第11話 ゴスロリ・セレナーデ
JR函館駅で少し異変があった。
「駅長、降車した、お客様の数が合いません、切符が二枚未回収です」
「ん?どうした」
「はい函館行きの購入者と回収された切符の数が合いません、二枚足りないようです、上野駅から乗車はしているのですが」
「乗り過ごしたんじゃないのか?」
「乗り換えが必要ですから札幌にでも向かったなら表示が出るはずですが、客車には誰もいないし途中下車でも無いようなんです、終点ですから函館」
「んー、おかしいなぁー」
「ハイ」
「男か女か?客車のカメラ映像ちょっと見てみるか」
「ハイ」
ところが、その客車の映像はノイズ交じりで良く見えない状態だった。
「カメラの故障か?とにかく確認してみよう、現場には何か変化無いのか」
「はい、座席に問題は無いようですが、落とし物などの届けが無いかなど
確認してみます」
「そうしてくれ、それにしてもおかしいなぁどこに行ったお客さん」
その少し前・・・
東京・代官山で洋服店を営む恩田サトコとデザイナー深津道子の二人は
好奇心から大金を持ち歩く少女のお客様を尾行していた。
少女が函館に行くのは解っていた二人は気づかれないように少女を発見して
同じ新幹線に乗り込んでいた。
少女から離れた席に陣取った。
どういう訳かほかの乗客は居ない、貸し切り状態だった。
道子が言う。
「わー良かった、駅弁食べちゃおう・・・」
ついでサトコが
「ちょっと私、顔バレしてるから彼女が振り向いたりして気が付かないようにコッチに座って彼女監視して、動いたらすぐ教えるのよ」
「りょーかい、クスッ」
「ちょっと私にも、お弁当!」
「ハイハイ」
最初は問題が無かったが車掌が切符確認にやって来た。
「切符を拝見」
「あ、ハイどうぞ」
「お客様、切符に問題はありませんが席が違います、あちらに正しい席番号の座席がございますので移動願います」
「あら、いいじゃない、空席なんだからダメ?」
「はぁ規則ですので、移動願います」
「わかったわよ、お弁当食べたら移動しますから」
「申し訳ありません、スグに移動、お願いいたします、スイマセン」
ごちゃごちゃしたせいか少女は少し何か感づいたかもしれない。
いや、まだ尾行はバレていないはずだ。
移動した席は少女からは少ししか離れていない、まずい状況になった。
しばらく言葉少なく過ごしたが青森を過ぎて列車は青函トンネルに入った。
列車の外は暗く、車内灯が点灯した。
恩田サトコが、そっと少女の方を見ると彼女は外をじっと見ていた。
永遠にトンネルの壁があるだけ。
だが少女は外を見ているのではなく窓に反射して写る
サトコと道子の顔をじっと見ていたのだった。
それに気が付いたサトコは背筋が冷たくなる思いで
咄嗟に下を向いたが遅かった。
『うわヤバイ』
道子もソレに気が付いているようだった。
少女は座席から立ち上がると音も無く二人に近づき話しかけてきた。
「君たち、ここで何をしている、私の後をつけて来たんだな」
サトコは顔上げて謝った。
「ごめんなさい、あなたの事が心配になって」
「心配は頼んでいない、好奇心は身を滅ぼすという、もう一人の人、あなたは何?」
「ああ彼女は私の友人で、あなたが今着ている服をデザインしたのが彼女よ」
「悪気は無かったのごめんなさい」道子も謝った。
「・・・残念だが貴方たちに構っている暇はありませんでした、仕方がありません」
少女が話す日本語は相変わらず何処か不自然だった。
少女がそういうと客車の車内灯が付いたり消えたりを繰り返しだした。
少女は二人をじっと見つめながら何事かをつぶやいた。
「アーランドルム」
呪文のような言葉を発すると少女のツインテール髪が上に向かって浮かび上がり
ミシミシと音を立てながら額に縦の裂け目ができると、
少女のおでこに縦長の目玉が出現した。
おでこの目は黒目の部分が大きく、しかも幾何学的な模様が丸く黒目を囲んでいた。
そして元の目は左右とも目玉の黒い部分が綺麗な金色に輝いていた。
それを目撃したサトコと道子は驚いて悲鳴を上げようとしたが声が出なかった。
『たすけて道子』
『だめ声が出ない』
二人は自然にテレパシーで会話を始めていたが同時に自分たちの視界に変化が起きてきた。
少女の姿が大きく見えて距離が遠くなる・・・
目を動かして確認するとお互いが見えた。
サトコと道子は体が服ごと、どんどん小さくなって
二人とも20cmほどの人形になってしまった。
『キャーッ!なにこれっ!』
『うそでしょーっ!』
『ヤダヤダヤダどうなってんのー?』
『夢、ゆめよコレは・・・』
同時に彼女らのショルダーバックとランドセルも小さくなっていて
人形に装着した。
少女は自分の長い髪の毛を少しまとめて引っこ抜くと
二つの人形を髪の毛でしばり、コートを払いのけて
ゴスロリ服のベルトに括り付けると
何事も無かったかのように座席に戻った。
客車の電灯も正常に戻っている。
少女は自分をつけてきた二人を魔法で人形に変えると
腰から下げてアクセサリーにしてしまった。
人形になった二人は三つ目の少女も自分たちに起こった事も
まだ信じられなかった。
『サトコ、これ悪い夢でもみてるのよね、そうでしょ?』
『だといいけど、これ夢じゃないかもよ』
『そんなぁあー、おかーさーん、エーンッ!』
『こんなことになるなんて、どうしよう・・・』
『ムリムリムリーッだれかタスケテェーッ!!』
二人は少女の腰アクセサリー人形になって
三人仲よく新幹線を降りた。
人形になった二人は少女が着ているコートのせいで視界が真っ暗だったが
謎の少女の声が、それぞれの頭に響いてきた。
「お前たち心配するな、時が来たら人間に戻してやる。だから騒がなくてもよい。
お前たちの脳に入り込んでみた・・・善人でありたいと思って生きているのが良く判った、また、お前たちの作った服も着たいし食事も気に入っている。
ただ今回ばかりは、お前たちのために、その状態でいるのが一番安全なのだ。
人形になった、お前たちのために会話だけは出来るようテレパシー能力を使えるようにしておいた・・・だから、せいぜい楽しめば良い、フフフフフッ!」
『道子、いまの聞こえた?』
『うん』
『なんか大丈夫そうだから大人しくしてましょ』
『うん、何にもできないしね』
『この子、もしかしたら神様なのかもしれないわ』
『えーっ!かみさま?』
『うん、わたしも良くわからないけど見たでしょ、あの三つ目』
『みつめ・・・うん、見た』
『あれは神様の証よ多分』
『ふーん、そうなんだ』
『そうよ、悪魔なら私たち殺されてるわ』
『・・・こわーい』
『でも人間にとっては神様だって怖いのよ・・・』
『・・・』
これが切符の数が合わなくなった理由だった。




