奇妙な夢 - 2
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
どこかで、一人の小さな金髪の少女がゆっくりと目を開けた。
頭には包帯が巻かれている。
彼女は眠たげに目をこすり、辺りを見回した。
そこは自分の家ではなかった。
古びた木造の小屋のようだったが、不思議と部屋の中は暖かかった。
柔らかなベッドが小さな身体を包み込み、質素な家具が部屋を満たしている。
壁際には棚、ベッドの近くには小さな机、そして隅々にはささやかな飾りがきちんと並べられていた。
すると、きぃ……と扉が開き、一人の老婆が皿を持って部屋に入ってきた。
「まあ、目が覚めたのね」
少女は慌てて毛布を頭まで引っ張り上げた。
老婆は少し立ち止まり、それからゆっくりと近づいてベッドの端に腰掛ける。
「大丈夫よ、怖がらなくていいの」
彼女は皿を優しく膝の上に置いた。
「ほら、ご飯を持ってきたの。こんなに長く眠っていたんだもの、お腹が空いたでしょう?」
老婆は優しく話しかけるが、少女は毛布の中に隠れたまま、小さく震えていた。
老婆は柔らかく微笑む。
「今朝、畑で採れたばかりの野菜なの。私が自分で摘んできたのよ」
それでも反応はない。
少女は毛布の下で小さく身を縮めているだけだった。
老婆はその小さな膨らみを優しく撫でた。
「いいのよ。ここに置いておくから、食べたくなったら食べなさい」
彼女は皿を机の上に置き、立ち上がる。
そして最後にもう一度だけ毛布を優しく撫でると、静かに部屋を後にした。
外では、一人の老人が待っていた。
「どうだった?」
「目は覚ましたわ。でも、とても怯えているみたい。かわいそうに、一言も話してくれないの」
「食べたか?」
「まだよ」
老人は眉をひそめた。
「それで、あの子を見つけたのはどこだったかしら?」
「森だ。頭に怪我をして気を失っていた」
「近くに誰もいなかったの?」
老人は首を横に振る。
「ああ。何度か周囲を探したが、誰も見つからなかった」
老婆は部屋の扉へ視線を向けた。
「あんな小さな子が、どうして一人で森なんかに……」
老人はため息をつく。
「近くの村の子かもしれん。少し聞いて回ってみるよ」
「ええ、早く行ってあげて」
――部屋の中。
少女はゆっくりと毛布から顔を覗かせた。
その時――
ぐぅぅぅ……。
お腹が大きく鳴る。
彼女は机の上のサラダへ視線を向けた。
小さな手で毛布をぎゅっと握る。
最初は食べるか迷っていた。
扉を見る。
また料理を見る。
そして、もう一度扉を見る。
何度も落ち着かない様子で視線を行き来させたあと――空腹が勝った。
彼女はそろそろとベッドから降り、皿へ手を伸ばした。
最初は恐る恐る。
だが、すぐに夢中で食べ始めた。
やがて皿は空になった。
少女はしばらくそれを見つめ、静かに机へ戻す。
それから扉へ視線を向けた。
ゆっくりと近づき、鍵穴から外を覗こうとする。
だが、鍵穴は高すぎた。
つま先立ちをする。
それでも届かない。
その時――
きぃ……
扉がゆっくりと開いた。
少女はびくりと身体を震わせる。
しかし、何も起こらない。
彼女は扉の隙間からそっと覗いた。
小屋の中には誰もいない。
しばらく迷った末、彼女は扉をさらに押し開き、外へ出た。
そして、その光景に目を見開く。
小屋の中はとても素敵だった。
素朴な木の棚。
布で作られた飾り。
立派な食卓と椅子。
編み込まれた絨毯。
決して豪華ではない。
それでも、彼女にとっては別世界のように思えた。
少女はゆっくりと歩き回り、何もかもを不思議そうに見つめる。
その時、外から音が聞こえた。
彼女は玄関へ視線を向ける。
最初はそのまま覗こうとしたが、先ほどのことを思い出し、小屋の中を見回した。
そして、食卓の椅子を静かに窓際まで引きずる。
音を立てないよう慎重に。
椅子へ登り、窓の外を覗いた。
そこには畑が広がっていた。
老婆が一人、作物を収穫している。
少女はしばらくその姿を見つめていた。
そして、何かを思い出した。
彼女の顔から血の気が引く。
次の瞬間、彼女は椅子から飛び降りた。
小屋の中を見回し、裏口を見つける。
そして駆け出した。
静かに扉を開き、こっそりと外へ抜け出す。
彼女は森の中を走った。
細い道を、本能に従うように駆けていく。
まるで足が道を覚えているかのように。
やがて、森の出口が見えた。
村だ。
自分の村。
だが、何かがおかしい。
静かすぎる。
少女は誰かを探しながら、人気のない道を歩いた。
「……ママ」
呼んでみる。
返事はない。
村は静まり返っていた。
彼女は村中を探し回る。
だが、何も見つからない。
目に映るのは、壊れた建物。
地面に散らばった服や武器。
「ママ……!」
今度は少し大きな声で呼ぶ。
それでも、返事はなかった。
やがて太陽が傾き始める。
少女はゆっくりと森へ引き返した。
うつむきながら木々の間を歩いていく。
その時――
「お嬢ちゃん……」
声がした。
老婆だ。
「お嬢ちゃん、どこにいるの?」
そして老婆は彼女を見つけ、慌てて駆け寄ってきた。
「ああ、ここにいたのね」
少女は反射的に一歩下がる。
瞳に恐怖が宿る。
だが、老婆は無理やり掴んだりはしなかった。
優しく彼女を抱きしめた。
「本当に心配したのよ」
少女の身体が固まる。
――この感覚。
知らない。
でも、暖かい。
ぽろり、と涙が零れた。
「大丈夫。私がいるわ」
老婆は優しく髪を撫でる。
少女は泣き始めた。
老婆はさらに強く抱き寄せる。
「さあ、お家に帰りましょう。お腹も空いたでしょう? 何か作ってあげるから」
二人は小屋へ戻り、老婆は再び食事を用意した。
少女は食卓に静かに座る。
小さな足が床に届かず、ぶらぶらと揺れていた。
料理が置かれると、彼女はすぐに食べ始めた。
その時、玄関の扉が開いた。
老人が戻ってきたのだ。
「あら、おかえり。何かわかった?」
老人はため息をつく。
「ああ。一つの村で、行方不明になった少女がいるらしい」
老婆の顔が明るくなる。
「本当に?」
「だが、特徴が違う。黒髪の子だと言っていた」
老婆は眉をひそめた。
「名前は?」
「ああ。リズというらしい」
老婆はゆっくりと少女へ近づいた。
腰を下ろし、優しく尋ねる。
「ねえ、少しだけ答えてくれるかしら?」
少女は返事をしなかった。
だが、小さく頷いた。
「あなたの名前はリズ?」
少女は首を横に振る。
老夫婦は顔を見合わせた。
老婆は優しく微笑む。
「それじゃあ……あなたのお名前は?」
少女はうつむいた。
「……エ……リン」
――世界の別の場所。
深い森の中。
アウエルとリッカ。
その背後に、シヒルが立っていた。
口元には大きな笑み。
二人は凍りついた。
まったく気配を感じさせず、いつの間にか背後へ立っていたのだ。
アウエルの胸が締め付けられる。
――何も感じなかった……どうしてだ?
「いやぁ、君たちがナイトメアを倒すなんてね。驚いたよ」
シヒルは気軽に言う。
笑みがさらに深まる。
「それで、一番驚いたことが何だと思う?」
その瞳が怪しく輝く。
「誰一人、死ななかったことだよ」
瞬間。
リッカが剣を抜き、突きを放った。
だが――
剣は空中で止まった。
何か見えない壁がそれを防いでいる。
「おっと、落ち着いて。僕はただ話したいだけなんだ」
リッカは剣を引き、立ち上がる。
炎を纏わせ、再び斬りかかる。
しかし、シヒルは面倒そうに手を上げ、指を向けた。
――BAM!
凄まじい衝撃。
リッカの身体が吹き飛ぶ。
木へ叩きつけられ、そのまま気を失った。
「やれやれ~」
シヒルはため息をつく。
「熱血系の男って本当に苦手なんだよねぇ。話が通じない」
そして視線をアウエルへ向ける。
「でも君は違いそうだ。どうかな――」
「黙れ」
アウエルが構える。
傷口から血が滴り落ちていた。
「黙れ……黙れよ」
「おやぁ? ずいぶん口が悪いね」
「クソみたいなバタラ相手に、なんで礼儀なんか必要なんだ」
シヒルの顔に大きな笑みが浮かぶ。
そして、楽しそうに笑い始めた。
「ははっ、君は本当に面白いな。普通の頭のいい冒険者だと思っていたけど、どうやら全然違うみたいだ」
「そう、僕がバタラだとして……問題なのは君の方だよ」
アウエルは剣を強く握る。
「おかしいと思わないかい?」
シヒルは笑う。
「どうして一介の冒険者が神聖魔法を知っている?」
「噂くらい聞いたことがある人間はいる。でも、あの刻印を見ただけで神聖魔法だとわかる人間なんていない」
「なのに君は違った」
彼は目を細める。
「まるで……覚えていたみたいにね」
アウエルは唇を噛む。
「もっと君のことを知りたくなったよ。君は僕がバタラだと知っている。でも僕は、君が何者なのか知らない」
「君の仲間たちですら知らないみたいだし……そうだろう?」
「……俺たちに何が目的だ」
「ん~? 何もないよ」
シヒルの視線が別の方向へ向く。
「でも、君には……彼女と話す必要があると思うけどね」
ゆっくりと笑みを浮かべる。
「何を――」
アウエルの視線がその先を追う。
そして、凍りついた。
一人の少女が立っていた。
青白い肌。
顔を隠すほど長い茶色の髪。
服はボロボロに裂け、至る所に焼け焦げの跡。
肌にまで火傷が残っている。
アウエルは膝から崩れ落ちた。
胸が激しく締め付けられる。
呼吸が乱れる。
冷や汗が顔を伝う。
シヒルは小さく微笑んだ。
「二人でゆっくり話すといいよ。その間に、僕はこの二人を連れて行くから」
彼はエリンとリッカを抱え、森の外へ歩いていく。
アウエルだけがその場に残された。
動けない。
少女がゆっくりと近づいてくる。
一歩。
また一歩。
そのたびに身体の震えが強くなる。
視界がぼやける。
頭が痛い。
彼女は目の前でしゃがみ込んだ。
そして、ゆっくりと唇を動かす。
「……嘘つき」
その一言が胸を貫いた。
激痛が走る。
胃がねじれる。
喉が焼ける。
呼吸が止まる。
視界が回る。
次の瞬間――
彼は吐いた。
胃の中のものをすべて吐き出す。
胸を押さえながら激しく咳き込み、必死に空気を求めた。
頭が割れそうに痛む。
再び顔を上げた時――
少女の姿は消えていた。
残っているのは静寂だけ。
アウエルはよろめきながら立ち上がる。
剣を握り、森の外へと歩き出した。
――翌朝。
エリンがゆっくりと目を開けた。
そこはシヒルの小屋だった。
今は彼の姿はない。
彼女はソファで眠っていた。
向かいのソファでは、リッカが眠っている。
ゆっくりと横を見る。
アウエルが静かに座り、彼女を見つめていた。
「あ……アウエル、もしかして――」
だが、彼の姿を見て息を呑む。
顔色は青白く、全身に包帯が巻かれていた。
「ご、ごめんなさい……わ、私……」
声が震える。
「気にするな。死にかけたのはお前の方だ」
彼の声は平坦だった。
アウエルはじっと彼女を見つめ続ける。
長い沈黙。
そして――
「……お前、何者だ?」
「え……?」
エリンの身体が強張る。
「お前も……バタラなのか?」
「ち、違います……わ、私はただ……」
声が震える。
アウエルの視線が鋭くなる。
「じゃあ、どうして神聖魔法を使えた?」
エリンは息を呑み、ゆっくりと視線を逸らした。
「わ、私は……」




