第21話 厳道・故郷に帰る2
バラックの外では宇宙人ナムサンと弟子ふたりが
「あーあ」悲しげに様子を伺っている。
まったく話し合いなどにはならなかったが
少し落ち着いてきて北条は丁寧に正座して二人に挨拶をした。
「初めまして、北条一と申します」
ナムサンに青森の柴崎家座標宛にテレポートで車を送ってもらい
バラック小屋から一番近い駅前まで北条の運転で弟子も連れ6人で移動して駅前旅館の広い部屋をとって、ようやく結婚の相談が始まった。
だがまだ場の空気が悪いので、みんなで会食となった。
感の鋭い柴崎親子には、まだ同席・面談は早いと言うことで
ナムサンの搭乗するUFOにはビール・日本酒・鳥そぼろイクラかにめし弁当5個と紅鮭幕の内弁当5個が弟子から差し入れられた。
東北の地でUFOに乗ったグレイ宇宙人アンドロイドが飯を食っている・・・
「うが、うめぇな弁当」
「この酒もいける、地酒か」
「縁談、まとまるのかな・・・」
「まとまるさ百万円は、どぎついからなあ」
少し我に帰った千鶴子は不機嫌なままで化粧もせず
着の身着のままで髪が、ぐしゃぐしゃ、恥ずかしくなってきた。
それは娘の一鶴も同じで、小さくなってずっと俯いていた。
本当は二人共、綺麗な着物も服も持っていたが空襲で、みな焼けてしまったのだった・・・
北条は言う
「今、世の中はまだまだ戦後の混乱があります。
私は自家用の飛行機を持っています。
今夜からでも、お二人共、函館に、いらしてくださいませんでしょうか、突然の話で戸惑われるでしょう。
地元の方々に、ご挨拶とか今後の身辺整理など何回でも青森と函館行き来しますので。
それと本来、結納の儀式などキチンとせねばならぬのですが、とりあえず支度金なども、ご用意いたしました。
なんの相談もなく,
お母様におかれまして気分を害されるかもしれませんが、
こちら結納金といたしまして、是非、お収めください。
いたらない私ですが、どうかお嬢様を、お嫁にください」
先程から北条が風呂敷包を抱えていたので皆、てっきり菓子折りだろうと思っていた。
開けて差し出された箱の中身には、ぎっしり札束が詰まっていた。
千鶴子と一鶴は驚いた。
千鶴子は、うっかり聞いた。
「これ、わたしにくれるんですか?一体いくらあるんだべ」
「はい、少ないとは思いましたが、とりあえず百万円ほどです」
当時の百万円といえば1200万ほどの価値があった。
柴崎千鶴子は、びっくりして夫にいう
「おい、巌、何か悪いことでもしたのか・・・これは夢なのかい・・・」
厳道は愛想笑いもなく真剣な表情のままだった。
一鶴は端から決意していた。
この田舎に居てバラック小屋に暮らしていてもしょうがないと…
母に
「おかちゃん、これも、おとちゃんのおかげだべ、おら嫁さいぐすて、おかちゃんも、はごだてさあんべ、なあ」
北条が只者では無いことは良くわかった。
千鶴子は北条に向き直って先程までとは違う低いテンションで話だした。
「わかりました、その前に、一つ、お話しておきますが
私は元・熊野地方の巫女で、訳あって破門にはなりましたが
その時の知識と経験と能力を活かして
ここ陸奥にてイタコを生業にしてまいりました。
そして娘・一鶴も能力があり、恥ずかしくない躾と修行を共にしてまいりました。
人間の手前勝手とは思いつつも日本古来の神々に祈りを捧げ
時に黄泉の国に行きそびれた者たちを送り
神様の力にすがって悪しきものを払う
「憑き物落とし」を生業にしてきました。
言うなれば神に仕える身であります、当然、家族となれば、その私達に裏切りは許されませんぞ、あなたも神に仕える気持ちで娘を嫁にもらう覚悟は、ありますか」
それを聞いていた厳道は顔が真っ赤だった。
「おまえ、この、お方は・・・」
千鶴子に対し何か言おうとする厳道を窘め北条が言う
「お母様、実は、私、孤児で親がおりません。
私は厳道様や、お母様のような親がいたら、どんなに心強いかと
永年、思っておりました。
裏切りなど、ご心配には及びません何より一鶴様のような
美しい方、二度と、このような方に出会うことはないでしょう
私も神様は大好きです」
一鶴は、じっと聞いていたが内心ドキドキして顔が赤くなった。
千鶴子は正面から北条一を見据えて少し安心した。
「よしよし、できた、北条様、ハラが減ってきました」
「はじめと呼んでください、お母様。
実は私もハラが減っておりまして精進料理、特別に頼みましたので、
では食べますか?」
「あのー俺たちは、もう腹ぺこでごぜぇますだ」
豪勢な、お膳を前に
もじもじして、厳道の弟子たちは我慢していたのだ。
「あははは」
初めて、みんな笑顔になった。
厳道が音頭をとった。
「あははは、ではまず乾杯じゃ」
静かに雪の降る青森・野辺地駅前旅館は暖かい心に包まれだし
これから起こる波乱万丈の未来に向け、幕が静かに開けていく・・・




