第2話 失踪
やがて蝶名健一は25歳になった。
一応、地元の大学に進学はしたが生来の、のんびりした性格で就職もせずマスターの店に入り浸ってフリーターをしていた。
「警察官になれ」馴染みの女署長に言われて警察官になったのは健一ではなく健一の幼馴染、宮田ミキだった。
最近は夜になるとミキと署長で喫茶・十字街に、よく晩飯を食べに来るようになっていた。
酒を片手に
「健一、ぶらぶらしてると、ろくなもんにならないよ」署長が言う。
するとマスター安次郎が
「いや、こいつには、この店任すつもりだから、よろしく頼むよ署長」口を動かしながら言った。
健一は洗い物をしながら言う
「勝手なこと言わないでよ、まだ自由でいたいんだから」
「じゃナニか何かやりたいことでもあんのか頭空っぽの癖しやがって、いい若い者がぶらぶらしてちゃ神様に申し訳がたたねぇぞ」
「いや俺だってやりたい事くらい・・・マスター店任すって何か計画でもあるんですか?」
「ん、俺も最近思うところあってな旅にでも行きたいんだよ
長い間この店に縛られてたからなあ、お前の亡くなった母さんにも生前頼まれてたし健一お前この店のマスターになれ当面の金もやるから頼まれてくれや」
「考えておきます・・・」
「ばか」やりとりを聞いていたほろ酔いのミキが呟く。
「考えるもなにも将来は十字街みたいな店持ちたいって、あたしに、いつも言ってたじゃん、こういうのを渡りに船って言うのよ」
「いや猫に一万円だろう」とマスター
「違うわよ馬の耳に法華経でしょ」と署長
「いやいや童貞にコンドームじゃないか」とマスター
「あはは」笑いが店内に響き健一は、ふくれっ面で洗い物をした。
数日後マスター尾上安次郎は手紙を残して本当に失踪してしまった。
その日の朝、午前9時頃、健一の住む安アパートに
通称マックスと呼ばれる覆面パトカーに乗った一凜署長が起こしに来た。
ドアを無遠慮にノックする。
―コンコンコンコンコン・・・
健一は、ぐっすり寝ていた。
「うーん、誰だよ・・・・あと少し寝たいのに・・もう・・・」
「はい、だあれーっ」健一は、まだ眠い。
「あたしよっ開けなさい」
ふらふらと起き上がり玄関まで行って
ドアの覗きレンズ向こうに署長が立っていたドアの鍵を開ける。
「上がるわよ、これ読んで」
言うと署長は手紙を健一に差し出し奥のソファーに腰掛け腕を組んでいる。
前夜マスター尾上は夜中に南警察署の受付に現れ手紙を置いていったという。
それは『健一ヘ』と書かれた封筒だった。
中身はマスター安次郎からの芝居めいた内容の手紙だった。
「健一よ俺は多分、二度と店に戻るつもりはない。
だから店と二階の俺の私物すべて、お前に譲る。
いらないものは、お前の判断で捨てるなり売っぱらうなりしてもらって構わない。
店の権利は、すべて、お前名義になっている、この場所も建物も
お前のものだ。
十年以上も只働き同然のお前に土地建物ごと引き継いでもらいたい。
そして、ここからが肝心だが屋上の物置の中に現金が二千万円置いてある。
何かあった時に使え、困っている人間に施してもいいし、お前の自由に使え、あと店の飾りつけとして壁にあるモデルガンのうち散弾銃とグロック、38口径のスミスはモデルガンではない本物の拳銃と長物だ。
実弾が入ったままだから取り扱いには気をつけろ、あと補充の弾丸は二千万と一緒に保管してある。
細かいことは何でも署長に相談しろ、この事を知っているのは俺とお前、署長周辺とミキだけだ。
料理に関しての注意点は紙に書いて冷蔵庫に貼っておいた。
あと、ミキは、お前に惚れているぞ、いひひひ健闘を祈る。以上」
「はぁああーーーー?何ですかこれ、本物の拳銃って・・署長、中見ましたか」
「見ました、っと言う訳で、もうすぐパートのえっちゃんも出勤してくるし今日からあんたがマスターだから顔洗って、はい店に行く、わかった?」
まだボンヤリした意識で目やにを付けて口が半開き髪は寝癖でグシャグシャ寝起きの健一の股間はもっこりと膨らんでいた。
署長は、いきなり健一のパジャマを強引に下ろした。
「ちょっ、ちょっとっ!チョトおおおおー!」
「あはははーっ!」
五年前、健一の母、蝶名礼子は重大な疾患が原因で、あっという間に亡くなってしまった。
それ以来、故人の遺言もあり十字街のマスターと署長の一凜が健一の親代わりの様になっていた。
そして健一はマスターの願いのまま喫茶・十字街の二代目マスターとなって忙しく働き安アパートを引き払い店の二階に住むことになった。
一階が店舗、二階が住居、屋上がある。敷地面積は45坪、二階建てのはずだが高さが13メートルある大きな建物だった。
マスターの住居部分のワンルームには、大きめのTVとソファーがあり奥にパーテーションで仕切られたベットと大きめのバス・トイレルームがあった。
窓からは街の家々と商店街が見え小さい冷蔵庫と本棚パソコンがあり壁際の棚には映画のDVDコレクションが大量にあった。
失踪したマスターは仕事終わりの風呂が一番の生きがいだと言っていただけあって確か120万したとかいうバブルバスが設置されており風呂専用の小型TVまであった。
そして健一が新しい生活に慣れた頃・・・
思いがけない訪問者たちが来た。




