エルフ王国 - 1
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
夜の闇に覆われた深い森の奥。
無数の光が木々の間で揺らめき、森全体が幻想的な輝きに包まれていた。
そこには、一つの国があった。
森の奥深くに隠され、民たちが自然に放つオーラによって照らされた王国。
長く美しい金髪、透き通るような白い肌、そして優雅に伸びた尖った耳。
その姿を持つ者たちは、王の治めるこの国で穏やかな暮らしを送っていた。
王は枢機卿たちと共に、このエルフの国を治めていた。
そんな王宮の廊下を、一人の男が静かに歩いていた。
背筋を伸ばした端正な姿。
腰まで流れる黄金の髪を揺らし、翡翠色のローブの下には白金の軽鎧を纏っている。
頭上には、エルフ王の証である荘厳な王冠。
彼は一人、王立図書館へと向かっていた。
その時――
「陛下! お待ちください!」
背後から慌ただしい声が響いた。
王は足を止め、ゆっくりと振り返る。
「どうした」
若い男性のエルフが息を切らしながら駆け寄ってきた。
「枢機卿の皆様がお呼びです。現在、会議室でお待ちになっています」
王は眉をひそめた。
「またか。今度は何だ」
使者は言い淀む。
「詳しくは分かりませんが……ダークエルフについて話していたように聞こえました」
その言葉に、王の表情が曇る。
「会議には出ないと伝えろ。それと、彼らが何を言おうと私は賛成しない、ともな」
「し、しかし陛下――」
王はそれ以上何も言わず、再び図書館へ向かって歩き出した。
使者は頭を下げることしかできず、その場を後にした。
王は図書館の扉を開ける。
迎えたのは静寂だけだった。
「……フルーシア?」
そう呼びかけても返事はない。
王は館内を歩き回りながら、再び名を呼ぶ。
「どこへ行った。面白いものを見つけたと言っていたのに」
返事はない。
広い図書館には、彼の足音だけが静かに響いていた。
コツ……
コツ……
コツ……
そして次の一歩を踏み出した瞬間――
その一歩だけが、どこまでも遠くへ落ちていく感覚に襲われた。
「……?」
王は自分の足元を見る。
確かに足は床についている。
なのに、前へ踏み出した足だけが、いつまでも地面へ届いていないような奇妙な感覚があった。
「何だ……?」
その瞬間。
世界が反転した。
床が顔へ向かって凄まじい勢いで迫ってくる。
落ちている。
そう理解した。
咄嗟に両手を前へ突き出して受け身を取ろうとする。
だが――
手の感覚がない。
まるで自分の身体ではないように、何一つ動かせなかった。
王は目を閉じ、衝撃に備える。
しかし。
痛みは訪れなかった。
ゆっくりと目を開く。
いつの間にか頭は床についていた。
だが、痛みを感じない。
いや――
身体そのものの感覚が、消えていた。
視界がゆっくりと霞んでいく。
思考も、次第に薄れていく。
やがて王は、そのまま意識を失った。
その頃――
アウエルはギルド酒場の扉を開けた。
酒場の中は、冒険者たちの笑い声と談笑で賑わっている。
彼は静かに中へ入り、いつものように周囲へ視線を向けることもなく歩き始めた。
活気に満ちた空気とは対照的に、その表情は相変わらず読み取れない。
いつもの席へ向かって歩いていると、一人の冒険者が声を掛けてきた。
「ようアウエル。故郷から召集がかかってるんじゃなかったのか?」
アウエルは足を止め、その男を見つめる。
「どういう意味だ?」
近づきながら問い返す。
「お前、クーツロ王国の出身だろ?」
「ああ」
「魔王軍が向こうで暴れてるって聞いたぜ」
「そうらしいな」
アウエルは興味なさそうに答えた。
「だったら何で帰って手伝わないんだ?」
アウエルは男をしばらく見つめ、それから肩をすくめた。
「俺が行く理由でもあるのか?」
男は目を瞬かせる。
「理由って……国王がクーツロ出身の冒険者を全員呼び戻して、魔王軍討伐に協力しろって言ってるんだろ?」
アウエルは少しだけ黙った。
そして淡々と言う。
「それが答えだ。国王は『助けを求めている』だけだ。俺はただの冒険者に過ぎない」
そう言って歩き出す。
「それに、あの国には最高峰の魔法学院もある。俺が行く必要なんてないだろ」
そのままエリンとリッカが座る席へ向かった。
二人はちょうど朝食を食べ終えたところだった。
「準備はいいか?」
リッカが尋ねる。
「ああ、行こう」
三人は依頼掲示板へ向かって歩き出す。
しかし、そこへ受付嬢が近づいてきた。
「失礼します。アウエルさんでいらっしゃいますか?」
「ああ」
「ギルドマスターがお呼びです。二階までお越しください」
「何かあったのか?」
「詳しくは分かりません。ただ、パーティー全員で来てほしいとのことです」
三人は顔を見合わせた。
「ありがとう」
礼を言うと、そのまま二階へ向かう。
ギルドマスター室の前まで来たアウエルは、扉を開けた。
中には、一人の大柄な男が机の向こうに座っていた。
黒い巻き毛をした逞しい男。
ギルドマスターだった。
「君がアウエルか?」
男が尋ねる。
アウエルは静かに頷いた。
「どうぞ、お掛けください」
アウエルは部屋の中央へ目を向けた。
そこには向かい合わせに置かれた二つのソファがあった。
片方は空席。
もう片方には二人が腰掛け、その後ろにさらに二人が立っている。
見覚えのある顔ぶれだった。
ブラックタートル。
ソファにはヘレンとアシュリー。
その後ろにはグラムとギルが立っていた。
「よう、久しぶりだな」
ギルが軽く手を挙げる。
三人は一礼し、向かいのソファへ腰を下ろした。
「それで、どうして俺を?」
アウエルはギルドマスターへ視線を向けた。
「いや、私が呼びたかったわけじゃない」
ギルドマスターはグラムへ親指を向ける。
「君を推薦したのはグラムだ」
アウエルはグラムを見る。
「理由は?」
「ギルドマスターに『頭の切れる奴を知らないか』って聞かれてな。だったら、お前しかいないと思った」
「それで?」
アウエルは再びギルドマスターへ視線を戻す。
「どんな依頼なんです?」
「その話なんだが……内容を説明する前に、まず依頼を受けてもらわなければならない」
アウエルは眉をひそめた。
「……なぜです?」
「依頼主が、この依頼の内容を他者へ漏らしたくないらしい」
ギルドマスターは腕を組む。
「だから、内容を聞いたあとで『やっぱり断ります』とはできないようにしたいんだ」
部屋に沈黙が流れた。
リッカが小声で囁く。
「なあ、これ怪しくないか? またこの前みたいな依頼だったらどうする?」
「……俺もそう思った」
アウエルも声を潜める。
「でもグラムたちがいる。たぶん今回は共同で動くことになるはずだ」
彼は少し考えながら続けた。
「それに、グラムは『頭の切れる奴が必要』って言った。つまり戦闘が目的の依頼じゃない可能性が高い」
「もし戦うことになっても、ブラックタートルがいれば十分戦力になる」
「……まあ、それはそうか」
リッカは小さく頷いた。
二人は視線を交わす。
そして、
「分かりました。この依頼、受けます」
アウエルが答えた。
「ありがとう」
ギルドマスターは頷く。
「依頼書の手続きはこちらで済ませておく。では、内容を説明しよう」
彼は一度区切ってから言った。
「君たちには――エルフの国へ行ってもらいたい」
「エルフの国?」
エリンが驚いた声を漏らす。
「ああ。依頼主はエルフだ。国外の人間に助力を求めている」
「待ってください」
アウエルが口を挟む。
「エルフの国は、外部との交流を断っているはずでは?」
「その通りだ」
ギルドマスターは頷く。
「だから依頼主本人が門で待っていて、お前たちを中へ案内するそうだ」
「ちょっと待て」
リッカが首を傾げる。
「交流を断ってるって、どういうことだ?」
「それを調べるためでもあるわ」
ヘレンが静かに答えた。
続けてグラムが口を開く。
「エルフの国が閉ざされた理由は――エルフ王が姿を消したからだ」
「えっ!?」
エリンが思わず立ち上がる。
「エルフ王が行方不明!?」
「ああ」
グラムは頷いた。
「依頼主は、そのエルフ王を探してほしいと言っている」
「ちょっと待てよ」
リッカが困惑した表情を浮かべる。
アシュリーがアウエルを指差した。
「だからグラムがあなたを推薦したのよ。依頼主は『国外の頭の切れるパーティー』を希望してたから」
ギルドマスターも続ける。
「最低でも一つのパーティー単位で動いてほしいそうだ」
「最初はブラックタートルだけを向かわせる予定だった」
「でも依頼主は『強いだけのパーティーはいらない』と言った」
「だから、お前たちが選ばれた」
グラムが締めくくる。
アウエルは少し考えてから尋ねた。
「ですが、なぜエルフは国外の人間に王探しを頼むんです?」
「そこが問題なんだ」
ギルドマスターは肩をすくめる。
「依頼主は何も話してくれなかった」
「ただ、エルフの国が閉ざされてから、もう二か月近く経っている」
「つまり、エルフ王も同じ期間行方不明ということになる」
彼は真剣な表情になる。
「だからこそ、依頼を受けてもらう前に内容は話せなかった」
「もし外部に『エルフ王が失踪した』という情報が漏れれば、エルフの国は確実に狙われる」
アウエルはさらに尋ねる。
「依頼主から他に聞いていることは?」
「いや、それだけだ」
ギルドマスターは首を振った。
「あとは現地で本人が説明するらしい」
リッカが小声で呟く。
「……なあ、ますます怪しくなってきたぞ」
「エルフ王って、勇者パーティーの一人だったよな?」
アウエルは静かに頷く。
「そんな奴が簡単に行方不明になるか?」
リッカは顔をしかめる。
「またナイトメア絡みだったりしないよな……」
アウエルは何も答えなかった。
しばらくして、小さく息を吐く。
「もう受けた以上、今さら考えても仕方ない」
そう囁くと、今度はエリンへ顔を向けた。
「例の巻物はどうだ。解読できたか?」
「う、うん……全部読めたよ。た、多分、一回だけなら使えると思う」
アウエルは黙り込む。
――だが、気をつけろ。失敗する可能性もある。
シヒルの言葉が脳裏によみがえる。
あの巻物が、本当にエリンを救える保証はない。
それでも、依頼はもう受けてしまった。
アウエルはギルドマスターへ視線を戻した。
「……それで、出発はいつですか?」




