第31話 兄・北条一久1
2021年現在
北条国際貿易・北条グループの最高責任者は、北条一久、一凜署長の兄だ。
自由奔放な一凜とは正反対の性格で闇の匂いなど全くしない、
むしろ、ひ弱な印象さえある七三分け髪型の似合う大人しい男だった。
だが豊富な資金で日本の政治家に献金で力添えし、場合によっては上限なく国家予算並みの金の提供も惜しまない、裏の社会で彼の名前を知らぬ者はいないほどの実力の持ち主でもあった。
噂では日本のエリート気取りの馬鹿ボンボンが中東の王子とつまらない賭けで10億とも100億とも言われる負債を抱え、騒ぎになったとき黙って一切を引受、賭博の借金を肩代わりしただけでなく、
それを期に『日本ここにあり』と言わんばかりに中東に車両の提供を申し出て底知れない
『心意気と友情』を示したとされアメリカやイギリスが嫉妬したという逸話さえあった。
北条家・無尽蔵の金の延べ棒は今も健在だった。
「金は追いかけると逃げるぞ」
追いかけることに興味を持たない人間にこそ「金魂」は集まってくる。
北条一久には、超能力を持った嫁と娘・息子がいて家庭を大事にしており、朝8時に出勤し夕方5時には、きっちり帰宅して毎日を過ごしていた。
彼の趣味はワンちゃんを飼うことだった。
独身の頃、若き修行時代にアガルタ地下帝国に招待されチベットから入国する予定だったが、
現地の僧にエスキモーと呼ばれる民族の子供を届けて欲しいと頼まれ、
エスキモーの子供と二人で遠路はるばる一緒に旅をして、多少のいざこざはあったが約束を果たし
「少し泊まっていけ」誘われるがまま彼らの狩猟生活を見学したり
夜空の星について学び、別れ際エスキモーとの友情の証にシベリアンハスキー犬の赤ちゃんを授かってからというものハスキーの虜になってしまった。
その後も重要な仕事で自家用飛行機に乗って何度もエスキモーを訪ね、函館でハスキー犬の繁殖に成功し、同じ趣味を持つセレブの中でも特に気の合う善人のみに、その子供たちをプレゼントした。
エスキモーたちはとにかく日本の乾麺を気に入って袋ラーメンからうどん蕎麦、素麺とダシの素を一緒に、ごっそり、お土産で買っていくのが定番となった。あと意外に缶詰などより日本のお菓子の方も評判が良かった。
そのお返しにと、また犬の赤ちゃんまで頂いてしまって
一久の館には金網で囲まれた、ワンちゃんスペースが存在していた。
犬は飼い主に似ると、よく言われるが彼のハスキーもシェパードも大人しい静かな犬たちで、日常で『吠える』ことは皆無に近かった。
ところが、この大人しいハスキーは、妹の一凜に会うたび
『吠える』
何度面会しようが吠えるので原因を調べるべく一久の嫁・一絵が霊視なるものをしたところ、どうも一凜がSPで連れ歩いている異星人【ナ・ム・サン】が気になっていて吠えるのだと解った。
時と場所により都合に合わせ透明状態だったりしても、ハスキー犬は嗅覚と気配に敏感で誤魔化すことができない。
以降、目に見えぬ者から守ってもらうため一凜の兄・一久は、用心に自分の仕事場のオフィスにハスキー犬を置くようになった。
ハスキー犬たちは一匹の時もあれば親子で多数の時もあったが
退屈であろうはずのオフィスでTVモニターを見ていたり昼寝したり黙って一久のそばにいて、皆に可愛がられていた。
一久は仕事で多忙な男で東京だろうが九州だろうが、出張していたが、その方法というのが執務室内に
『ワープ・ジャンプボックス』があって一瞬で目的地の支所にハスキー犬とともにジャンプし現地の社員達に目的地まで車で送ってもらったりしていた。
最近は金の相談や政治の相談事であれば向こうから訪ねてくるので出張はめっきり減っていた。




