何をしてるんだ?」
彼の正面にはシルフィが座っていた。
宿の主人を除けば、この場で唯一のエルフだ。
「別に」
シルフィは何気なく答える。
「あなたたちを見張ってるだけ」
「まだ俺たちを疑ってるのか?」
リッカが尋ねる。
「そういうわけじゃないわ。ただ、お客様に何か起きないよう見てるだけ」
「お客様?」
リッカは首をかしげる。
「ここは私の国でしょう?」
それからシルフィはアウエルへ手を差し出した。
「そういえば、私はシルフィ。あなたの名前は?」
「教える理由は?」
アウエルは素っ気なく返した。
シルフィの笑顔が少しだけ引きつる。
「名前を聞くくらい、そんなに変?」
アウエルは少し沈黙したあと、
「……アウエル」
とだけ答えた。
握手には応じない。
それでもシルフィは気にした様子もなく手を引っ込め、微笑んだ。
「よろしくね、アウエル」
朝食を食べ終えても、ヴェインはまだ現れなかった。
「もうっ……ヴェイン遅すぎ!」
リッカが机に突っ伏しながら文句を言う。
「ここで待ってるより、エルフの国を見て回らない?」
ヘレンが提案した。
「でも、ここで会う約束だったよね?」
アシュリーが首を傾げる。
「私たちが外にいる間に来ちゃったら?」
「じゃあ交代で回ればいいじゃない」
ヘレンが言う。
「本当に勝手に歩いて大丈夫なの?」
アシュリーが尋ねる。
「シルフィ、案内してくれる?」
「いいわよ」
シルフィはあっさり頷いた。
「じゃあ決まり。私たち女子が先に回ってくるから、男子はここで待機ね」
「はぁ!? 不公平だろ!」
リッカが立ち上がる。
「なんで女子が先なんだよ!」
「私が言い出したからよ」
「俺だって外に出たい!」
「私たちだって退屈してるの」
「二人とも」
アシュリーが苦笑しながら割って入る。
「じゃんけんで決めれば?」
「それなら公平ね」
ヘレンが頷く。
「望むところだ!」
リッカも腕をまくる。
二人は向かい合い、
「最初はグー、じゃんけん――ぽん!」
リッカはグー。
ヘレンはパー。
「なっ!?」
「勝ち〜!」
ヘレンが笑顔で立ち上がる。
「さ、行きましょ!」
「じゃあね〜。留守番よろしく!」
女子三人とシルフィは宿を出ていった。
リッカは不満そうに席へ戻る。
その頃にはアウエルは、最初から机に突っ伏していた。
「はぁぁ……暇すぎる。やっぱりじゃんけんなんて不公平だ」
「運が悪いだけだろ」
アウエルがぼそりと言う。
「ぐっ……」
ギルが笑い出した。
「でもさ、本当にあいつらだけで歩き回って大丈夫なのか?」
「問題ないだろ」
グラムが答える。
「シルフィも一緒なんだから」
その頃、外ではシルフィに案内されながら、少女たちはエルフの国を歩いていた。
シルフィは建物を指差しながら説明する。
エルフの国は大きく二つの区域に分かれていた。
王宮や行政機関が集まる王都区画。
そして一般のエルフたちが暮らす居住区画。
歩きながらシルフィは一つひとつの建物について説明していく。
すると、不意にエリンが足を止めた。
小さなお土産屋だった。
店先には、三枚の羽を模した飾りと、小さな緑色の宝石が付いた白い髪飾りが並んでいる。
エリンはそっと手に取った。
「かわいいじゃない。付けてみたら?」
ヘレンが笑う。
エリンは髪飾りを付けて皆へ振り返った。
「ど、どうかな?」
「すっごく似合ってる!」
ヘレンが即答する。
「うん、可愛いわ」
アシュリーも微笑んだ。
エリンも嬉しそうに笑う。
そして店主へ向き直った。
「す、すみません。この髪飾りはいくらですか?」
店主のエルフはエリンを一瞥し、
「銀貨十枚だ」
と冷たく答えた。
「えっ!?」
ヘレンが目を見開く。
「髪飾り一つで銀貨十枚!?」
アシュリーも驚く。
「そうだ」
店主はぶっきらぼうに答えた。
シルフィの表情が一気に険しくなる。
「……外の人だから値段を釣り上げたわね?」
「嫌なら帰れ」
店主は吐き捨てた。
「今なんて――」
シルフィが胸ぐらを掴もうとした瞬間、
「だ、だめ!」
エリンが慌てて止める。
ポケットから銀貨を取り出し、
「これ……銀貨十枚です」
店主へ差し出した。
店主は金を受け取り、小さく舌打ちする。
「ちょっと、今の聞いた!?」
シルフィが再び詰め寄ろうとするが、
「い、いいから行こう」
エリンが必死に止めた。
シルフィはなおも店主を睨みつけたが、やがて諦めて店を離れた。
「どうして買ったの?」
シルフィは腕を組む。
「どう見てもぼったくりだったじゃない」
「うぅ……その……人と揉めたくなくて……」
「でもあいつ、完全にあなたを見下してた!」
シルフィの声が強くなる。
「ああいうエルフには遠慮なんていらないの!」
「で、でも……どうして?」
「向こうが先に失礼だったからよ」
エリンは首を傾げる。
「でも……どうしてあんな態度を取るの?」
ヘレンは小さく息をついた。
「エルフは昔から他種族を見下す人が多いの」
「特に人間をね」
エリンは驚いた。
「エルフって……人間を嫌ってるの?」
「知らなかったの?」
アシュリーが尋ねる。
エリンはゆっくり首を振った。
「う、うん……初めて聞いた」
「英雄伝説は知ってる?」
ヘレンが聞く。
「うん。小さい頃、お兄ちゃんとよく読んだよ」
「じゃあ英雄パーティーのメンバーは覚えてる?」
「えっと……勇者、エルフ王、竜王、海王、ネフィリム、それからオロニス族……だよね?」
「その通り」
ヘレンは頷いた。
「でも、人間だけは誰もいなかったの」
「え?」
エリンは目を丸くする。
「でも勇者って、人間じゃないの?」
「実は、それは誰にも分からないの」
アシュリーが説明する。
「勇者は孤児で、人間の孤児院で見つかったでしょう?」
エリンは頷く。
「だから見た目が人間なだけで、本当に人間かどうかは分からないって言われてるの」
「他の種族は、勇者は最初に人間に拾われたから人間として育っただけだ、って考えてるの」
シルフィも続ける。
「最初に見つけた種族こそが、勇者の種族になるって考えられてるの。だから、もし最初にエルフの孤児院で見つかっていたら、勇者はエルフだったってこと。他の種族でも同じよ。」
「だから勇者は人間じゃなくて、人間の姿をした半神だって考える人もいるの」
ヘレンが言う。
「つまり英雄パーティーには、人間の代表はいなかったってこと」
「だからエルフは人間を見下すの」
シルフィが苦々しく言った。
「エルフ王は英雄パーティーの一員だった。でも人間は違う」
「もちろん、人間だけじゃないわ」
「英雄パーティーに代表者がいなかった種族は、みんな見下されることがある」
「皮肉なのは」
アシュリーが苦笑する。
「人間は世界で一番人口が多いのに、それでも英雄パーティーには一人もいなかったことね」
エリンは困ったように眉を寄せた。
「やっぱり分からない……」
「どうして人は誰かを見下さなきゃいけないの?」
「それで何かいいことがあるの?」
「みんな仲良く生きればいいのに……」
「私にも分からないわ」
シルフィは寂しそうに笑う。
「それは昔からエルフの国の問題だった」
「エルフ王も何百年もかけて、他種族を受け入れるよう皆を説得してきたの」
「王様は、本気で他種族と共に生きようとしてた」
彼女は苦笑する。
「でも何も変わらなかった」
「みんな、相変わらず他の種族を見下したまま」
そう言ってシルフィは賑やかな通りへ視線を向けた。
「こういうエルフなら、この国ではいくらでも見つかるわ」




