エルフ王国 - 3
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
ギルド酒場は今日も変わらず賑わっていた。
冒険者たちの笑い声が響き渡り、依頼について言い争う者、狩りの成果を自慢する者、それぞれが思い思いの時間を過ごしている。
そんな中、酒場の扉が開いた。
一人の若い女性が中へ入ってくる。
長い金髪をポニーテールに結び、軽装の鎧を身に纏う。
背には弓、腰には矢筒。
肩には緑色のマントを羽織っていた。
――エルフだった。
彼女が姿を現した瞬間、酒場中の視線が一斉に集まる。
エルフがエルフの森を出ることなど滅多にない。
無数の視線を感じた彼女は小さく俯き、足早に受付へ向かった。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付嬢が丁寧に微笑む。
「あ、あの……冒険者登録をしたいんです」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢は奥へ引っ込み、数枚の書類を持って戻ってきた。
「こちらが登録用紙になります。ご自身でご記入できますか?」
エルフの少女は小さく頷く。
「ありがとうございます。それではこちらへご記入ください」
彼女は静かにペンを走らせ始めた。
その途中だった。
「ねえ、君って新人?」
横から突然声を掛けられる。
顔を上げると、黒髪を後ろで束ねた青年が立っていた。
背中には剣と盾。
「は、はい……」
「俺はフォーン」
彼は笑顔で自分を指差した。
「うちのパーティー、レンジャーを探してるんだけど、一緒に来ない?」
エルフの少女は目を丸くする。
「え……で、でも……普通は最初に実力を見たりしませんか?」
フォーンは頬を掻いた。
「多分?」
「……」
「まあ、大丈夫だって」
そう言って彼は冒険者プレートを見せる。
「ほら、俺もまだ銅級だから」
「それにレンジャーが必要なんだよ」
少女はじっと彼を見つめる。
冗談ではない。
本気で言っている顔だった。
数秒後。
彼女は思わず小さく笑ってしまう。
フォーンも笑った。
「ほら、話しやすそうな人だったじゃん。」
少女は少し迷ってから、小さく頷いた。
「……よろしくお願いします」
「よし!」
フォーンは嬉しそうに笑う。
「登録が終わったら、パーティーに誘うよ」
登録を終えると、フォーンは彼女を仲間たちの元へ連れて行った。
一つのテーブルに二人が座っている。
「紹介するよ」
フォーンは茶髪の青年を指差す。
「こっちはアスキ」
盾と片手斧を装備した青年が軽く手を挙げた。
続いて金髪の少女を指す。
「それから、こっちはウラ」
魔法杖を抱えた少女が優しく微笑む。
「それで、この子は――」
フォーンは途中で止まった。
そういえば名前を聞いていなかった。
エルフの少女はくすりと笑う。
「私はシルフィーです。よろしくお願いします」
三人は笑顔で挨拶を返した。
その後、アスキはフォーンを横へ呼ぶ。
「……大丈夫なのか?」
「何が?」
フォーンはシルフィーを見る。
「別に問題ないだろ」
「相手はエルフだぞ」
「だから?」
アスキはため息をついた。
フォーンは気にも留めず笑う。
「それじゃあ、初依頼に行こう!」
◇◇◇
彼らが受けた最初の依頼は黒熊の討伐だった。
その日のうちに森へ向かう。
歩きながらフォーンが尋ねる。
「そういえばシルフィー、弓以外には何ができるんだ?」
「何体かの使い魔を召喚できます。それと自然魔法も少しだけ」
フォーンの目が輝いた。
「へぇ、それは便利だ!」
するとウラが口を開く。
「一つ聞いてもいい?」
「どうして冒険者になったの?」
シルフィーは少し黙った。
「……外の世界を見てみたかったんです」
「外の世界?」
アスキが首を傾げる。
「でもどうしてだ? エルフって森で幸せに暮らしてるんだろ? 強い王様もいるし……」
シルフィーは目を伏せた。
「……ただ、新しいことを知りたかったんです」
「人間と?」
少し間を置いて頷く。
「エルフはいつも、自分たちが他の種族より優れているって言います」
「人間は寿命が短くて弱いって」
「でも……私は違うと思うんです」
「どうして?」
ウラが尋ねる。
「分かりません」
シルフィーは小さく笑った。
「でも、そんな考え方は間違っている気がして」
「だから森を出ました」
「答えを探すために」
その時だった。
フォーンが手を上げる。
「静かに」
全員が動きを止める。
「……見つけた」
一同は茂みへ身を隠した。
簡単な作戦を立てる。
そしてシルフィーが静かに立ち上がった。
弓を引く。
ヒュッ――
放たれた矢は一直線に飛び、黒熊の右目へ突き刺さる。
見事な命中だった。
黒熊は咆哮を上げ、シルフィーへ突進する。
その瞬間。
茂みからフォーンとアスキが飛び出した。
熊が巨大な爪を振るう。
アスキが盾で受け止め、そのまま斧を振る。
しかし熊は身をひねって避けた。
続いてフォーンが首を狙って剣を振る。
だが熊は頭を傾け、紙一重で回避する。
「ファイアボール!」
炎球が熊へ命中する。
しかし分厚い毛皮に阻まれ、大した傷にはならない。
再び一本の矢が放たれる。
今度は左目を狙う。
熊はまた頭を動かしたが、それでも頬を深く切り裂いた。
「ウルフ」
シルフィーが使い魔を召喚する。
狼が飛び掛かり、熊の後ろ脚へ噛み付く。
熊の動きが鈍る。
フォーンが一気に距離を詰めた。
だが熊はもう片方の爪で狼を薙ぎ払い、そのままフォーンへ襲い掛かる。
アスキが再び盾で受け止める。
その隙にフォーンの剣が首へ届く。
しかし傷は浅い。
首筋から血が流れ落ちる。
熊は逃げようと背を向けた。
「パワーショット!」
シルフィーの矢が後ろ脚を射抜く。
熊は完全に動きを止めた。
「ライトニングスパーク!」
稲妻が熊を貫く。
そしてアスキが斧を大きく振り上げる。
ズバッ!
首が宙を舞った。
黒熊は倒れた。
「ふぅ!」
フォーンは笑う。
「最高の初依頼だったな!」
四人は笑いながら町へ帰った。
その日から彼らは常に共に依頼を受けるようになった。
魔物を倒し。
ダンジョンを攻略し。
ランクも少しずつ上がっていった。
ある日の夜。
依頼の途中で野営をしていた。
アスキとウラはすでに眠っている。
焚き火の前にはシルフィーとフォーンだけが起きていた。
しばらく沈黙が続く。
やがてシルフィーが口を開いた。
「……ありがとう」
「ん?」
「私をパーティーに誘ってくれて」
フォーンは少し驚く。
「そんなこと?」
シルフィーは炎を見つめた。
「あの時誘ってもらえなかったら、私はどうなっていたか分かりません」
「大丈夫だよ」
フォーンは笑う。
「俺じゃなくても、誰かが誘ってたさ」
シルフィーは膝を抱く手に力を込めた。
「……そうは思えません」
フォーンが彼女を見る。
「エルフって、人間を見下してるでしょう?」
焚き火が静かに爆ぜる。
「人間も、そのことを知っています」
彼女は俯いた。
「だから……みんな私のことも嫌ってるんじゃないかって」
罪悪感の滲む声だった。
「でも、あなたは違いました」
拳を握り締める。
「私がエルフでも関係なく、ずっと優しくしてくれました」
フォーンは炎を見つめながら笑う。
「それって、考えても仕方ないことじゃない?」
シルフィーは首を傾げる。
「……どういうことですか?」
「俺、最初から種族なんて気にしたことないし」
「みんな同じ生き物だろ?」
「エルフは人間を見下してるって言ったよな」
「でも君は違うじゃないか」
「俺たちを助けてくれるし、優しくしてくれる」
「だから種族なんて関係ない」
彼は小枝を一本拾い、焚き火へ投げ入れた。
「本当に大事なのは心だよ」
「もっと上に立ちたい、自分が一番だって思う人は、結局誰でも他人を見下す」
「種族なんて関係ない」
「だから、自分が正しいと思うことを貫けばいい」
フォーンは炎を見つめたまま続ける。
「人の心なんて簡単には変えられない」
「悪人を善人に変えることなんてできない」
「だから変えようとする必要なんてない」
彼はシルフィーへ笑いかけた。
「自分が良い人間になればいいんだ」
「……君みたいに」
シルフィーの口元に、小さな笑みが浮かんだ。
「そうですね、ありがとうございます」
それから月日が流れた。
ある夜、彼らは遺跡近くで依頼をこなしていた。
四人は崩れた瓦礫の陰に身を潜める。
その先には、巨大な骸骨が立っていた。
全身を鎧で覆い、片手には剣、もう片手には盾。
背中では黒いマントが夜風に揺れている。
スケルトンナイトだった。
「みんな、準備はいいか?」
フォーンが小さく問いかける。
全員が頷き、戦闘が始まった。
シルフィーが茂みから飛び出し、矢を放つ。
「クイックショット」
――ズシュッ!
矢はスケルトンナイトの頭部へ突き刺さる。
敵はゆっくりと首を向け、そのまま彼女へ突進した。
「ファイアボール!」
ウラが炎弾を放つ。
しかしスケルトンナイトは盾を構え、難なく受け止める。
シルフィーは続けて矢を放ち、盾を持つ腕を狙う。
だが相手は身をひねって回避し、そのまま剣を振るった。
ガキィン!
フォーンが盾で受け止める。
その隙を突き、アスキが後方から斧を振り下ろした。
しかしスケルトンナイトは素早く盾を構え、防ぎ切る。
斧が盾に食い込んだ。
次の瞬間。
スケルトンナイトは盾を勢いよく振り抜き、アスキを吹き飛ばした。
「アスキ!」
フォーンが剣を振るう。
だが敵はすでに動いていた。
鋭い突きが一直線にフォーンへ迫る。
避けられない。
フォーンは盾で受け止める。
その瞬間、一本の矢が飛来した。
――ズシュッ!
スケルトンナイトはすぐさまシルフィーへ向き直り、剣を振り上げる。
だが、その攻撃が届く前に、アスキが盾に食い込んだ斧を引き抜いた。
そのまま渾身の一撃を放つ。
しかしスケルトンナイトは一歩後退し、難なくかわした。
「インシネレート!」
ウラの杖から灼熱の炎流が放たれる。
炎がスケルトンナイトを包み込む。
剣で受け止めたものの、その場から動けない。
「今だ!」
フォーンとアスキが同時に飛び出した。
しかし。
スケルトンナイトは突然、剣をウラへ向かって投げ放つ。
ザシュッ!
剣は彼女の腹部を貫いた。
「ウラァァッ!!」
アスキが怒りに任せて斧を振り下ろす。
しかしスケルトンナイトは盾を振り抜き、
ドォン!!
アスキを吹き飛ばした。
敵はゆっくりと歩き、突き刺さった剣を回収しようとする。
「アスキ……くっ!」
フォーンはすぐに追いかけた。
剣を振るう。
しかしスケルトンナイトはすでに剣を握り直していた。
その剣には、なおウラの身体が貫かれたままだった。
ブォンッ!
スケルトンナイトはそのまま剣を振るい、
ウラの身体ごとフォーンを吹き飛ばす。
フォーンは地面を転がり、
ウラの身体も宙を舞った。
スケルトンナイトは剣を高く掲げ、
倒れたフォーンへ突き下ろそうとする。
その瞬間。
一匹の狼が飛びかかり、敵の腕へ噛みついた。
「パワーショット!」
シルフィーの矢が命中し、スケルトンナイトを後退させる。
フォーンはその隙に距離を取った。
しかしスケルトンナイトは狼を一太刀で斬り伏せ、
ゆっくりとフォーンへ歩み寄る。
怒りに我を忘れたアスキが、
斧を構えて突撃した。
「アスキ、やめ――」
しかし間に合わない。
スケルトンナイトは剣を一閃。
ズバッ!
アスキの首が宙を舞った。
鮮血が戦場へ飛び散る。
そしてスケルトンナイトは、
今度はシルフィーへ視線を向ける。
ゆっくりと近づいてくる。
シルフィーは凍りついた。
身体がまったく動かない。
敵は静かに構えを取り、
一直線に突進する。
――ドスッ。
鮮血が舞った。
「……え?」
フォーンが立っていた。
シルフィーを庇うように。
剣は彼の身体を深々と貫いていた。
シルフィーは目を見開く。
フォーンが自分の前に立ち、
魔物の攻撃を受け止めていた。
「シルフィー……逃げろ……」
震える声だった。
スケルトンナイトは剣を引き抜こうとする。
フォーンは両手で剣を握り締めた。
指の隙間から血が溢れ落ちる。
「何してる!! 逃げろ!!」
シルフィーは迷わなかった。
弓を投げ捨て、
その場から全力で駆け出した。
一度も振り返らず、
ただ走り続ける。
涙が止まらなかった。
それが彼女のパーティーの終わりだった。
初めてできた、人間の友達だった。
それ以来、シルフィーは立ち直れなかった。
冒険者を辞め、
毎日のようにギルドバーで一人座っていた。
何時間も机を見つめ続ける日もあれば、
ただ泣き続ける日もあった。
ある日の午後。
俯いたまま座っている彼女の肩を、
誰かが軽く叩いた。
「すみません、一人ですか?」
シルフィーはゆっくり顔を上げる。
そして、
固まった。
黒髪をポニーテールにした青年。
同じ笑顔。
同じ顔。
ほんの一瞬、
心臓が止まったようだった。
「フォーン……? でも、どうして……」
青年はきょとんとする。
「フォーン? 人違いじゃないですか?」
彼は苦笑しながら言った。
シルフィーは目を見開く。
あまりにも似ていた。
「えっと……俺はカリフです」
青年は照れくさそうに頭を掻く。
「駆け出し冒険者なんですけど、いつもあなたが一人で座ってるのを見かけてて……」
「パーティーがないのかなって思って」
シルフィーは黙ったままだった。
「だから、その……」
彼は手を差し出す。
「俺たちのパーティーに入りませんか?」
その瞬間、
彼女の瞳に涙が溢れた。
顔は同じ。
でも声は違う。
別人だった。
それでも、
まるで運命がもう一度チャンスをくれたような気がした。
彼女はその手を握る。
「はい」
ようやく笑顔が浮かぶ。
「喜んで」
深い森の中。
アウエルたちとグラムたちは、一人のエルフの少女と向かい合っていた。
互いに武器を構える中、
少女はゆっくりと弓を下ろし、
彼らへ――いや、アウエルへ歩み寄る。
「シルフィー! シルフィー、どこだー!」
森の奥から声が響いた。
やがて一人の青年エルフが姿を現す。
眼鏡をかけ、
長い金髪を後ろへ流し、
そばかすの残る顔。
緑色のマントを羽織った、どこか学者のような青年だった。
「あ、いたいた」
そう言いかけた彼は、
アウエルたちを見る。
「……外の人?」
「ヴェイン!」
シルフィーは再び弓を構えた。
「ヴェイン、下がって! その人たち危ないかもしれない!」
「待ってください」
青年は慌てて前へ出ると、
丁寧に頭を下げた。
「ちょ、ちょっと! 何してるの!?」
彼は眼鏡を押し上げる。
「僕はヴェイン、こちらはシルフィーです」
「あなた方はノトフから来た冒険者の方々ですよね?」
グラムが一歩前へ出る。
「ああ。ある依頼を受けてここまで来た」
ヴェインはほっと息をついた。
「よかった」
「僕がその依頼主です。よろしくお願いします」
「えぇっ!?」
シルフィーが思わず叫ぶ。
しかしヴェインは気にしない。
「警戒させてしまって申し訳ありません。でも、エルフの国で何が起きているかは、もうご存じですよね」
「ああ、大丈夫だ」
グラムは仲間たちへ合図し、
全員が武器を下ろした。
「では、一般市民には見つかってはいけませんので、秘密の道をご案内します」
「ちょっと待って! 秘密の道って何!? そんな話、私は聞いてないんだけど!」
シルフィーが抗議する。
「いいから、早く来てください」
ヴェインは彼女の文句を聞き流し、
森の奥へ歩き始めた。
一行はその後を追う。
シルフィーはアウエルのすぐ後ろを歩いていた。
しばらく進むと、
ヴェインは一本の何の変哲もない木の前で立ち止まる。
「ここです」
リッカが首をかしげた。
「……ここって?」
「少し待ってください」
ヴェインは手を掲げ、
詠唱する。
「――ゲート」
次の瞬間、
木の幹が緑色に輝き、
一本の通路が現れた。
「どうぞ」
ヴェインはそのまま木の中へ入っていく。
一人、また一人と後に続く。
最後の一人が入ると、
入口は静かに閉じた。
そして冒険者たちが状況を理解する間もなく、
気付けば彼らは、
家具が揃った木造の家の中に立っていた。
「ようこそ、僕の家へ」
ヴェインは椅子を指し示す。
「さて」
その表情が真剣なものへ変わる。
「依頼について、お話ししましょうか」




