第32話 兄・北条一久2
北条一久に妹・一凜から「相談したいことがある」と連絡が入る。
こういう場合、大抵が北条一国際貿易の武器や車両・装備などの製造工場をあてにした一凜のわがままな相談と相場は決まっていた。
「兄ちゃん、近々、ちょっと大掛かりな逮捕劇になりそうなんだけど、装備の見直しと意見が欲しいんだ・・・」
「どうした、お前にしちゃ何か弱気じゃないか?」
「うん、それが今、核物質を持ち去った犯人を相手にしてたんだけど
事前調査で厳じいがさ、何か変だっていうのよ、こんなの初めて・・・」
「厳さんが・・・・で、何が変だって?」
「うん、それが出来れば大事にならないようにって厳じい、テレポートしてその犯人のボスに面会してきたらしいんだけど、ボスのやつ嘘もつかず、あっさり『自分が犯人だ』って認めて、
核物質も探してた偽札もアジトに保管して持ってて、
ある一家を殺したのも自分の部下だって認めたんだって
で「日本の秘密警察だぞ、逮捕するぞ」って厳じいが凄んだらさ・・・
多分だけど、
あの「ヤハウェ・ブレーキ」がかかったらしくって時間が止まったんだって・・・」
「なぁにーーーーっ?時間が止まったあー?・・・そりゃ大変だ」
「うん、厳じいが会話中に気がついたら目の前にいた犯人、綺麗に消えてたって、でナムサンに言って犯人の思考データのモニター結果を出して欲しいってアガルタのマンダラマシンに頼んだら、前代未聞の返答があったらしいのよ」
「なんだ、その前代未聞って」
「それが【クロスタウン・アンノウン】とだけ返答があって、なにも答えてくれなくなったって、これってヤハウェ様の意思が何か介入してきてるんじゃないかって厳じいもナムサンも言うのよ」
アガルタの量子コンピュータ・マンダラマシンが初めて沈黙した。
「ふーん、で厳じいと力道・戒道は今どうしてる?」
「うん、そのテロ犯っぽいやつの調べと核物質がどこにあるか探ってもらってる、興信所職員で・・・」
「そうか、それでか、何日か前、体の点検やらメンテナンスをたのむって厳じい来たんだ、で防御シールドやら、手足の材質をとにかく最強にしてくれって何か変だとは思ったけど、
うちで開発したスタンガンシステムと新しいワクチンを打った防御シールドがあったんで試験的でよければってグレードアップしたばかりだよ」
厳じいは、とうに100歳を超えている。
アガルタの了解をえて高度なテクノロジーを有す北条一久の手によって厳じいの体は脳を残してほとんどがサイボーグ化されている。
そして彼の弟子、力道・戒道も心臓と下半身・両腕は度重なる戦いの中でサイボーグ化していた。
「えー聞いてない・・・で、これ、私にブレーキがかからないってことは、私たちと興信所や南警察、このまま動いて問題ないよね、何か見落としてるんじゃないかと思うと不安でさ、
兄ちゃん、何かわかったら、すぐ教えてね、本当、お願い、署員たちの命が懸かってんの」
「よし解った、で、何から始める?」
「うん、まず、うちの白バイ、攻撃用に12台全部改造して、で南部拳銃のメンテお願い、150丁全部、
それとガトリング、ミサイル、防御シールドのヘッドギア150個、
医療班専用のヘッドギア50個、予備10個、
それと私の特注ボディスーツ、あとナムサンのボディスーツもお願い、
今回は放射線に注意しなきゃならないの、あとわがままで申し訳ないんだけどアガルタロックのアンカーキューブ10個と通信システムの強化お願い、
それから敵のアジト多分、防御シールドで囲まれてるみたいだから例のシールドブレイカー、ブルドックに装備して欲しいの」
「ああ、わかった・・・」
兄、一久はイタリアの骨董店で購入したダリ・デザインのペンでメモしていた。
拳銃はリボルバー『南部S5タイプ』と多目的オートガン『南部7』があり、切り替えスイッチで鉛の弾と電気刺激で対象の物体を倒す目的のスタンガン使用が可能なアガルタテク・ガンで、
ヘッドギア装着時、保護メガネを使用すると各拳銃と照準が連動してロックオンした対象に対しプラズマ弾が命中するまで対象を追い掛け回す機能が付いている。
対象が逃げようが物陰に隠れようが衝撃弾は曲がって追い掛け真上からも横からも命中するという代物だった。
「それから会社で各国に提供予定のドローン、攻撃用に改造してアメリカ軍みたいに使用したいの、
10台とは言わないから、何台かシステム共用できる形で、お願いできるかな」
「ん?あのアウトサイダー、警察官になったのか?」
アウトサイダーとは、北条の名前を伏せて南署にスカウトしている
プロゲーマー達の事。
「いま説得中、ひょっとしたら特命の嘱託みたいになるかもしれないけど一番強力な奴は警察に入りたいって言ってるから、良かったわ」
「そうか、ゲーマーにハッカー、優秀な奴ほど自由が好きだもんな」
「あとさ、ナムサンのわがままで悪いんだけど、ってか私も希望があって、あの、いつだったか話に聞いてた高速振動ブレードの刀できた?
あと、コルトの『ピースメーカー2丁』スタンガンシステムの組み込み、あれも大至急、お願いしたいのよ」
「ああ、刀はもう完成している、すでに5本はあるから今日持っていけ、あとナーさんのピースメーカーは今テストしている、パワーアップにバレルが持たないらしくて、
今、強化改造中だが、あす、あさってくらいには、なんとかなりそうだよ、あと電磁ヌンチャクもできたよ」
「刀できたんだ、で威力は、どんな感じ?」
「まぁ、ダイヤだろうが真っ二つってところかな、切れないものは無いよ、あとでナムサンと試してみろ、それにしても何だってピースメーカーなんだ、ムーさんか?」
「ああ、あれはムーさんが西部劇にハマっちゃって、どうしてもアレで悪人退治するんだって、どこまで本気なんだか革製のカウボーイハットまで買ったんだから・・・とにかく、ありがとう、兄ちゃん・・・」
振動ブレード、この刀、切れないものはない。その上、グリップに穴があいていて引き金がついている。引き金を引くと刀先端から対象に向かってプラズマ弾が発射される機能まで付いている。
刀は、中小サイズも製造中で刃物の扱いに慣れているものにはナイフとしても配給される予定だ。
「だけどよ一凜、その犯人やけに落ち着いてないか一体何者なんだろうな」
「だからアンノウンなのよ、調査の結果どこかのマフィアじゃないかって事になってるけど、
厳じいが言うには、あれはアメリカ人だって、
でねタイムマシンの使用も全然許可が下りなくなっちゃったのよ、
だから喫茶店から南署、興信所のビルも厳重警戒体制よ、今」
「そうか、じゃ、うちの館や総合病院なんかもロックしておいたほうがいいな・・・」
「全部よ、銀行もホテルも飲食店関係も危ないかもよ」
「で、結局どうするつもりなんだアジトに突入するんだろ?」
「ん、考えたけど、結局、南署と興信所のメンバーだけで何とかするつもり、で怪我人が出るのは必須だから、兄ちゃん、病院、何人くらいまで大丈夫かな?」
「ん?それは警察の人間と犯人側の人間両方だよな・・・、とりあえず医療トレーラーは2台あるから、それで50人は対応できるが病院はせいぜい40人までなら大丈夫かな、
無理して50人、そういえば後始末も考えておかないと処理班とパッカー車、考えておかないとな」
「うん、出来るだけスタンガンで対応するつもりだから、うまくいけば怪我人は少なくて済むかも知れない・・・・」
「たのむから放射能なんてのは御免こうむるぞ、放射能汚染が出たら、救護処理能力は10パーセントまで落ちる、うちの先生方に死なれちゃ困る」
「それに対応したかったのに、なんで今回はマンダラマシン協力してくれないのかな・・・・・」
「天界の神様たちは、なんと言ってるんだ?」
「うん、何かあれば駆けつけるって、心強い言葉はもらった」
「じゃ、心配いらないよ、どうもお前、珍しく固くなってるぞ、その気配、部下に伝染るから、
もっと適当に気楽に構えろや、今の時点で我々にブレーキは掛かっていないし神様も見ていてくれる、
それと、もう少し自分の部下たちを信頼しないと少しポジティブに考えよう、なっ」
そこで黙って話を聞いていたハスキーが吠えた。
「ワンっ」
「ははは一凜、太郎も心配するなとよ」
「うん、ありがとう太郎、兄ちゃん」
だが一凜の不安は消えることもなく、いよいよ父上と母上に協力を申し出ようかと迷い始めていた。




