奇妙な夢 - 1
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
ナイトメアと天使は互いを見つめ合っていた。
上空では、天使が微動だにせず静かに浮かんでいる。
純白の衣は流れる雲のようにたなびき、風の影響すら受けていない。
一方、ナイトメアは天使を見上げていた。
狂気じみた異形の怪物が、その醜悪な身体を引きずりながら天使を見上げていた。
無数の人体が連なった異形の身体が、地を這っている。
天使の翼はゆっくりと優雅なリズムで羽ばたき、そのたびに光の羽が戦場へと舞い落ちた。
対してナイトメアは泥の上を這い進む。
無数の腕が地面を掻き、ねじれながらその巨体を前へと運んでいた。
互いに視線を交わしたまま、アウエルとリッカはただ呆然と立ち尽くしていた。
その時――
悲鳴が戦場を切り裂いた。
アウエルは弾かれたようにエリンを見る。
彼女は膝をつき、全身を激しく痙攣させていた。
その叫びは生々しく、まるで獣の断末魔のようだった。
傷の痛みによる悲鳴ではない。
内側から引き裂かれているような叫び。
彼女の背が不自然に反り返る。
指先は自らの肌を掻きむしり、血が滲んでいた。
アウエルは腹の傷を押さえながら、ゆっくりと彼女へ這い寄る。
「エリン……」
「あああぁぁぁぁっ!!」
彼女は地面へと倒れ込み、苦しげにのたうち回った。
全身の筋肉が制御不能なほど痙攣している。
まるで見えない手が、あらゆる方向から彼女を引き裂こうとしているかのようだった。
アウエルは傷を抱えたまま彼女へ駆け寄る。
身体は激しく震え、歯がカチカチと鳴っている。
呼吸は乱れ、途切れ途切れだった。
アウエルは恐怖に顔を歪めながら彼女の肩を掴む。
その身体は――神性そのものに焼かれていた。
その時。
天使が動いた。
舞い落ちた羽を一枚摘み取り、両手で包み込むように胸の前へ掲げる。
静かな祈り。
その指先へ光が集まり、徐々に強く輝いていく。
対するナイトメアは、自らの腕を引きちぎり、いくつもの骨の刃を生み出した。
先に動いたのはナイトメアだった。
異形の身体が凄まじい速度で地を駆ける。
だが、天使は静かだった。
穏やかに。
ただ祈りを続ける。
やがてその手がゆっくりと開かれる。
羽根が空中に浮かび上がった。
光が形を成し始める。
羽根に亀裂が走り――武器へと変貌した。
それは槌。
輝く白金によって鍛えられ、その表面には生きているかのように脈動する黄金の紋様が刻まれている。
天使は右手でその槌を握り――
ナイトメアの顔面へ叩きつけた。
――BAM!!
衝撃で地面が砕け散る。
怪物の巨体は大きく吹き飛ばされた。
しかし、すぐに体勢を立て直し反撃する。
――BAM!!
再び槌が顔面へ叩き込まれた。
ナイトメアは遠くへ吹き飛ばされる。
天使は翼を一度羽ばたかせた。
その瞬間、狂気じみた速度で前へ。
再び槌を振るう。
今度は下からの一撃。
ナイトメアは身体を捻り、無数の骨の刃で反撃した。
しかし天使はわずかに身を傾けるだけ。
優雅に。
あまりにも容易く。
――BAM!!
再び槌が振り下ろされる。
ナイトメアの身体が衝撃で折れ曲がった。
リッカはその光景を呆然と見つめていた。
だが、ふと我に返る。
地面ではエリンがなおも苦しんでいる。
その悲鳴は先ほどより弱い。
だが、それ以上に恐ろしかった。
まるで喉の内側から裂けているような声。
アウエルは必死に彼女を押さえている。
「おいアウエル! あれは何なんだ!? あれもナイトメアなのか!? それにエリンはどうなってるんだ!?」
「分からない……でも一つだけ確かなことがある。」
アウエルは苦しそうに言った。
「あの天使はエリンが呼び出した。そして……その代償で彼女がこうなっている。」
ナイトメアは身体を起こした。
まるで獲物を狙う獣のように、低く這いながら天使の周囲を回る。
天使が再び槌を振るう。
しかしナイトメアは避け、そのまま周囲を回り続けた。
そして――
突然、飛びかかった。
無数の腕が天使の衣を掴み、その身体をよじ登っていく。
骨の刃が何度も何度も突き立てられた。
刺し。
裂き。
貫く。
だが――
天使は一切反応しない。
血も流れない。
表情も変わらない。
やがて天使は静かに顔を上げた。
そして小さく、旋律を口ずさむ。
どこか悲しげな、優しい歌。
次の瞬間。
空から甲高い叫び声が響いた。
耳を裂くような高音。
そして――
天から光の柱が降り注ぐ。
天使とナイトメアの両方を飲み込んだ。
しかし天使には何の変化もない。
だがナイトメアは違った。
絶叫。
その身体に白い炎が燃え上がる。
ナイトメアは地へ落ちた。
天使は静かに後ろへ漂う。
手から槌を離すと、それは天使の傍らに静かに浮かんだ。
再び羽を一枚手に取り、胸の前で祈りを捧げる。
ナイトメアの身体が痙攣した。
そして――頭が落ちる。
ゆっくりと、その肉体に亀裂が走り始める。
長く。
さらに長く。
やがて身体が真っ二つに裂けた。
その中から、新たな肉体が這い出してくる。
だが今度は違う。
青白い肌ではない。
全身を赤い血管が覆い、その下で脈打っている。
骨が鎧のように全身から突き出していた。
裂けた前方の身体から新たな胴体が生まれる。
そして地面に落ちた頭を拾い上げ、首へと繋げた。
頭部も変化していく。
皮膚はしわだらけになり、
目は今にも飛び出しそうなほど見開かれ、
笑みは異常なほど大きく裂けていく。
その口からは鋭い牙が溢れ出し、口の外にまで突き出していた。
ナイトメアは顔を上げ、口を開く。
そして自らの口へ腕を突っ込む。
ゆっくりと――
背骨を引きずり出した。
椎骨が一つずつ抜け落ち、鋭い骨の鞭へと変わっていく。
その頃、天使の腕には再び光が集まっていた。
天使はゆっくりと手を開く。
羽根に亀裂が走り――槍へと姿を変える。
白金と黄金の槍。
柄には紅いリボンが夕暮れのように揺れていた。
天使は左手に槍を握り、
右手には浮かぶ槌を掴む。
そして――
両者は同時に動いた。
槌がナイトメアの顎を打ち上げる。
ナイトメアは身体を捻り、背骨の鞭を振るった。
ガブリエルは槍でそれを受け止める。
しかし鞭は槍へと絡みつく。
ナイトメアは強く引いた。
そしてもう片方の手で突き刺す。
その手から鋭い骨が伸び、天使の胸を貫いた。
それでも。
その表情は変わらない。
天使は槌を持ち上げ、振り下ろす。
しかしナイトメアは胸を貫いていた腕を引きちぎり、攻撃を回避した。
その頃。
戦場の反対側では、エリンの悲鳴がさらに酷くなっていた。
身体は激しく暴れ、アウエルとリッカでは押さえつけるのがやっとだ。
目は完全に白くなり、
口元には泡が浮かんでいる。
顎は小刻みに震え、全身の骨が自ら砕けようとしているようだった。
「おい! 何かこの震えを止める方法はないのか!?」
「分からない……!」
その時、アウエルは戦場を見る。
「ひとまず森の中へ移動するぞ。」
「森の中? でも俺たち閉じ込められてるんだろ?」
「ああ。でも、あの二体のどっちが勝つか分からない。」
アウエルは低く言った。
「仮に天使が勝ったとしても……あれが味方とは限らない。」
「ひとまず森に隠れて、それから脱出方法を考えよう。」
リッカは頷いた。
二人はエリンを抱え、木々の奥へと運んでいく。
その間も二体の戦いは激しさを増していた。
鞭が胸を狙う。
だが天使は攻撃が届く前に腕を切り落とした。
切断された腕。
しかしそこから新たな腕が生え、空中の切断された腕を掴み、再び鞭を振るう。
鞭が槍へ絡みつく。
引き寄せられた天使へ向けて、ナイトメアは口を開いた。
鋭い牙がさらに大きく裂けていく。
――BAM!!
槌が顔面を粉砕する。
続いて槍が突き出され、身体を貫き、そのまま真っ二つに裂いた。
しかし切断面から無数の手が生える。
手の上に手。
さらに手。
数十。
数百。
互いを探し、掴み合い、繋がっていく。
そして裂けた身体を無理やり引き寄せ始めた。
天使は再生する前に、その顔へ槍を突き立てる。
しかしナイトメアは頭を持ち上げ、口を開く。
口の中から大量の腕が生え、槍を受け止めた。
気が付けば、ナイトメアの身体は完全に元通りになっていた。
口の中の腕が槍を掴み、引きずり込もうとする。
その時。
天使は翼を羽ばたかせた。
羽が雨のように降り注ぐ。
その羽へ光が集まる。
やがて羽は砕け、小さな光の剣へと変わった。
無数の光剣。
それらが一斉に降り注ぐ。
ナイトメアは別の腕を巨大な骨へ変え、天使の顔面を殴りつけた。
だが――
ズドッ! ズドッ! ズドッ!
光の剣が地面へ腕を縫い付ける。
ナイトメアは動けない。
天使は槌を掲げた。
――BAM! BAM! BAM!
衝撃のたび、大地が砕ける。
何度も。
何度も。
そしてゆっくりと槍を持ち上げる。
槍に光が宿る。
次の瞬間――
顔面へ突き刺した。
ナイトメアは絶叫し、再び口から無数の腕を伸ばして防ごうとする。
しかし無駄だった。
槍はそれらを切り裂き、そのまま顔を貫いた。
ナイトメアは動きを止める。
全身が灰色へと変わり、無数の亀裂が走る。
そして――
崩れ落ちた。
灰となって。
吹き抜けた風が、その灰を運んでいく。
ナイトメアは倒された。
天使は静かに、荒れ果てた戦場の上へ浮かんでいた。
やがて武器を手放す。
槌と槍は砕け、光へと還る。
そして天使は胸の前で手を組む。
その身体はゆっくりと空へ昇っていく。
再び光となり――天へと帰っていった。
天使は消えた。
森の奥。
突然、エリンの悲鳴が止まる。
リッカが目を見開いた。
「お、おい……叫ぶのをやめたぞ。」
二人はそっと彼女を地面へ寝かせる。
身体はまだ震えている。
唇もかすかに震えていた。
瞳は焦点を失い、ぼんやりとしている。
その時。
再び影が動いた。
アウエルとリッカは空を見上げる。
空が――動いている。
夜から昼へ。
昼から夜へ。
何度も何度も。
「おいおい……今度は何だよ……。」
リッカが呟く。
だが今度は長く続かなかった。
空は夕方近くで止まる。
「ま、待て……俺たち、時間を巻き戻ったのか? あの天使があいつを倒したってことか……?」
「分からない。」
アウエルはエリンの脈を確かめる。
生きている。
「この変な紋様……何なんだ?」
リッカがエリンの身体を覆う模様を見つめながら言った。
アウエルの表情が暗くなる。
「正確には分からない……でも予想するなら……神聖魔法だ。」
「し、神聖魔法!? な、何だよそれ! じゃあエリンは神様なのか!?」
「違う……いや、分からない。」
アウエルは首を振った。
「ただ、この術を通してあの天使が召喚された。」
「そして……俺の知る限り、神聖魔法は本当に危険だ。術者を殺すことさえある。」
「なっ!?」
「落ち着け。助けを探そう。まだ間に合うかもしれない。」
「助けなど必要ない。彼女は無事だ。」
アウエルとリッカは凍りついた。
空気が一瞬で冷たくなる。
足音は一切聞こえなかった。
気配もない。
危険察知にも何も引っかからない。
それなのに――
すぐ後ろに誰かが立っている。
聞き覚えのある声。
なのに、まったく気配を感じなかった。
アウエルの本能が警鐘を鳴らす。
――何だ……どうしてだ?
――何も感じなかった。
――リッカですら気づけなかったのか?
「神聖魔法について知っているのはあの子だけだと思っていたんだけどね。」
「でも、どうやら違ったみたいだ。」
「君も随分と詳しいじゃないか。」
二人はゆっくりと振り返る。
そこには――
満面の笑みを浮かべたシヒルが立っていた。




