2.ハンナ:盗賊
風が草を撫でるたび、金色が波打った。砂利を踏みしめて歩くと、心地よいリズムを刻んだ。
母に頼まれた買い出しの帰り道。籠には麓の村で買った産みたての卵。
母は毎週料理のレシピを教えてくれた。ハンナはそれが楽しみだった。今日はスフレケーキの焼き方を教えてもらう約束だ。シンプルなはずなのに、母の作るスフレケーキは頬が落ちそうになる。あの味をいつか再現したい。
あと何日、と今週も頬杖をつきながらカレンダーを数えた。温かくて、ひとくち食べるだけで体の芯からほどけていくような。思い出すと、自然に頬がゆるんだ。
「お嬢さん、待ちなよ」
男の声がハンナを現実に引き戻した。いつの間にか三人の男に囲まれていた。近くの村に強盗が出たと聞いていたのに……油断した。
一人が腰からナイフを抜くと「金を出せ」と言った。これは本来の目的を隠すための虚偽の要求であることを、ハンナは知っていた。強盗は女をさらって売り払う。強盗に近づいてはいけない。人のいるところまで逃げなければ。
籠の中の財布をつかみ、上へ放り投げた。強盗の視線が上に移った。その隙にハンナは家の方へ走った。
「待て!」
強盗の怒鳴り声が聞こえた。後ろを振り返る余裕はなかった。
強盗の声が近づいてきた。このまま逃げても、いずれは追いつかれる。息が切れそうになったけれど、前に走った。とにかく、前に。
「きゃっ」
ワンピースの裾をつかまれてバランスを崩し、転んだ。下品な笑いを浮かべながら、強盗はハンナに近づいた。逃げないといけない。なのに、膝が震えて動けない。涙で前が見えなかった。
「何をしている!」
別の男の声が後ろから聞こえた。強盗が振り返ると同時に、男は突進した。一人の腹に拳が突き刺さり、呻き声とともに崩れ落ちた。
「くそっ!」
もう一人が叫び、斧を振り下ろした。男は身を引いてかわし、首元を殴りつけた。呻き声が聞こえた。
瞬く間に二人が倒され、三人目はじりじりと後ずさりした。男が距離を詰めると、仲間を見捨てて逃げ出した。
「やれやれ、仲間を連れていってよね」
男は頭をかきながらハンナを振り返った。
見たことがない男だった。この付近に住んでいる者ではない。ハンナの家の方向から来た。母の来客だろうか?
「怪我は? あっ、血が出ているね」
男はハンナの足を指差した。服には泥と血がべっとりと付いていた。
「ありがとうございます。大した怪我ではありません」
ハンナは愛想笑いを浮かべた。




