奇妙な夢 - 3
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
また新しい一日が始まった。
小さな金髪の少女は、ベッドの上で気持ちよさそうに眠っていた。
すると――
「……ねえ」
誰かが小さな声で囁いた。
「おい、エリン。起きろ」
少女はゆっくりと目を開け、眠そうに目をこする。
ベッドの横には、ぼさぼさの黒髪をした少年が立っていた。
「ん……お兄ちゃん、どうしたの?」
「しーっ」
彼は慌てて唇に指を当てた。
「静かに。母さんが起きちゃうだろ」
エリンは眠そうに瞬きをする。
「ついてきてよ。森で何かを見つけたんだ」
ナールはにやりと笑った。
「森の中?」
エリンはぱっと起き上がる。
「でも、お母さんが村から出ちゃダメって……」
「ああ、わかってるよ」
ナールは小声で言った。
「だから、母さんが起きる前に戻ってくればいいんだ」
エリンは少し迷う。
「本当に怒られない?」
ナールは得意げに胸を張った。
「もちろん。見つからなければ平気さ」
エリンはしばらく彼を見つめ、それから小さく頷いた。
二人の兄妹は、静かに家を抜け出した。
早朝の村はまだ静まり返っている。
二人は慎重に森へと入り込んだ。
エリンはナールの袖をぎゅっと掴む。
「何を見つけたの?」
「しーっ。静かにして、ついてきて」
ナールは笑った。
二人は木々の間をさらに奥へと進んでいく。
その時――
「グオオオオオオッ!!」
獣の唸り声が響いた。
「な、なに……?」
エリンの身体が震える。
「しーっ……あれだよ」
ナールは彼女を茂みの後ろへ引っ張った。
二人は葉の隙間からそっと覗く。
そこには、一匹の巨大な黒い猪と対峙する冒険者たちの姿があった。
全長三メートル近い巨大な猪。
巨大な牙を持ち、尻尾には鋭い棘が生えている。
「あの人たちは?」
エリンが小さく尋ねる。
「冒険者だよ」
「冒険者?」
ナールは嬉しそうに頷いた。
「うん。世界中を旅して、魔物と戦って、人助けをする人たちなんだ」
エリンの瞳が輝く。
「絵本の勇者、覚えてるだろ?」
彼女は頷く。
「勇者も冒険者なんだ。だから、こういう魔物を倒して人を助けるんだよ」
冒険者は四人。
戦士、聖騎士、弓使い、そして魔法使い。
彼らは見事な連携で黒い猪を追い詰めていく。
まるで一つの生き物のように動いていた。
黒猪が突進すると、聖騎士が盾で受け止める。
その隙に弓使いが目を狙う。
魔法使いが杖を掲げ、灼熱の火球を放つ。
そして最後に、戦士が飛び込み、とどめの一撃を叩き込んだ。
巨獣は地面へと倒れ伏す。
その光景に、子供たちはすっかり見入っていた。
エリンは口をぽかんと開けている。
「ふぅ……骨が折れたな」
戦士が額の汗を拭った。
「解体してギルドに戻るぞ」
その時――
パキッ。
突然、枝が折れる音がした。
「誰だ!」
戦士が叫ぶ。
一行は即座に構え、音のした茂みへ視線を向けた。
エリンが誤って枝を踏んでしまったのだ。
ナールは慌てて二人の口を押さえる。
息すら殺す。
すると戦士が仲間へ合図を送り、ゆっくりと茂みに近づいてきた。
一歩。
また一歩。
空気が冷たくなっていく。
そして――
戦士が一気に飛び込み、茂みを斬り裂いた。
葉が真っ二つになる。
その瞬間、彼は目を見開いた。
「なっ……!?」
しかし――
そこには何もなかった。
「……リスか何かだろ」
仲間たちは安堵する。
そして再び黒猪の方へ戻っていった。
その頃には、兄妹は遠くまで逃げていた。
二人はようやく足を止め、息を整える。
ナールが笑った。
「どうだった? すごかっただろ?」
エリンの顔は興奮で輝いていた。
「うん! すごかった!」
彼女は両腕をぶんぶん振り回す。
「こうやって、びゅーんってなって、それからどーん!」
その不器用な真似に、ナールは思わず笑った。
「私も、いつかあんな魔法を使えるかな?」
「もちろん」
ナールは頷く。
「長老も言ってただろ? お前には才能があるって」
エリンの目がさらに輝いた。
「じゃあ……私も冒険者になれる?」
「もちろんさ」
ナールは笑った。
「大きくなったら、一緒に冒険者になろう」
「約束だよ!」
エリンは小指を差し出す。
「ああ、約束だ」
ナールも小指を絡めた。
二人は、将来一緒に冒険者になる約束を交わした。
「でもその前に、母さんに気づかれる前に帰ろう」
二人は急いで村へ戻った。
だが――
森を抜けた瞬間、一人の女性が立っていた。
怒りに満ちた冷たい顔。
「か、母さん……」
ナールの顔が青ざめる。
母親は怒りを滲ませながら歩いてきた。
「か、母さん、ごめん! 俺はただ――」
パァン!
言い終わる前に、彼は平手打ちを受けた。
勢いよく吹き飛び、地面へ転がる。
「お兄ちゃん!」
エリンが駆け寄ろうとする。
しかし、母親が彼女の腕を強く掴んだ。
「今日は食事抜きです」
冷たい声だった。
そのままエリンを引っ張って村へ戻っていく。
ナールだけが地面に残された。
熱を持つ頬を押さえながら。
それは、この村ではごく当たり前のことだった。
どんな理由があろうと、村の外へ出ることは禁止されていた。
――ある日。
兄妹が食卓で昼食を取っていると、家の扉が叩かれた。
ナールが扉を開ける。
そこに立っていたのは、一人の老人だった。
禿げ上がった頭。
口元まで伸びた白い髭。
村の長老だった。
長老はナールを見下ろし、嫌悪の目を向ける。
「母親はいるか?」
「あ……ちょっと待ってください」
ナールは母の部屋へ駆け込む。
「母さん、長老様が来てる」
母親は驚き、慌てて玄関へ向かった。
長老の姿を見ると、すぐに姿勢を正す。
「ち、長老様……ご用件でしょうか?」
長老は彼女の後ろにいるナールをちらりと見た。
「外で話そう」
「は、はい」
二人は外へ出て扉を閉めた。
ナールはこっそりと耳を澄ます。
「……それで、ご用件は?」
「お前の娘、エリンだ。今夜、儀式を受けてもらう」
「こ、今夜ですか……!?」
彼女は息を呑む。
「何か問題でも?」
母親の目が震えた。
「い、いえ……光栄です」
「では、今夜また会おう」
母親の顔が真剣になる。
家へ戻ると、彼女はエリンを部屋へ連れて行き、鍵をかけた。
一方、ナールは会話を聞いていた。
怖かった。
だが、何もできない。
夜が訪れる。
村の中央には、すでに村人たちが集まっていた。
皆、同じ白いローブを纏い、顔は奇妙な白い頭巾で隠されている。
松明の火が村を照らしていた。
村人たちはゆっくりと円を描いて歩きながら、絶えず詠唱を続けている。
ナールはその外側で見つめていた。
「お兄ちゃん……」
震える声。
「エリン? どうしたんだ?」
彼女の小さな身体は震えていた。
「……怖いの」
「怖い?」
「失敗したらどうしよう……」
ナールの顔が曇る。
失敗した子供がどうなるのか、彼は知っていた。
それでも彼は笑う。
「大丈夫だよ。きっと成功する」
「でも、もし失敗したら……」
ナールはしゃがみ、妹の手を握った。
「大丈夫」
彼は優しく微笑む。
「俺だって失敗したけど、生きてるだろ?」
「だから、もし失敗してもきっと大丈夫だ。」
「でも、お前はきっと成功するよ」
「だって、お前は俺よりすごいんだから」
エリンは少しだけ安心した。
その時――
「エリン!」
二人はびくりとする。
母親だった。
「こんなところで何をしているの!」
「お、お母さん、ごめ――」
母親は駆け寄り、エリンを乱暴に引き離した。
ナールのことなど一度も見ない。
そのまま連れて行ってしまう。
ナールは暗い顔で妹の背中を見つめた。
儀式が始まる。
人々は円を描き、詠唱を続ける。
エリンは長老の隣に立っていた。
長老が呪文を唱える。
「おお、偉大なる神よ。我らに祝福を……」
エリンはゆっくりと円の中心へ歩いていく。
一人、また一人と、村人たちが彼女へ跪く。
エリンが中央へ辿り着くと、人々は身体を揺らしながら詠唱を続けた。
声はどんどん大きくなる。
そして――
黒い魔法陣が現れ、群衆を包み込んだ。
ゆっくりと、奇妙な紋様がエリンの身体を覆っていく。
突然。
彼女は膝をついた。
「アアアアアアアッ!!」
悲鳴が夜を切り裂く。
だが、誰も動かない。
村人たちはさらに大きな声で詠唱を続けた。
ナールは遠くから見ていることしかできなかった。
足が動かない。
エリンは地面へ倒れ込み、身体が人間とは思えない形へと捻じ曲がっていく。
引き裂かれるような痛み。
叫び。
悲鳴。
そして、黒い魔法陣がゆっくりと白く染まっていく。
長老が両腕を掲げた。
「神が……神が我らに祝福を与えてくださった!」
人々は歓喜の声を上げる。
儀式は成功した。
だが、ナールだけは違った。
彼はその場に崩れ落ちる。
妹がこれから受ける苦しみを思って。
その日から、エリンは家へ帰ってこなかった。
村の倉庫へ閉じ込められたのだ。
一日が過ぎても。
また一日が過ぎても。
夜が来るたびに。
彼女の悲鳴だけが村に響き続ける。
それでも、誰も気にしなかった。
ナールは何もできない。
儀式に成功した子供は、皆そうなることを知っていたから。
――ある日。
ナールは一冊の本を持って倉庫へ向かった。
兄妹がいつも読んでいた本。
世界を救った勇者の物語。
彼は隙間からそっと本を差し入れる。
中でエリンがそれを拾った。
「お兄ちゃん……?」
「しーっ、俺だよ」
彼は小さく囁く。
「ずっと閉じ込められて退屈だろうと思ってさ」
エリンの目が輝いた。
彼女は本をぎゅっと抱きしめる。
「……ありがとう」
数日後。
母親がナールの部屋へやって来た。
手には、あの本があった。
そして――
ドン!
彼の頭を本で殴りつけた。
ナールは床へ倒れる。
「これをあの子に渡したのは、お前ね?」
質問ではなかった。
ナールは母親を睨み上げた。
もう怒りを抑えられなかった。
「そうだよ! エリンはまだ子供なんだ! あんな扱いをされるべきじゃない!」
パァン!
再び頬を叩かれる。
「今、何と言った?」
母親の顔が歪む。
「子供ですって? あの子がどれほど尊い存在かわかっているの!?」
「神の祝福を授かったのよ! それを、お前みたいな役立たずと同じにしろと言うの!?」
ナールは立ち上がった。
「何言ってるんだよ!」
「こんなの祝福なんかじゃない!」
「この村で祝福を受けた子供は、みんな数日後に死んでるじゃないか!」
パァン!
今度はさらに強く叩かれた。
「黙りなさい!」
母親は怒りで顔を歪める。
「役立たずのお前が何を知っている!」
「祝福を授かることすらできなかったくせに!」
「この祝福だけが、私たちに幸せをもたらすのよ!」
「エリンがその力を使えば、王国へ復讐できる!」
ナールは呆然とした。
「……復讐?」
「そんなくだらない復讐のために……エリンを犠牲にするのか?」
母親は彼の襟を掴み上げる。
「くだらないですって?」
「お前の父親は、王国に認めてもらうために死んだのよ!」
「それをくだらないと言うの!?」
彼女はナールを床へ投げ捨てた。
「もう一度でもエリンに近づいたら……殺すわよ」
そして部屋を出ていった。
ナールは床に座り込んだまま震えていた。
そして――決意する。
その夜。
彼は家を抜け出し、倉庫へ向かった。
手には一本のシャベル。
慎重に鍵を壊そうとする。
パキッ。
鍵が壊れた。
周囲を見る。
誰もいない。
ゆっくりと中へ入る。
広い部屋。
子供一人には広すぎる。
中には毛布しかない。
彼はエリンの隣へしゃがみ込む。
「なあ、エリン。起きて」
エリンが目を覚ます。
「お兄ちゃん……?」
「逃げよう」
「……逃げる?」
「うん。この村を出るんだ」
「でも……誰かに見つかったら……」
「もう真夜中だ。みんな寝てる」
エリンはまだ迷っていた。
ナールは小指を差し出す。
「約束、覚えてるだろ?」
「一緒に冒険者になるって」
エリンは頷いた。
「この村にいたら、俺たちは絶対に冒険者になれない」
「だから逃げるんだ」
ついにエリンは頷いた。
二人は村を抜け出した。
ナールは妹の手をしっかりと握る。
慎重に村を抜け、森へ向かって走った。
その時――
ザシュッ。
見えない力が走り、ナールの手首が切り飛ばされた。
兄妹の手が離れる。
「ぁあああっ!」
エリンは兄を助けようとする。
だが、見えない壁に阻まれた。
二人は引き離される。
ナールは地面へ倒れ込んだ。
切断された腕の先から、止めどなく血が噴き出していた。
エリンは泣き叫びながら壁を叩く。
だが、その叫び声は壁の向こうへ届かなかった。
そして――
闇の中から、一つの人影が現れる。
母親だった。
彼女はエリンの腕を掴む。
エリンは必死に暴れた。
蹴り、抵抗し、兄のもとへ行こうとする。
だが、無駄だった。
ナールには何もできない。
切断された手。
止まらない出血。
ぼやけていく視界。
そして――彼は意識を失った。
最後に見たのは。
声も届かないまま、泣き叫びながら引きずられていくエリンの姿だった。
「……それが、お兄ちゃんを最後に見た時でした」
エリンは静かに言った。
声が震えている。
「それから……」
彼女は俯く。
「村の人たちは、何度も……何度も私に神魔法を使わせようとしたんです……」




