18.ポール:ユキの世界
「僕を一人にしないで」
ポールはベッドに横たわるユキの手を握っていた。いつものように温かい手。ユキは握り返そうとしたけれど、握力を失っていた。
「大丈夫だよ。また会えるから」
ユキは力なく笑うと、目を閉じた。
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ユキの夢を見たのは久しぶりだった。きっとハンナと会ったからだ。
ユキの言葉を信じて、ポールは待ち続けた。二百年待った。そして、ハンナを見つけた。
魂の転生にはルールがある。人は死ぬと他の世界に転生する。どの世界に転生するかは選べない。前世の記憶がある転生者が約二割。転生時に覚えていなくても、後で思い出す場合もある。
ハンナはポールのことを覚えていなかった。でも、あのシステムが認証したのだから、ハンナはユキだ。それは間違いない。
可能性は高くないかもしれないけれど、何かをきっかけにハンナがユキの記憶を思い出すことを、ポールは期待していた。
ユキの母の指輪を渡した。二人で空を飛んだ。二人で暮らした場所に連れてきた。他に何をすれば思い出すだろうか?
ポールは小さくため息をついた。
「ちょっと、いいかな?」
顔を上げると、扉の前にハンナが立っていた。考え事をしていたポールは、ハンナが部屋に入ってきたことに気付かなかった。
「いいよ。どうしたの?」
「あの兵器は使うつもりだったの?」
「使うつもりはない。君を殺したくないから。あの兵器は君がユキかどうかを、確かめるために使った」
ハンナは「そう」と呟いて窓の外を見た。
「誓約はあったの?」
「ごめん、そんなものはない。君をここに連れてくるための嘘だ」
ポールは頭をかいた。ユキの生まれ変わりであるハンナに、今さら隠す必要はなかった。
「じゃあ、母さんのところに帰ってもいいの?」
「もちろんだよ。送ろうか?」
「まだいい。しばらくここにいる」
ハンナは窓の外をぼんやりと眺めていた。
「訊きたかったのは、その二つ?」
「いや、もう一つ。これがユキの世界?」
ハンナは古い写真を持っていた。ユキが大切にしていた写真。父と母が写っていた。
「そうみたいだね」
「ユキは何度か元の世界に戻ったんだよね。私も行けないかな?」
ユキがこの世界にきた扉は、ポールが管理していた。壊れていないし、まだ使えるだろう。
「行けるはずだけど……行ってみる?」
ハンナは嬉しそうに飛び跳ねた。
ハンナがユキの世界にいくと、何が起こるかわからない。不安はあったけれど、ユキの記憶を思い出す可能性にかけることにした。
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「よし、安定しているみたいだ。行こう」
ポールは扉を開けた。何もない広い空間。遠くに見える光の方向へ進んだ。
「手、つないでもいい?」
いつもより早口なハンナの声がした。緊張しているのだろう。何も言わず、ポールはハンナの手を握った。薄暗い空間、吐く息が白かった。
突き当りの階段を上がると地上に出た。出口は公園の中にある白い像だった。周りには高い建物が見えた。
空に突き刺さるような、高層ビル群。ガラスの壁に空が映っていた。鉄と硝子でできた構造物、ガラスの中を雲が泳いでいた。ここが別世界であることを実感した。
「すごい! 大きいね」
ハンナは建物を見上げた。
ユキからこの世界のことを聞いたことがあったけれど、想像を遥かに超える大きさだった。ビルを見上げるハンナは、首を傾けすぎて、後ろに倒れそうになっていた。
「あまりキョロキョロすると、怪しまれるよ」
「ポールもね」
ハンナは笑った。ポールは「そうだね」と苦笑いした。
ポケットから紙を取り出した。そこには、ユキが暮らしていた場所が記されていた。
公園を出て通行人に場所を尋ねると、丁寧に経路を教えてくれた。この世界の人は、いい人だ。




