第26話 津軽じょんから節
そして『居酒屋さなだ』のオープンとなった。
各種契約や営業許可の関係から前科者たちは省かれてしまい
この店のオーナーは北条一凜となっていた。
だが実質の経営者は元組長・真田正雄のようなものだった。
会社設立から火災保険契約、税理士、経営コンサルタントなどは署長の手配でなされており、当人たちは、ただ一所懸命に働けば良かった。
調理場は元組員たちが入り、店員は家族と仲間が集められて順調な船出となり
店には北条ホテルの従業員や調理場の者たち、北条不動産・北条銀行の社員、北条総合病院職員たち
南警察署の面々などグループの者たちが代わる代わる来店してくれており一般のお客様も含め店は、いつも満員だった。
ただ開店祝いと称して花と大金を届けてくれてはいたものの
あの南警察署・署長の一凜だけは店に姿を現さなかった……
店がオープンして二ヶ月経った頃、一凜はミキと十字街の健一にも声をかけ、森・林刑事を従え、更に興信所の三人と
透明状態のナムサンたちと一緒に
「カラオケをしに行こう」と居酒屋さなだにドッキリのごとく突然姿を現した。
「オーナー様が来た!」ということで調理場には緊張感が走り
店員たちにも気合が入った。
「いらっしゃいませー!」
その日の一凜は、和服姿で現れて、来店していた北条グループの客たちが、すぐに、ざわざわしだした。
グループの人間でも噂だけで初めて生身の一凜を初めて見るものたちも多く
「姫様!!」と声がかかるほど店内は、ざわつき始めた。
厨房にいた元組員の調理師たちは、あのヒットマンが一凜署長と一緒に来店してきた事に驚いていた。
一凛たちはテーブルに着くと、『ポテトとざんぎと岩海苔おにぎり明太子』をつまみに、みんなで乾杯し駆けつけ三杯を飲み干したあと、おもむろに店の中央にある小さな舞台に向かった。
厳道たちと一緒の宇宙人ナムサンには誰も気が付かない。
予めの打ち合わせ通り、ミキと健一が舞台準備を始め、森刑事が三味線を持ち、林刑事が太鼓の準備を始めた。
一凜は舞台に上がりマイクを手にとった。
「みんなあー、飲んでますかぁー、さなだぁーっ良かったねぇー」
一凜は若く綺麗で正確な年齢を知る者はなく、どう見ても20歳代にしか見えない。
「うおーい」と客たちが反応していてグループの女性たちが森と林刑事を見ながら
「あのイケメンは誰なのか」とか「カッコイイ」と興奮している。
上機嫌の一凜がマイクでアピール。
「今日わぁ遅くなったけどぉー、このお店の開店祝いに唄いまぁーす」
ニコニコした署長がカワイイ・・・興信所の3人と透明ナムサンの3人も拍手喝采。
「うわーいっ」と男も女も大人も子供も場は盛り上がり、偶然居合わせた一般の客も拍手を送った。
「はぁーあっ!」一凜の掛け声とともに、私服の森林刑事は三味線と太鼓を鳴らし始めた。
―ベベン、ジャンジャンジャンベベベンジャンジャンジャン
トン・トトトン、トロロントロロンベンベンジャンジャンジャンジャジャジャジャン、ベンンベンべべベン、ベンベンベン
「はっ!」と森刑事が合図を出す。
華やかな着物姿の一凜がマイクを持つ
「はあーあーーーーんあーーーーあーあーーーーーーーーーーーっ!
こよおーいーっさなだあーのかいーてんいーわいにぃーっ!
ベンベンベンジャジャジャントコジャンジャン、ドンドン!
さぁさあーこれーよおーりーいじょんがあーらあーぶーしーいーをおーおー
うたいーますうーるよぉーーおききなぁーさーあーーーーーいーーーっ!
ベンベベベンジャンジャンジャジャジャジャンッ!
はあんーーーーーーあーーーーあーああーんあーーーーーーーーーーーーーっ
こどもおーごころおーのおーおさなあーいこおーろーおーにぃ
ははぁーのおーせなあーかーでぇーおぼえたあーうーーーたーーがーーーーこれがあーーつがるのおーーーーじょんかーあらーぶーしいーよーおー」
唄はプロだ。
生まれて初めて生で民謡を聞いた子どたちは真剣な表情で固まり、その場にいた客たちも鳥肌が立ってじっと聞き入った。
合間に声がかかる
「うわー姫さまあーっ!」「イエーーーーッ!」「キャーッ!!」
場の盛り上がりは最高潮になった。
みんなが拍手をして楽しんでいる。
調理場の従業員も店員の女房や子供たちも、みんな最高の笑顔。
自分の店がこんなに華やかな空気に包まれている。
その光景を見ながら真田は、この半年間を流れるように思い出し
めちゃくちゃな日々を過ごしてきた自分だけでなく
舎弟たちにも良くしてもらい
一凜署長の懐の大きさに
調理人・真田正雄は人目もはばからず、生まれて初めて大声で
『おいおい』と泣いた…
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