エルフ王国 - 4
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
「さて」
ヴェインは椅子を引きながら口を開いた。
「依頼についてお話ししましょう」
「ちょっと待って」
シルフィーが腕を組む。
「依頼って何のこと? それに、どうして外の人たちをここへ連れてきたの?」
「もちろん、エルフ王の件だよ」
ヴェインは当然のように答えた。
「エルフ王国の外へ救援を要請したんだ」
シルフィーは目を見開く。
「えっ!?」
「外部に協力を求めた」
「本気なの!?」
彼女は声を荒げた。
「枢機卿たちは、王の失踪を外へ漏らすなって厳命してたでしょう!」
「もちろん覚えてるよ」
「だったらどうして――」
「でも、王が行方不明になってもう二か月になる」
ヴェインの声が静かになる。
「その間ずっと、枢機卿たちは『すべて順調だ』と言い続けてきた」
「でも二か月経った今でも、王の居場所は何一つ分かっていない」
部屋が静まり返る。
いつも穏やかなヴェインの表情が真剣なものへ変わっていた。
「だから僕は、外部へ協力を求めたんだ」
「二か月もの間、王は行方不明のまま」
「二か月もの間、枢機卿たちは『問題ない』と言い続けた」
「それでも、何一つ進展がない」
シルフィーは眉をひそめる。
「だからって、外部の人間を頼るの?」
「実験ってさ、思いもよらない要素が答えを導くことってあるだろ?」
ヴェインは椅子にもたれた。
「僕たちは考えられる限り全部探した」
「だからこそ、答えはエルフでは気づけないところにあるのかもしれない」
「だったら、外から来た人なら気づけるかもしれない」
シルフィーは納得していなかった。
「でも危険すぎるわ。もしこの人たちが王の失踪を広めたら、他国がエルフ王国へ攻め込んでくるかもしれないでしょう?」
二人のエルフが言い争う中、
エリンはそっとアウエルへ近づき、小声で尋ねた。
「あ、あの……一つ聞いてもいい?」
アウエルは小さく頷く。
「枢機卿って何?」
「エルフ王がこの国の統治者なのは知ってるよな?」
エリンは頷く。
「王が独断で国政を進めないよう、選ばれたエルフたちが枢機卿として王を補佐し、政策を審議する」
「もし王の政策に問題があれば、枢機卿はそれを却下できる」
「逆に、枢機卿側から王へ政策を提案することもある」
「おい、お前ら。その辺にしろ」
ついにギルが割って入った。
二人はようやく口論をやめたが、シルフィーはまだ頬を膨らませている。
「騒がしくしてしまってすみません」
ヴェインは咳払いをした。
「とにかく、皆さんの目的はもう分かっていますよね」
「エルフ王を見つけることです」
全員が頷いた。
「では、王が最後に目撃された日のことを説明します」
ヴェインは一息つく。
「約二か月前の夜、枢機卿たちは王との会議を開こうとしていました」
「そこで伝令が王へ会議の知らせを伝えに行ったんです」
「それで?」
グラムが尋ねる。
「会議室に全員が集まった後、伝令が戻ってきました」
「王は会議には出席しない、と」
「それから、王は王立図書館へ向かったとも伝えました」
ヴェインは両手を組む。
「枢機卿たちは不審に思い、すぐ図書館へ向かいました」
「ですが、王はいませんでした」
「それどころか、図書館には誰一人いなかったんです」
「誰も?」
ヘレンが首をかしげる。
「はい。王だけじゃありません」
「司書まで姿を消していました」
リッカがすぐに手を挙げる。
「じゃあ、その司書が最初の容疑者だよな?」
「枢機卿たちも同じことを考えました」
ヴェインは頷く。
「宮殿中を捜索し、ようやく司書を見つけたんです」
「ですが……」
「王宮の厨房で、遺体となって」
部屋が静まり返る。
アシュリーが身を乗り出した。
「え? 王をさらった後に自殺したってこと?」
「違う」
シルフィーが首を振る。
「毒殺よ」
全員が息を呑んだ。
「毒を飲まされたのか? それとも毒を盛られたのか?」
グラムが尋ねる。
「現場の状況からすると、毒を盛られたみたい」
「ケーキを食べていたから」
「その後、枢機卿たちがケーキを調べたの」
「結果は?」
「毒入りだった」
そこで初めてアウエルが口を開く。
「司書が口封じされたなら、犯人は彼女に何か話されると困ったってことか」
「それも一つの可能性です」
ヴェインは頷いた。
「あるいは、単純に邪魔だったのかもしれません」
アウエルは黙ったままだった。
「だったらまず図書館を調べよう」
グラムが提案する。
「うーん……それは難しいですね」
ヴェインが苦笑する。
「どうして?」
アウエルはため息をついた。
「入るには許可が必要なんだろ」
「その通りです」
「王立図書館へ入れるのは、エルフ王国の高官だけです」
「枢機卿の許可があれば入れますけどね」
「でも今はほぼ不可能よ」
シルフィーが言葉を引き継ぐ。
「今の枢機卿たちは忙しすぎるの」
「忙しい?」
「王の失踪を知ったエルフたちや、国内にいる他種族を落ち着かせなきゃいけないから」
「他種族?」
リッカが首を傾げる。
「でも王国は二か月も閉鎖されてるんじゃ?」
「その通りです」
ヴェインが答える。
「ただ、閉鎖された時点で国内にいた他種族はまだ残っています」
「事件を外へ漏らしたくないので、追い出すこともできません」
「でも僕から枢機卿に掛け合ってみます」
「図書館だけじゃなく、宮殿全体も調査できるように」
「待て」
アウエルが尋ねる。
「そんな話ができるって、お前何者なんだ?」
「ああ、言い忘れてました」
ヴェインは照れ笑いした。
「僕、王立図書館で働いてるんです」
「ただ、事件が起きた日は非番でしたけど」
全員が固まる。
「それ、今言うことか?」
「はい」
「なんでそんな大事なこと忘れるんだよ」
「よくあります」
「それ、かなり心配なんだけど」
「シルフィーにもよく言われます」
「当然でしょ!」
シルフィーが即座にツッコむ。
ヴェインは気にせず話を続けた。
「さて、長旅で疲れているでしょう」
「ああ、まあな」
ギルが答える。
「でも、この家じゃ全員泊まれないだろ?」
「もちろんです」
ヴェインは笑う。
「泊まる場所なら知っています。ついて来てください」
一行はヴェインの家を出た。
エルフ王国は緑に満ち溢れていた。
天へ届くほど巨大な樹木。
枝と枝を結ぶ橋。
無数の花が柔らかな緑色の光を放ち、
国全体が生きているような空気に包まれている。
ヴェインの案内で街を歩いていく。
通りを歩くたび、多くのエルフが彼らへ視線を向けた。
それでも、彼らが外部の人間だと気づく者はいない。
「私たち、本当に外を歩いて大丈夫なの?」
ヘレンが尋ねる。
「もちろん」
ヴェインは手を振った。
「まだ誰も皆さんが外から来たことを知りませんから」
そしてシルフィーを見る。
「ところで、どうして君までついて来るんです?」
「他にやることないの?」
「何よ、それ」
シルフィーは睨み返す。
「あなたが勝手に外の人を連れてきたんでしょう?」
ヴェインはため息をつくだけだった。
やがて、一軒の宿屋へ辿り着く。
「着きました」
「やっとか」
アシュリーが呟く。
受付には宿の主人が立っていた。
「おや、ヴェインじゃないか」
「どうしたんだ?」
「こんにちは。部屋は空いてますか?」
主人は一行を見回す。
「また団体さんか?」
ヴェインは苦笑いした。
「まあ……ちょっと事情がありまして」
「事情は聞かないよ」
主人は肩をすくめる。
「で、部屋はいくつ必要だ?」
「三部屋でいいわよね?」
ヘレンが答える。
「女四人で一部屋。男は二部屋に分かれましょう」
主人はシルフィーを見る。
「四人で一部屋に泊まれるのか?」
「私は泊まらないわ」
「じゃあ何しに来た?」
「この人たちに変なことが起きないか見届けるだけ」
主人は鍵を取り出した。
「はい、部屋の鍵だ」
「待って」
グラムが財布を取り出す。
「宿代は?」
「いいですよ」
ヴェインが止めた。
「僕が払います」
「今日はゆっくり休んでください」
「その間に枢機卿へ話を通しておきます」
「明日、ここで詳しい話をしましょう」
全員が頷き、
鍵を受け取り、それぞれの部屋へ向かった。
男部屋はベッドが二つ。
女部屋は大きなベッドが一つだった。
アウエルとリッカも部屋へ入る。
扉を閉めた瞬間、
アウエルはそのままベッドへ倒れ込んだ。
「なあ」
リッカが口を開く。
「ヴェインって怪しくないか?」
「話し方もそうだけど、都合よく王立図書館で働いてて、外部へ依頼を出した張本人で、その上、俺たちの調査まで手伝うってさ」
アウエルは目を閉じたままため息をつく。
「分からない」
「その話は明日にしよう」
「お前、この依頼を受けてからずっと機嫌悪いよな」
「なんでだ?」
「こういう依頼が嫌いなんだ」
アウエルはぼそりと言う。
「頭を使いすぎる」
「ふーん……」
リッカは腕を組む。
「今の時点で容疑者を挙げるなら誰だ?」
アウエルは少し考えた。
「……枢機卿かな」
「まだ会ってもいないけど、俺はヴェインの方が怪しく感じるんだよな」
「どうでもいい」
アウエルは寝返りを打つ。
「疲れた」
「俺はみんなと話してくる」
「夕飯になったら起こすよ」
リッカは部屋を出て行った。
部屋にはアウエルだけが残る。
しばらくして、
扉が静かに開いた。
一人のエルフがそっと部屋へ入ってくる。
シルフィーだった。
彼女は静かにアウエルのベッドへ近づき、
その横へしゃがみ込む。
数秒間、
ただじっと彼の顔を見つめていた。
そして前髪を一本、そっと指で払う。
「やっぱり……この人だ」
首をかしげる。
「でも、ずいぶん暗い顔をしてる」
「みんな、あんな顔はしてなかったのに」
小さく呟くと、
彼女は静かに部屋を出ていき、
そっと扉を閉めた。
扉が閉まる音と同時に、
アウエルはゆっくり目を開く。
「あのエルフ……」
「ほんと変なやつだ」
そう呟くと、
彼は寝返りを打ち、
再び眠りへ落ちていった。




