悪夢 - 2
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
その瞬間、ナイトメアが突進した。
無数の腕で地面を掻きながら、果てのない身体を引きずるように前へと進む。
そして――
その腕の鞭が振るわれた。
三人は即座に散開する。
先ほどまで彼らが立っていた場所に、無数の白い腕が地面へ叩きつけられた。
だが、ナイトメアは止まらない。
身体を捻り、今度はリッカへ向けて鞭を振るう。
「ちっ……!」
リッカは後方へ飛び退いた。
だが――
鞭の先端にあった一本の手が、まるで意思を持つかのように動いた。
そして、リッカの足首を掴む。
「なっ!?」
ナイトメアはそのまま鞭を引き戻し、リッカを地面へ叩きつけた。
ドォン!!
身体が激しく地面へ叩きつけられる。
「リッカ!」
エリンが叫ぶ。
だが次の瞬間、ナイトメアはそのまま彼女へと狙いを変えた。
「アースウォール!」
地面が震え、石壁が隆起する。
直後、腕の鞭がそれへ激突した。
そして同時に――
アウエルが消える。
次の瞬間、ナイトメアの顔の前へ現れた。
「はぁっ!」
頭部へ向けた突き。
剣先が頭部へと放たれる。
しかし、ナイトメアは再び異常な柔軟性で身体を反らした。
何本もの腕が顔を庇うように持ち上がる。
さらに、腕の鞭が捻れながらアウエルへ迫る。
指先が彼を掴もうと伸びた。
アウエルは剣を引き、横へ跳ぶ。
……
やはりだ。
こいつはいつも顔を守る。
あそこが弱点か。
ナイトメアが再び鞭を振るう。
アウエルは深く息を吸い、ゆっくりと剣を鞘へ納めた。
攻撃が届く寸前――
彼の姿が消える。
そして再び、ナイトメアの目の前へ。
カチッ。
「っ!」
斬り上げ。
刃が顔面を切り裂く。
同時に、遅れて発生した斬撃が背後で炸裂し、鞭を無数の肉片へと切り刻んだ。
ナイトメアが悲鳴を上げる。
身体を引きずりながら後退する。
「バインド!」
黄金の光がいくつも現れ、ナイトメアの身体へ絡みつく。
その動きを封じた。
一方――
リッカはすでに動いていた。
燃え盛る剣が空を切る。
ザンッ! ザンッ! ザンッ!
暴風のような連撃。
腕が次々と切り落とされていく。
ナイトメアは激しく身をよじり、拘束魔法を破壊した。
しかし、それだけでは終わらない。
アウエルがさらに踏み込む。
狙いは首。
だが、ナイトメアは瞬時に二本の腕を再生させた。
そしてその一本を――
自ら引きちぎる。
しかし、肩からではない。
肘から先だけを。
引き裂かれた腕から骨が伸びた。
鋭く、長い刃へと変貌する。
自らの腕から剣を作り出したのだ。
その骨の剣が、アウエルの斬撃を受け止める。
「なっ……!?」
次の瞬間。
信じられない速度で突きが放たれた。
避けきれない。
骨の剣がアウエルの胸を掠める。
鮮血が飛び散った。
幸い、深くはない。
アウエルはすぐに後退し、胸を押さえる。
三人は再び合流し、エリンが急いで治療を始めた。
「何なんだよあれ……! 自分の腕から剣を作ったぞ!?」
リッカが叫ぶ。
「分からない……」
アウエルが呟く。
「だが、とにかく頭を狙うしかない。」
三人はナイトメアを睨みつけた。
その間にも、切断された腕が次々と再生していく。
だが――
顔についた傷だけは残っていた。
そこだけ再生していない。
ナイトメアは再び腕を引きちぎる。
一本。
二本。
三本。
やがて六本の骨剣が生まれた。
「……何か考えがあるのか?」
リッカが小さく尋ねる。
「ああ。」
アウエルは立ち上がった。
「俺に合わせろ。」
ナイトメアが前進する。
アウエルとリッカは左右へ分かれ、挟撃の体勢を取った。
「インシネレート!」
エリンの杖から炎が放たれる。
だが今回は、ナイトメアは打ち消そうとしなかった。
ただ横へ回避する。
……
やはり。
魔法を打ち消せるのは、あの本来の腕だけか。
ナイトメアはアウエルへ向き直る。
二本の骨剣が突き出された。
アウエルはそれを躱し、剣を抜く。
ギィン!
しかし骨剣に受け止められる。
さらにもう一本の刃が喉へ迫った。
アウエルは即座に納刀し、消える。
横へ再出現。
そして遅延斬撃が炸裂し、二本の腕を切断した。
ナイトメアは即座に反撃する。
だが、その連撃をリッカが迎え撃った。
燃える刃が骨剣を次々と切り払う。
その隙を狙い――
エリンの杖から雷光が放たれた。
ナイトメアは避けられない。
一本の剣を捨て、本来の腕で雷を打ち消した。
その瞬間。
リッカが踏み込む。
顔面への突き。
ナイトメアは身体を捻る。
顔は避けた。
だが――
刃は胴体を貫いた。
「もらった!」
リッカはそのまま剣を振り抜き、傷口を大きく切り裂く。
ナイトメアが絶叫した。
「インシネレート!」
再び炎。
ナイトメアは打ち消そうと腕を上げる。
だが――
その瞬間、アウエルが消えていた。
一閃。
打ち消しの腕が宙を舞う。
炎がナイトメアを包み込んだ。
甲高い悲鳴。
しかし、今回は終わらない。
アウエルはそのまま首へ向かって突進する。
だが、ナイトメアは最後の本来の腕を持ち上げた。
その唇が動く。
「ライト……バレット。」
閃光。
次の瞬間。
アウエルの腹部が撃ち抜かれた。
「っ……!」
身体が跳ね上がる。
動きが止まった。
「アウエル!」
エリンが駆け寄る。
腹に小さな穴が開いていた。
指の隙間から血が溢れる。
彼女はすぐに回復薬を飲ませ、治癒魔法をかけた。
……
どうしてだ。
どうしてこいつが魔法を……?
その間にも、燃えながらナイトメアは立っている。
リッカが首を狙って突っ込んだ。
「ア……アースウォール。」
地面が隆起する。
石壁が二人の間を遮った。
炎が消える。
だが今度は――
身体が炭になっていなかった。
白い肉体が、さらに密度を増している。
ナイトメアは再び骨剣を生み出し、アウエルとエリンへ突進した。
アウエルはまだ回復しきっていない。
リッカが飛び出す。
敵の注意を引くために。
斬る。
防がれる。
反撃。
さらに反撃。
絶え間ない骨剣の猛攻。
リッカは押し込まれていく。
避けきれない。
身体に傷が増えていく。
そして――
一本の骨剣が投げられた。
リッカは避ける。
だが、その手が彼を掴んだ。
そして――
ドォン!! ドォン!! ドォン!!
何度も地面へ叩きつけられる。
さらに、止めの一撃が振り下ろされる。
寸前。
リッカは腕を切断し、転がって回避した。
全身が傷だらけだった。
だが、ナイトメアは止まらない。
再生し、再び迫る。
それでも――
リッカは怯まない。
剣を強く握る。
炎がさらに大きくなる。
幾つもの炎の斬撃を放つ。
ナイトメアは身を捻りながら避け、残りを剣で防ぐ。
そして突進。
リッカは息を吸う。
突き。
回避。
斬撃。
防御。
反撃。
互いに攻防を繰り返す。
そして――
ナイトメアが全ての腕を同時に突き出した。
リッカは息を吐き、再び大きく吸う。
納刀。
そして空を何度も斬る。
攻撃が届く寸前――
遅延斬撃の嵐がナイトメアを包み込んだ。
全ての腕が切断される。
その瞬間。
リッカの突きが顔へ命中した。
直撃。
ナイトメアが絶叫する。
リッカは剣を握りしめたまま、止めを刺そうとする。
だが――
切断された腕の一本が震えた。
再生。
しかし今度は腕ではない。
鋭い骨の杭。
それが――
リッカの腹を貫いた。
「リッカ!!」
エリンの悲鳴。
杭が腹を貫通する。
リッカは剣を離し、地面へ崩れ落ちた。
ナイトメアは再生した腕で剣を引き抜く。
そして――
ゆっくりとエリンへ顔を向けた。
大きな笑みを浮かべながら。
唇が動く。
「エ……」
だが、何かがおかしい。
別の声。
「リン。」
女性の声。
だが先ほどとは違う。
もっと年上の女性の声。
エリンが凍りつく。
「……お、お母さん……?」
アウエルの目が見開かれる。
何だって……?
今、エリンは母さんと言ったのか……?
だが、俺には――
間違いなく、あの懐かしい声に聞こえた。
ナイトメアはさらに骨剣を生み出し、二人へ突進する。
アウエルは傷が癒えきっていない身体で立ち上がった。
エリンは動けない。
恐怖で目を震わせている。
アウエルが構え、飛び出した。
ナイトメアが即座に攻撃する。
アウエルは消え、目の前へ現れる。
抜刀しようとした瞬間――
骨剣の突き。
避けるしかなかった。
後方へ跳ぶ。
遅延斬撃は空を切る。
そして空中で――
骨剣が投げられた。
突き刺さる。
左腕。
血が飛び散る。
エリンは動けない。
倒れているリッカ。
追い詰められているアウエル。
彼女は杖を強く握り締めた。
そして――
小さく呟く。
ナイトメアが再びアウエルへ襲い掛かろうとした。
その時。
轟音。
戦場全体に、巨大な風が吹き荒れた。
ナイトメアが止まる。
ゆっくりとエリンへ顔を向ける。
風の中心。
そこにいたのは――エリンだった。
彼女は詠唱している。
「エリン……何を……」
アウエルが叫ぶ。
だが痛みが彼を襲う。
「ぐっ……お前……無防備すぎる……」
だが奇妙なことに。
ナイトメアは動かない。
ただ無表情でエリンを見つめていた。
エリンの詠唱が続く。
やがて。
奇妙な紋様が彼女の身体を覆い始めた。
「ここに……我が身を捧げます……」
風がさらに強まる。
木々が大きくしなり、森全体が震える。
「どうか、この身を依り代として……」
眩い白光が戦場の中央で爆発した。
「どうか……私の呼びかけに応えてください……」
光はさらに強くなる。
月明かりさえ消し去るほどに。
「……ガブリエル。」
その瞬間――
白い羽根が空から舞い始めた。
無数の羽根。
静かで、純白の。
そして。
光の中から何かが現れる。
そこに現れたのは、
美しい巨大な球体だった。
幾重もの翼が繭のように絡み合い、神々しい優雅さをもってゆっくりと動いていた。
やがて――
翼がゆっくりと開く。
幾層もの翼が外へ広がる。
内側から溢れ出す光。
アウエルとリッカは、ただ呆然と見つめることしかできなかった。
球体の中心。
そこに、一人の天使が立っていた。
長い白髪が銀の光のように流れている。
純白のドレスが足元まで垂れ、ところどころを白金の鎧が覆っていた。
その両手は、まるで神へ祈りを捧げるように掲げられている。
だが、その顔は――
顔ではない。
白金の仮面。
表情も、人間らしさもない。
そこにあるのは、ただ神性のみ。
瞳は閉じられたまま。
それでも。
その存在だけで、戦場は圧倒されていた。
森はその光に照らされ、空気そのものが神聖に感じられる。
天使はゆっくりと手を下ろし――
ナイトメアへと顔を向ける。
そして。
閉じられた瞳から、一筋の涙が静かに零れ落ちた。




