盗賊クエスト : クリア
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
「アウエル!」
足音が遺跡の通路に響きながら、こちらへ駆け寄ってくる。
エリンとリッカだった。
エリンはすぐにアウエルの傍へ膝をつき、ポーションを取り出す。同時に両手へ緑色の光が集まり、柔らかな治癒の光がアウエルの身体を包み込んだ。
「お前、一体どうしたんだよ」
リッカが呆れたように言う。
「分からない。魔法陣を踏んだらここへ転移させられた」
アウエルは気絶している男を指差した。
「ここへ来た瞬間、あいつに襲われた」
「まあ……」
リッカは全身傷だらけのアウエルを見て肩をすくめる。
「その様子だと、かなりやられたみたいだな」
「お前たちも盗賊と戦ったんだろ?」
「ああ。でもなんで分かった?」
「こいつが言ってた。お前たちの方にも別の盗賊が向かったって」
「ふーん。まあ確かに強い奴だったな」
リッカは腕を組む。
「姿を消せる上に、浮いてるナイフまで操ってきた」
「浮いてるナイフ?」
「ああ。でも結局、倒せたんだから問題ないだろ?」
リッカは暗い遺跡の中を見回した。
「まだ他にもいると思うか?」
「さあな」
アウエルはゆっくり立ち上がる。
「とりあえずそいつを縛ろう。その後で遺跡を調べる」
「その状態でまだ動けるのか?」
「分からない」
アウエルはエリンへ視線を向けた。
「エリン、折れた肋骨は治せそうか?」
「む、無理だと思います……」
「そうか」
アウエルは短く息を吐いた。
「もし残党がいたら、俺は後ろから支援する」
リッカは男の手足をしっかりと縄で縛った。
「なあ、こいつどうする?」
「ここに置いておけ」
壁に手をついて身体を支えながら、アウエルは歩き出す。
「まずは遺跡を調べる」
三人は慎重に遺跡の探索を始めた。
部屋を一つずつ。
通路を一本ずつ。
しかし何も見つからない。
物音一つ聞こえなかった。
「なあ、本当にここがアジトなのか?」
リッカが首を傾げる。
「死体を運び込むのを見ただろ」
アウエルは目を細めた。
「隠し部屋があるはずだ。何か不自然な場所を探せ」
「不自然な場所?」
「レバーとか、動く壁とか。そういう類だ」
三人は再び遺跡を調べ始めた。
今度はさらに細かく。
壁のひび。
床の継ぎ目。
部屋の隅々まで。
途中からは手分けして探索する。
「み、見つけたかも!」
エリンが声を上げた。
壁に埋め込まれた石を指差す。
他の石と違い、表面だけ妙に滑らかだった。
アウエルとリッカが近付く。
二人は視線を交わし、自然と構えを取った。
エリンはその後ろへ下がる。
リッカが石を押すと、壁がわずかに動いた。
隠し扉だった。
その先には暗闇に呑まれた細い通路が続いている。
三人は罠を警戒しながら奥へ進んだ。
進むほどに空気が冷たくなる。
静寂に包まれた通路。
だが――
微かな物音が聞こえた。
何かが動く音。
三人は足を止め、慎重に近付いていく。
そして。
「なっ……」
リッカが息を呑んだ。
牢屋。
幾つもの牢屋が並んでいた。
中には大勢の人々が閉じ込められている。
リッカは牢の中を見回した。
「……死体はないな」
「あ?」
「俺たちが見たのは死体だと思っていたが、違ったらしい」
村人。
冒険者。
老人。
女性。
若者。
全員が手足を縛られ、口も塞がれていた。
三人の姿を見た瞬間、囚人たちは必死に身をよじり始める。
リッカはすぐに牢の鍵を壊そうとした。
だが。
中の人間たちの動きが妙だった。
身体を激しく捻りながら何かを訴えている。
アウエルは無言で全ての牢を見渡した。
そして――
リッカが最初の牢を開けた瞬間。
一人の男が飛び出してきた。
隠し持っていたナイフがリッカの喉元へ突き出される。
「っ!」
間一髪。
アウエルがリッカを突き飛ばした。
刃が首筋を掠める。
「チッ……!」
男はそのままアウエルへ襲い掛かった。
アウエルは踏み込み、腹へ拳を叩き込む。
男がよろめいた瞬間。
リッカが頭を掴み――
鉄格子へ叩き付けた。
ドゴンッ!
男はそのまま気絶する。
通路に静寂が戻った。
「全員聞け」
アウエルが鋭い声を響かせる。
視線が牢の一つ一つを薙いだ。
「この中にまだ盗賊が紛れているか?」
全員が首を横に振る。
「よし」
アウエルは頷く。
「解放する。エリンは怪我人を治療してくれ」
三人はすぐに動き出した。
アウエルが牢を開け。
リッカが拘束を解く。
エリンが治癒魔法をかけて回る。
その最中。
一人の女性が突然リッカの手を掴んだ。
「お願い……お願いです……娘を……娘を助けてください……!」
涙を流しながら懇願する。
「む、娘?」
「お願いです……!」
女性は泣き崩れた。
リッカの表情が固まる。
「分かった。必ず助ける」
彼はすぐにアウエルの元へ向かった。
「なあ」
「どうした?」
「小さい女の子がいる牢なんて見たか?」
「いや……」
アウエルは通路を見渡す。
「なら、まだ別の隠し部屋がある」
エリンが人々を治療する間、アウエルとリッカは再び探索を始めた。
壁。
床。
角。
だが何も見つからない。
「本当にあの人は嘘をついてないんだろうな?」
アウエルが小声で言う。
「当たり前だろ」
リッカは即座に反論した。
「なんでそんな嘘をつく必要があるんだよ」
「ここを探し始めてからかなり経つ」
アウエルは淡々と言う。
「それに今、エリンは囚人たちと一緒だ。警戒するに越したことはない」
「お前は考えすぎだ」
リッカは鼻を鳴らした。
「もう一回探そう」
再び調査を始める。
そして。
「待て」
リッカが足を止めた。
「聞こえないか?」
「何がだ」
「静かに」
壁へ耳を当てる。
微かな音。
「……子供だ」
リッカの表情が変わった。
「泣き声がする。この壁の向こうだ」
子供たちの泣き声。
アウエルも壁を見た。
「なら扉を――」
「時間がかかる」
リッカは剣を抜いた。
突き。
ガンッ!
壁に穴が開く。
覗き込む。
「暗いな……でも部屋はある」
剣を収めると、そのまま壁を壊し始めた。
「無茶するな」
アウエルが呟く。
「隠し扉を探した方が早いかもしれない」
「どこにあるか分からないだろ」
リッカは手を止めない。
「それに子供たちは今も怯えてる」
やがて人一人通れる穴が完成した。
リッカは迷わず中へ飛び込む。
アウエルも続いた。
剣へ炎を灯す。
隠し部屋が明るく照らされた。
「よし、探そう」
慎重に進む。
そして見つけた。
大きな牢屋。
その中には大勢の子供たちが閉じ込められていた。
縛られている子もいる。
泣いている子もいる。
床に倒れ込み、意識が朦朧としている子もいた。
リッカの姿を見た瞬間。
子供たちはさらに怯える。
「だ、大丈夫だ!」
リッカは慌てて声を上げた。
「俺たちは助けに来たんだ!」
鍵を壊し、牢を開ける。
だが子供たちは後ずさる。
「ほら、大丈夫だ。悪い奴らはもう全員倒した」
少しずつ。
本当に少しずつ。
子供たちは落ち着きを取り戻した。
リッカとアウエルは拘束を解いていく。
やがて。
リッカは床に倒れたままの子供たちへ目を向けた。
「なあ……こいつら、生きてるよな?」
アウエルは一人の脈を確認する。
「ああ」
立ち上がった。
「ただ衰弱してるだけだと思う」
「衰弱?」
「盗賊たちはこいつらを売るつもりだったんだろう。死なれたら困る」
リッカは顔をしかめる。
「でもどうする? エリンだけで全員治せるか?」
「無理だろうな」
アウエルは立ち上がる。
「お前はここで子供たちを親の所へ連れて行け。俺は応援を呼んでくる」
アウエルは遺跡を出た。
外では既に雨が止んでいる。
森へ出ると、懐から一本の発炎筒を取り出した。
強く握る。
淡い光が灯る。
そして空へ放つ。
光はゆっくりと上昇し、雲を突き抜けるほど強く輝いた。
「これで十分だろ」
アウエルは遺跡へ戻った。
三人は人質たちを外へ運び出し、休ませる。
「で、どうする?」
リッカが尋ねた。
「ここに放置するわけにもいかないだろ」
「救援は呼んだ」
アウエルは岩にもたれ掛かる。
「しばらくすれば冒険者か衛兵が来る」
リッカは疲弊した人々を見渡す。
エリンは今も治療を続けていた。
「もう一本上げた方が良くないか?」
アウエルは首を振る。
「駄目だ」
足元の発炎筒の残骸を指差す。
「二本目は緊急事態用だ」
「緊急事態?」
「高位貴族や重要人物が危険に晒されている時に使う。勝手に上げたら虚偽報告になる」
「でもこいつらは――」
「分かってる」
アウエルは目を閉じた。
「今は待つしかない」
しばらくして。
森の奥から複数の足音が聞こえた。
やって来たのは衛兵隊だった。
「発炎筒を上げたのは誰だ!? 何があった!」
一人が叫ぶ。
そして隊長格らしき男がアウエルを見て目を見開いた。
「また盗賊か?」
アウエルは近付いた。
「ああ。大量の人質がいる。気絶している盗賊もまだ遺跡の中だ」
「対処してくれるか?」
「もちろんだ」
隊長は即座に指示を飛ばす。
「お前! 街へ戻って増援を呼べ!」
「残りは人質の保護と遺跡の確保だ!」
「了解!」
衛兵たちはすぐに動き始めた。
怪我人を運び。
遺跡へ突入する。
隊長はリッカとエリンを見た。
「へえ。お前たち、パーティだったのか」
「何か問題か?」
「いや」
隊長は笑う。
「盗賊討伐なんて引き受ける冒険者は珍しいんだ。感謝してる」
そして助け出された人々の数を見てから、傷だらけのアウエルへ視線を向けた。
「お前、一体何と戦ったんだ?」
「さあな」
アウエルは静かに答える。
「ただ、街の近くに強い盗賊がいた」
「ふむ……」
隊長は顎に手を当てる。
「お前たちが暴れたせいで、向こうも強い連中を配置したのかもしれんな」
アウエルは眉をひそめた。
「王はまだ盗賊討伐を命じていないのか?」
隊長は苦々しく息を吐く。
「残念ながらな」
拳を握る。
「前回の会議でも進言した。だが答えは変わらなかった」
「俺もできる限りはやった」
「だが王命がなければ衛兵隊は動けない」
アウエルは不機嫌そうに顔をしかめる。
「……くだらない」
隊長は苦笑するしかなかった。
そうして彼らは、救出した人々を連れて街への帰路についた。




