第27話 女署長・殴られる1
「なんで、こんな犠牲者を出すんですか納得いきません!」
函館南警察署の署長室で白バイ隊・隊長『坂本梨乃』が署長・一凜に対し、感情的な態度で説明を求め
特別警戒期間限定でデスクを署長室に移動し報告書を書くため同室していた
森刑事・林刑事は、成り行きを聞くともなしに聞いていた。
長身に足が長く革製のプロテクターとライダースーツ姿で、
いつもキリっとしている髪の長い、女・白バイ隊長は
男性警察官達の憧れの的だった。
この日、函館市・北警察署管内のアパートにて女性と、その子供とみられる
他殺体が発見されニュースになっていた。
噛み付く勢いの坂本に対し署長である一凜は悪びれる風もなく
勤務時間内に堂々と飲酒して椅子を倒し足を伸ばして
モニターでTVニュースを見ていた。
「まあまあ梨乃っぺ、そう、おごるんでねぇよ、な」
机の上にはジャックダニエルが置かれ署長はグラスで、ぐいっと飲んでいた。
「何がっ、りのっぺですか署長っ!!小さな女の子が犠牲になってるんですよ、
それに、この件に関しては前々から警戒願いますって、署長にお願いしてたじゃないですか、警察官として良心はあるんですか!
なんですか!勤務中に酒飲んでる署長が何処にいますかっ!」
「こごさっ!居るじゃよっ!!」
「ぐっ!」
坂本は拳を握り鬼のように署長を睨みつけた…
「ほう・・・じゃ殴ってみるか、この私を・・・・」
署長は不敵な笑みを浮かべ自分の頬を差し出した。
坂本は、その挑発に乗った、殴ってやろうと思った。
机を廻り込み署長の制服の胸ぐらを掴み右手の拳を振り上げ
冷たい目をした署長の顔面めがけ思い切り殴りつけた。
―ごつんっ!
鈍い音をたてて坂本の拳は署長の左顔面に突き刺さり署長は右手のグラスを放り出し床に転がった。
―ドンッ!
さらに坂本が署長に馬乗りになって殴ろうとした時
同席していた森・林刑事に後ろから羽交い締めにされ止められた。
「やめろっ、坂本、これには訳があるんだ、落ち着け坂本っ!」
「はなせーっ!」坂本は顔を真っ赤にして力任せにもがいた。
坂本梨乃は警察を辞めるつもりで署長に殴りかかっていた。
もちろん今の時点で傷害で前科がついても仕方がない状況だった。
坂本は心の中で
「やってしまった…」頭の中が真っ白になってきた。
ゆっくりと起き上がってきた署長の顔は左側が内出血していたが
思い切り笑顔だった。
―ニコーッ
「ハイ!森林くん、私の勝ちね、はいはい金出せ、とっとと」
パシパシと机を叩く。
森刑事と林刑事は坂本を掴んだまま
「あーくっそう、なんだよもう負けたあー・・・」
「出せばいいんでしょクッソー、おい坂本、お前のせいで大損だよ
あぁーあ、なんだよ俺のキャバクラ代が・・・
また、しおりちゃんが遠のいていく・・・」
署長のテーブルには一万円札が3枚二人分、合計6枚の万札が置かれた。
署長が言う
「おい坂本、いいパンチだったが、めっちゃ痛ぇじゃねぇか手加減してくれよ・・・」
林刑事が言う
「署長、自分アイスパック取ってきます、歯大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、多分・・・・いっつう・・・」
状況が飲み込めず放心状態の
白バイ隊・隊長・坂本梨乃28歳は目の前の三人のやりとりに
少し混乱していた。
壁際の鏡で殴られた顔を見ながら美しい後姿で署長が言う
「お前、見事に一線を超えてくれたな、それでこそ私が見込んだ女だ、
賭けにも勝ったし、つくづく、お前が好きになったぞ」
「あの・・・どういう事ですか・・・私は署長の態度と今回の警察の無関心に・・・これは・・一体何なんですか…」
「ん?んだからよ、三人で賭けしてたって訳、6万儲かった、おい坂本、これから大事な話があるから今晩付き合え、で今日の事件に関して話もあるんだ・・・・つきあえ、どうだ」
署長は椅子に座り直した。
「一体・・・・」事態が飲み込めない坂本。
身振り手振りで署長が言う
「んだからよ、明日から三日間お前は謹慎処分だ、表向きには只の有給休暇扱いにする、ゆっくり休んで頭を冷やせ、それで折り入って事件解決のため相談があると言うとるのだ、死んだ親子のためにも」
「う、裏があるんですか?署長・・・」
「ある、大アリよ、それに、今日の犠牲者二人、まだ助けられるかもしれん・・・喫茶・十字街で落ち合うぞ、詳しい話は向こうについてからだ」
「助ける?…」
坂本には署長が何を言っているのか、さっぱり解らない。
「アイスパックです」林刑事が戻ってきた。
左頬を押さえながら署長
「おい、お前たち二人も今晩、十字街に来れないか、
この6万でおごってやるから付き合わないか?
報告書は明日の夜で構わん」
森・林刑事は一瞬顔を見合わせ
「行きますっ!」二人共に笑顔で返答した。
辞職を覚悟して自分の上司、しかも署長に殴りかかった
白バイ隊・隊長・坂本は、言い知れない不安を抱えて喫茶・十字街に向かった。




