盗賊クエスト : 開始
読んでいただきありがとうございます。
日本語にはまだ不自然な部分があるかもしれません。
もし誤訳や不自然な表現などがありましたら、コメントで教えていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
朝は静かに訪れた。
アウエルはゆっくりと目を開く。
目の奥に鈍い痛みが残っていた。
しばらく天井を見つめながら横になり、呼吸を整えてから身体を起こす。
洗面所へ向かい、冷たい水で顔を洗う。
滴る水をそのままに、鏡へ視線を向けた。
そこで気づく。
黒髪の中に混じる一本の白。
灰色ではない。
銀にも見えるほど純粋な白髪だった。
「……チッ」
アウエルは小さく舌打ちする。
戸棚を開き、小さな容器を取り出した。
黒い染料だ。
慎重に髪へ塗り込み、白い部分を丁寧に隠していく。
作業を終えると、扉の近くに掛けてあった服を身につけた。
続いて刀を手に取る。
馴染んだ重みが腰へ収まる。
そして最後にフード付きの外套を羽織った。
アウエルはパンを齧りながら家を出る。
向かう先は冒険者ギルドだった。
ギルド酒場は今日も騒がしい。
笑い声。
談笑。
ジョッキのぶつかる音。
何も変わらない日常だった。
アウエルが扉を開いて中へ入ると、すぐにエリンの姿を見つけた。
だがリッカはまだ来ていない。
エリンは朝食のサラダを食べていた。
「お、おはようございます」
アウエルに気づき、ぺこりと頭を下げる。
アウエルは軽く頷いた。
「リッカは?」
「ま、まだ来てないです」
「そうか」
アウエルはそのまま受付へ向かう。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「先週の依頼の報酬を受け取りに来た」
受付嬢はすぐに思い出した。
「ああ、レッドウルフ討伐依頼の方ですね」
「そうだ」
「少々お待ちください」
彼女は奥へ下がり、しばらくして袋を持って戻ってきた。
「報酬は金貨十二枚になります。それとグラム様たちのパーティーから報酬の一部を譲りたいとの申し出がありましたので、合計で金貨十七枚と銀貨五枚です」
アウエルは袋を受け取る。
「ありがとう」
その時。
ギルドの扉が開いた。
リッカだった。
店内を見回し、エリンを見つけると一直線に向かう。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「アウエルは? まだ寝てるのか?」
「ここだ」
背後から声がして、リッカが肩を跳ねさせた。
「うおっ!?」
「遅刻したのはお前だ」
「そ、それよりどこ行ってたんだよ」
話題を変えるようにリッカが聞く。
「補償金を受け取ってた」
そう言ってアウエルは二人に報酬を分配した。
「うおっ!?」
リッカの目が丸くなる。
「思ったよりずっと多いな!」
「グラムたちが報酬を分けてくれた」
「え? なんで?」
「知らん」
リッカは笑った。
「まあいいや。それじゃ次の依頼だな?」
「は、はい」
エリンも頷く。
「お前ら先に見てこいよ。俺まだ食べ終わってないし」
アウエルとリッカは依頼掲示板へ向かった。
リッカは一枚の依頼書を剥がす。
「これどうだ? ホワイトエルク討伐」
アウエルは目を通した。
「でかいやつだろ、それ」
「まあな」
「今は大型モンスターと戦う気分じゃない」
「なんだよ、それ」
リッカが呆れる。
代わりにアウエルは別の依頼を取った。
「こっちの方がいい」
リッカが内容を読む。
「盗賊討伐?」
「簡単すぎないか?」
「報酬も安いし」
「その分すぐ終わる」
アウエルは説明する。
「さっさと片付けて別の依頼を受ければいい」
「まあ……確かに」
二人は受付へ向かった。
「この依頼を受けたい」
「かしこまりました」
依頼書に判子が押される。
「ご武運を」
二人はエリンの元へ戻った。
「盗賊退治ですか?」
エリンが確認する。
「ああ」
アウエルは頷く。
「ギルドの倉庫から縄を借りて捕縛する」
「今から行くの?」
リッカが聞いた。
「いや」
アウエルは首を振る。
「盗賊は夜になるとアジトへ集まる」
「だから決行は今夜だ」
依頼書を見せながら続ける。
「場所は街の南の森らしい」
「じゃあ午後に集合だな」
「そうなる」
リッカは立ち上がった。
「じゃ、また後でな」
そのまま出口へ向かう。
「待て」
アウエルが呼び止めた。
「どこ行く?」
「訓練」
「どこで?」
「街の東だな」
「なんで?」
「何かあった時に探しやすい」
「なるほど」
リッカは肩を竦めた。
「じゃ、またな!」
そう言って去っていく。
エリンがアウエルを見た。
「ま、またインスタント魔法を買うんですか?」
「いや」
アウエルは首を振る。
「金欠だ」
「油瓶だけ買うつもりだ」
「エリンは?」
「私は……ロランさんの家へ行こうかなって」
「魔法のことで相談したいので」
「そうか」
アウエルは頷いた。
「じゃあ午後にな」
「は、はい」
午後。
アウエルとエリンは街門で待っていた。
そこへリッカがやってくる。
「悪い、遅れた?」
「いや」
「なら行こうぜ」
三人は南の森へ向かった。
道中。
リッカが口を開く。
「そういや先週何してたんだ?」
「ま、魔法を教える依頼です」
「は?」
「俺抜きで依頼やってたのか?」
「ち、違います!」
エリンが慌てる。
「魔法を教える依頼だったんです」
「へぇ、どうだった?」
エリンは苦笑した。
「失敗でした……」
「私、教えるの下手みたいで……」
「そうか」
リッカは少し気まずそうに言う。
「でもエリンが人に魔法教える側だったってのは意外だな」
アウエルを見る。
「お前は何してたんだ?」
「付き添いだ」
「魔法使えないしな」
「じゃあ一週間ずっと暇だったのか?」
「訓練してた」
「一人で?」
「戦技の訓練だ」
「戦技?」
エリンが首を傾げる。
リッカが説明した。
「アウエルがレッドウルフ戦で急に速くなっただろ?」
「あれが戦技だ」
「身体強化みたいなもんだな」
「魔法と同じなんですか?」
「少し違う」
アウエルが答える。
「人間は誰でもマナを持っている」
「違うのは量と制御能力だけだ」
「魔法が使えない人間でも魔力はある」
「だからその魔力を利用するために戦技が生まれた」
「ただし身体への負担が大きい」
「耐えられないとすぐに疲れる」
エリンは納得したように頷く。
「じゃあリッカさんの炎も戦技なんですか?」
「たぶんそうだな」
リッカは頭を掻いた。
「俺のは気合いで燃える感じだけど」
「気合い?」
「生きようとする力というか……」
「強ければ強いほど炎も強くなる」
エリンは今度はアウエルを見る。
「アウエルさんも使えるんですか?」
しばらく沈黙した後。
「興味ない」
短く答えた。
やがて三人は森へ到着した。
「で?」
リッカが周囲を見回す。
「どうやって盗賊を探すんだ?」
「痕跡だ」
アウエルは地面を見る。
「足跡でも落とし物でも何でもいい」
三人は森を捜索し始めた。
そして――
足音。
アウエルの目が細まる。
「隠れろ」
三人は素早く茂みに身を潜めた。
二人の男が歩いてくる。
そのうち一人は人を背負っていた。
「盗賊か?」
リッカが小声で聞く。
「分からん」
アウエルは答える。
「だが追うぞ」
二人の男は森を進み、やがて古い遺跡へ入っていった。
入口には見張りが四人。
「四人か」
リッカが数える。
「余裕だな」
その時。
ぽつり、と雨粒が落ちた。
やがて雨脚が強くなる。
アウエルは静かにフードを被った。
リッカは顔をしかめる。
「最悪だ」
「これじゃ炎が使えねぇ」
アウエルは一歩前へ出る。
「俺がやる」
刀へ手を添える。
そして機会を待った。
見張りの一人が歩き回る。
「ったく、なんで見張りの日に限って雨なんだよ」
男が茂みの方を見る。
そこに小さな光が見えた。
「なんだ?」
その瞬間。
アウエルが飛び出した。
抜刀。
――斬ッ!
一閃。
男の胸が裂かれ、そのまま倒れる。
「誰だ!?」
残る盗賊たちが振り向く。
アウエルは納刀した。
そして構える。
二人の盗賊が同時に突撃してきた。
槍使いと剣士。
そして後方には魔法使い。
杖を掲げる。
「敏捷強化」
アウエルは加速した。
同時に魔法使いが詠唱する。
「ライトニングスパーク!」
雷撃。
アウエルは半抜刀で受け流し、そのまま納刀。
次の瞬間。
再び抜刀。
抜刀と同時に、雷光の斬撃が放たれた。
狙いは前衛ではない。
後衛の魔法使いだった。
しかし――
防がれた。
その隙に槍が迫る。
突き。
アウエルは紙一重で回避。
反撃。
斬撃が男の胸を裂く。
魔法使いは続けて詠唱する。
「アースミサイル!」
地面が盛り上がり、鋭い岩が飛来する。
だがアウエルは止まらない。
避けながら前進。
「チッ……ライトニングスパーク!」
再び雷撃。
また受け流す。
そして雷の斬撃を返した。
今度は避けられない。
「アースウォール!」
土壁が現れ、斬撃を防ぐ。
だが。
視界が遮られた。
それが命取りだった。
気づいた時には。
アウエルはもう隣にいた。
抜刀。
――斬。
魔法使いの身体が崩れ落ちる。
戦闘終了。
アウエル一人で片付けてしまった。
刀を納める。
「終わった」
茂みへ声をかける。
「出てこい」
エリンとリッカが姿を現した。
リッカは口笛を吹く。
「おぉ……」
「相変わらず無駄がねぇな」




