第20話 厳道・故郷に帰る1
終戦後、北条一はナムサンの案内で
アガルタに出向いたり自分の過去や前世についても調べていた。
ナムサンの信頼は名付け親「ヒロミチの尊」の七光りで、やりたい放題、北条は霊界ですら見学を許され、月や金星、火星のそばに迄も行ったり来たりしていた。
そして現時点・現代でのキーパーソン選びを考えタイムトラベルも視野に行動を開始していた。
さて結婚において身なりを整えた仙人、インドのヨガ・少林寺拳法の流れを汲む
羅漢拳を得意とする
「厳道」と
その弟子で、合気道を得意とする
「力道」
忍術・武器を得意とする
「戒道」
そして北条一の四人は嫁の待つ青森県の陸奥にテレポートした。
その昔、女人禁制の山で修行をしていた阿闍梨と
一生、貞操を守り神に仕えると誓ったはずの巫女。
寺と神社を破門になった厳道と妻子は、かつての修行仲間にもらった餞別を元手に妻の実家がある・青森に移り住み、畑仕事などして生活をはじめたが娘が五歳になった、ある日。
「ちょっと行ってくる」と出かけた厳道は十五年も家に帰っていなかった。
これには北条も呆れたが実は込み入った事情があった。
厳道が最高責任者だった山とのしがらみで面倒な無理難題を抱え、その贖罪と破門に伴う問題を解決しに行っていたのだった。
第二次世界大戦時、厳道が破門になり山を降りる時、仏道を大きく外れ権力と金と女に溺れた身内の僧侶16人の寝込みを襲い手にかけて殺していた。
山は天地がひっくり返る程の大騒ぎとなった。
修行は楽なものなど一つもない。
進んで仏道に入ろうが成り行きで入門しようが、それを望まぬ者には楽しいことなど一つもない。
だが一度、目覚め、自分の命に目が向き出すと、あらゆる仏の加護に気がつき他人の苦しみも理解し、世俗の声も耳に入らなくなり、更なる高みを目指して厳しい修行にも耐え、長となってみれば
それは腫れ物に触るかのような態度の弟子や陰口を叩き皮肉しか言わぬ先輩たちとの生活の中、厳道は孤独の度合いを増し、いつしか物言わぬ仏様のことも曖昧となってきたとき、美しい巫女と出会った。
寺の最高責任者であった厳道は毎週末、寺の金を持ち出しては山を降り遊んで帰ってくる先輩外道たちを
「なんとかせねば、神仏にも下にも示しがつかん」と決心していた。
寺を汚した者たちを成敗し天誅を下してしまったのだった。
「わしも未熟者だった・・・そして寺の誰よりも一途で純粋でありたかった。
だが殺人は天に言い訳はできぬ。
いつの日か地獄に落ち罰を受けるのはわかっているが・・・
あの外道たちは、この私が犠牲になろうとも生かしておけぬ存在だったのだ。
嘘を平気でつき、酒池肉林の日々を送り、金を追い求め・・・あの増上慢が・・・
どうしても許せなかった・・・
事実、内心・・・いや、法界の者たちも来る時が来ただけだと言って
わしは警察に追われることもなく、今がある。
戦争のどさくさも、わしには好都合だった。
反省や後悔は毎日だが所詮、人間だ、そこからは人間らしく有りたいと生きてまいりました・・・」
死体は修行上の事故として片付けられ事件は闇に葬られた、警察沙汰にもならず騒ぎになるのを危惧し厳道は破門なったが破門状は法界に回ることは無かった。
なぜなら残った聖職者たちは厳道の天誅に感謝していたからだった。
やがて大戦中、先の事件を知って、つまらぬ脅しをかけてくるものたちの始末や、怨霊となり自分に取り付いている彼らを払い供養するべく三重県や四国に遍路して廻り、
行きずりの人助けをしながら旅をし自分も怪我や病気があって帰るに帰れない。
厳道は広島の空襲後、焼け野原で親のない少年二人を弟子にとって、肉を喰らい魚を喰らい、時に人助けをしながら、めちゃくちゃな旅をしていたのだった。
さて、時を経て、この度の縁談について先だって厳道は青森に謝罪と、あらましや結婚について手紙を出していた。
しかし女房は激怒していた、なぜなら幾許かの金は毎月送金されてはいたが、ろくな便りもせず家を捨てたようになっていたからだった。
北条・厳道・力道・戒道の4人は、綺麗な背広にコートを身に付け、
家を探した。
青森にも空襲があって雪の残る青森の田舎街では復興作業が力なく進んでいて馬門村にある厳道の記憶の場所は更地になっていた。
その一角に煙突から細々と煙を出している一軒のバラック小屋が見えた。
「柴崎」と表札があった。
人の気配に中からモンペをはいた女性が出てきた。
「どなたですか?」
続いて厳道の妻が飛び出してきた。
そのふたりこそ
「柴崎千鶴子」と厳道の娘「一鶴」であった。
厳道たちを一瞥し
鼻息荒く、静かに顎で中に入れと千鶴子は客を招いた。
髪はぐちゃぐちゃで、もんぺ姿
鋭い目で睨みつける千鶴子は美しい顔立ちだった。
彼女は長い間この日を夢見ていた。
戻ってきた自分の憎き夫はヒゲを綺麗に剃り長い髪をポニーテールに束ね、スーツにコートをはおり、革靴を履いて戻ってきた。
「寒い中悪いが少しの間、二人は外で待っていてくれ」
厳道が弟子二人に促した。
それでは寒いのでかわいそうだと
北条はテレパシーですぐにナムサンに連絡を取った。
北条にはテレパシー装置が頭脳内に影響が無いようインプラントされていた。
北条と厳道が中に入るとバラックは狭く、寒く、ひどい有様で二人の苦労が感じられた。
厳道が口を開いた。
「家、どした」
背中を向けて、お茶の用意などしていた千鶴子は、わなわなと肩を震わせ、どやしつけてきた。
「があっ!どのつらさげて!はぁっ!かえってきたあっ!
なにほど二人して苦労さしたがぁ!なぁみてぇなおおばかけぇ!」
物が飛んできた。
厳道は
「いや悪かった、すまない、ゆるしてけれ」
ちゃっかり飛んできた湯呑を右手でサクっとキャッチしながら
正座して頭をさげた。
「このおーっ!湯呑受けやがって!すまねぇで済んだらけいさついらねぇべぇー!このばがけぇーっ!!」
街中に響き渡るほどの叫び声を上げ、千鶴子の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「おかちゃん、わがったから、も、わがったはんで・・・」
娘、一鶴も千鶴子にすがりつき泣き崩れてしまった。




