第81話 全身麻痺の少年
このファンタジー世界の人間の体内には恒常性を保つために脳内に第一種受容体、体内全各所に第二種受容体がありまして……。
「ジャック、今朝絞った生聖油はある?」
加熱して使うのが基本ではあるが、この少年の病状は、生の聖油が効く特殊な症例に該当する。しかし、基本的に加熱して使うのが普通だと教えたので、ジャックは朝絞るとほぼそのまま圧力鍋で加熱している。あまり期待はできない。
「夕方加熱するために半分残してます。」
ジャック、なんて用意が良い子なの。グッジョブ。
「それを少しちょうだい。特別な過熱をするから。」
本当の生絞りと混ぜて使う方法もあるけど、消毒という役目もあるから低温で一部活性化をして生薬の成分を残して、少年の食事に振りかける。
「頑張って全部食べてね」
手が震え、顔をピクつかせながら、やっとのこさ一口入れると、ウゲッ不味と言わんばかりの苦痛の表情を示した。
「土のニオイとえぐみがあるけど、土はすべての生命の土台。そこにきっちりランディングして、確かな身体を作っていくの。」
少年はしゃべることもままならない。しかし表情筋はかろうじて制御が出来るようだ。不味いけど食べると言っているようだ。
食べ終わったらご褒美に活性化聖油の蒸気浴をさせる。目が充血してとてもリラックスしてるようだ。少年は震えも止まりまるで病気がなかったかのように歩み寄り、マリーに跪礼する。シルビアと双子は聖女の奇跡だと驚いている。
「聖女さまの奇跡のおかげさまで身体のこわばりがなくなり自由に動かせます。どうお礼をして良いか分かりません。」
少年は、はらはらと涙を流しつつまるで神に出会ったかのごとく感謝している。
感動してるところに水を差すようで悪いのだけど……。これは一時的な緩和であって恒常的に治ったというものではない。
「あなた、騙されやすいから洗脳とかのセットアップに気を付けてね。これはただの対処療法で、効果は一時的なものよ。内因性の伝達物質の生成組織が破損して供給不足になる分を外から補給して代替させてるだけ。伝達物質生成機能を取り戻せない限り、この泥水を生涯毎食取り続ける事になるわ。この泥水だってジャックみたいに自分で作ればタダだけど王都にいけば目が飛び出るようなお金を積まないと買えないの。」
スラはそれを聞き不安に怯えている。
「つまり少年はこの聖油無しで生きていけない身体になるということでしょうか?」
薬漬けにして依存症になるみたいな偏見に囚われた酷い言いようだ。
「それは少し違うわ。もともと聖油なしで生きていけない身体になってたところに適切に必要なものを届けているだけ。この聖油によって『なる』わけじゃないわ。それに考え方を変えなさい。多くの人が体内で生成できるけどこの子は生成出来ないから外から補給するだけ。あなたも必須アミノ酸も水も炭水化物も酸素も体内生成出来ないけど、それを肉依存症とか水依存症とか酸素依存症とは言わないでしょ?それにこの草の有効成分は、あらゆる物質のなかで水の次に毒性が低い単なる栄養なの。過剰摂取は物理的に不可能よ」
異世界のハーブです。変な勘ぐりは無用です。現実の何かと似てるかもしれませんが一切関係ありません。




