第28話 女署長・殴られる2
署長は先に喫茶・十字街に入店。
―チリン
ドアベルが鳴る。
「いっらいしゃいませ」
「健一、悪いわね、今日は勝手にやるから二階に行ってゆっくりしてて構わないわよ」
「いやいや、いいですよ、で今日、何人いらっしゃるんですか?」
「四人、それとちゃんと紹介してなかったけど、うちの白バイ隊・隊長と森林SPが来るから、あーじゃ飯も、お願いしよっかな」
「了解、今ミキちゃんも来てて・・・同席大丈夫ですか、それとも」
「あーそう、同席かまわないわよ、付き合ってんのアンタたち?」
「えー実は、まだ手も握ってないです・・・」
「あらら、なーにやってんのー鉄は熱いうちに打たないと、冷めちゃってから叩いても遅いよ、ダメな男だよ、おみゃーさんは・・・」
「はい・・・」うなだれる健一。
そこへミキが二階から降りてきた。
「あ、お疲れ様ですうー署長ご飯は?」
「食べる、わりと腹ペコ」
「りょうーかい」ミキ、エプロン装着。
「ちなみに今日、晩ご飯何?」
健一
「はい、酢豚と自家製焼売と海鮮海苔巻き、わかめと揚げと豆腐の味噌汁です、一人前¥2500いただきます」
ぶっとい海鮮海苔巻きの中には酢飯、卵焼き、いくら&とびっ子、中トロマグロ、カニ、細切りきゅうりが、これでもかと巻かれている。
「おー、いいじゃないか、つまみは?日本酒は?」
「つまみは松前漬けと、さつま揚げ、後、冷凍なら何でもありますよ、日本酒は四国の酔鯨が入りましたあぁー3本」
「おお!いいね、いいね」
そこでミキが言う
「署長、その顔どうしたんですか」
「ん?これかぁ、これには海より深ーい訳がありますだぁー」
「痛いでしょ・・・それ・・・」
「どんな時も人の心を試しちゃいかん、こういう罰があたる」
うんうんと頷く。
そこへ森・林刑事と坂本がやってきた
「こんばんわー」
「あ、いらっしゃいませ、どうぞ好きな席に、皆さん最初ビールでいいですか?」健一が聞く
「いいよ」
林刑事が答えた。
坂本は署から、ここまで歩いてくる間ずっと考えていた。
署長は自分が短気な性格なのを知っていて、あんな事をしたのか
悪いのは誰だ、そう、自分の知っている署長は誰よりも正義感が強くプライベートがゼロに等しい時間を警察で過ごしている。
馬鹿は自分だと、浅はかな自分を責め出していた。
席に着くなり坂本は頭を下げた。
「署長、誠に申し訳ありません」今にも土下座しそうな勢いだ。
「殴りかかったり、謝ったり忙しいのう坂本、だがお前は何にも悪くない、お前の心を試した私のほうが罪深い」
署長は乾杯もせずビールを飲みだした。
「ささ、みんなも呑め呑め、健ちゃん、めし」
そこへ先ほどの大皿・小皿が並べられた。
森と林は、まずメシだ。
「俺さ酢豚に入ってるパイナップル嫌いだったのに、ここの酢豚食ってから考え変わったよ、うまいと思うようになった」
「あ、オレも、うめぇー」
健一
「あー、味を損なわないように最後の方に入れるんです。
で、火加減で食感も変わるし、とろみをつける前に一回味見してよく整えないと美味しくないんですよ、
あと豚肉も、たれ酢に漬けたものを片栗まぶして唐揚げにしないと
美味しくないんです。
あとピーマン玉ねぎは大ぶりで切ってさっと炒めて、見た目の何倍も手間かかりますよ、でも僕なら、あっという間に作れます」
健一は普段、誰にも褒められないので少々ウザイ。
ミキも同席
「今日は、またどうして、このメンバーなんですか?」
署長
「ん、私と森林の三人で賭けをしたんだ、むしゃむしゃ」
坂本は落ち込み、俯き黙っていた。
ミキは、察しのいい空気を読む天才だった。
「むしゃむしゃじゃないわよ、また、何か『悪い事』したんでしょう、ダメじゃない
坂本さんが可愛そうよ、こんな小さくなっちゃって
大丈夫、坂本さん、私も署長と喧嘩したこと何回もあるから、
冗談の質が悪いのよ、いつも」
健一
「そうですよ、いつもグサッと来るようなことするんだから」
署長
「私は、いつ死んでも不思議じゃない、だから思い出を作ってるんだ」
ミキ
「ほら、またそういう・・・たまに駄々っ子になるんだから」
林
「まぁまぁ、姫様も悪いと思ってますから、このあと、お話もありますし、坂本さんもグッといって飯食いましょうよ」
瓶ビールを坂本に注ぎながら
林刑事の優しい言葉と笑顔に坂本も少し向き直った。
南署きってのイケメン刑事二人は森と林で署内では
「森林SP」と呼ばれていた。
ナムサン不在の場合、署長SPとして常に同行していた。
このSPの二人は普段無口だが、時折、一凜署長の事を
『姫様』と呼んでいた。
「はい、じゃいただきます」
健一の作った料理は、どれも暖かく、とても美味しいと坂本は思っていた。
森刑事が口をひらいた
「ところで坂本くん、君は恋人とか、いるのかい?」
「んふっ!」
坂本は海苔巻きを吹き出しそうになった。
「はーじまった、これこれぇー」
苦虫を潰したような変顔をする署長の一言で、ようやく、みんな笑顔になった。
署長は天を仰ぎ言った。
「アガルタロック」
―ゴン、ギューーーンと天井裏で重い音がして窓の外が少し暗くなった。




