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迷い込んだ異世界で彼と  作者: kkkkk


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12.ハンナ:空中都市のシステム

「ここは?」


 ぼんやりとした視界、天井には見慣れない模様。窓から差し込む光で目が痛かった。ハンナは我慢できずに瞼を閉じた。


 ゆっくりと目を開けた。部屋の隅のほうに影が見えたけれど、逆光で何かわからない。じっと目を凝らす。壁際に座り込んだ人だった。


「やっと目を覚ましたね」


 壁際の人はハンナに近づいてきた。

 身構えながら、身体を動かそうと試みたけど、うまく動かない。全身が鉛のように重く、力が入らなかった。


「僕だよ」と耳に覚えのある声がした。ポールだった。


 ハンナは卵に騙されて空に身を投げ出した。

 呼吸ができなくて、意識がなくなった。地面に落ちて死んだ……はずだった。


「もう大丈夫だよ」


 ポールはハンナの頭を優しくなでた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 ベッドの横に立つポールに抱きついた。涙が溢れて止まらなかった。怖かった。


 ポールはハンナを助けた経緯を説明した。

 ポールが家に戻るとハンナがいなかった。家の周辺を探したら、ハンナは卵と話していた。話を遮るのもどうかと思い、しばらく見ていたら、ハンナが空に身を投げ出した。ポールは慌てて空に飛んで、ハンナを救った。


「無事でよかった。簡単に人を信じてはだめだよ」


 卵は「常に死を恐れて暮らす苦悩をハンナに教えたかった」とポールに熱を帯びた口調で語ったそうだ。


 嘘だ。ハンナは拳を握りしめた。

 長く生きると感情の起伏がなくなり、他人に無関心になる。ハンナを騙したのは、卵にとって、ただの暇つぶしだったのだ。


 **


「案内したい場所があるんだ」


 翌日、朝食を食べ終わるとポールが声を弾ませた。

 特に断る理由はないから、ハンナはポールについて家を出た。


 日向ぼっこをする大きな猫が、興味なさそうにハンナを見た。

 陽にあたった猫はいい匂いがする。匂いを嗅いでみたい、顔をうずめたい。そんな誘惑に耐えながら、ポールの後を歩いた。


 ポールは城の左にある道を通って、大きな建物に入った。倉庫のような外観だった。中に入ると、金属製の物体が動いていた。


「これは?」

「ロボットだよ。この街に必要なものだ」


 ロボット――ハンナは絵本で読んだことがあった。地上にはない高度な技術。

 空中都市の食料の生産、街の清掃、建物の補修はロボットがしており、住民は働く必要がないらしい。

 ポールが言うには、科学技術をもとに設計したロボットは、魔法を動力源にして動くらしい。説明を聞いたけれど、ハンナにはほとんど理解できなかった。


「素晴らしい技術だね」

「僕もこれを作ったときは、街の発展に役立つと思った。でもね、労働から解放されると、活力が失われて、無気力になる」

「そうなの?」

「そうだよ。卵みたいにね。僕の一族が滅んだのは、労働をしなくなったからかもしれない」


 ポールはため息をついた。

 ロボットがいれば、朝早くから夜遅くまで働く母は楽になるだろう。稲を植える必要はないし、牛の世話をしなくてもいい。

 ハンナがロボットをじっくり観察していたら、ポールは「こっちだよ」と建物の奥へ歩いていった。


 ポールが行き止りの板に手をかざすと扉が開いた。

 部屋には無機質な機械音が響いていた。壁一面にモニターが設置され、地図と映像が表示されていた。

 ポールはその一角、透明の硝子に囲われた場所を指差した。


「これを操作するために、君が必要なんだ」

「私が?」

「そうだ。このシステムにはユキの遺伝子情報が登録されている。僕だけではシステムの生態認証をクリアできない。君と僕が同時に操作する必要がある」


 ポールの説明によれば、ユキの子孫であるハンナはシステムの生態認証をクリアできる。つまり、このシステムを起動するために、ハンナは空中都市に連れてこられたことになる。


「そこに座ってくれないか」


 指先がパネルに触れると、シートがゆっくりと回転し、ハンナの身体を受け止めた。システムがハンナを歓迎しているようだった。


「認証は問題なさそうだね」


 ポールは両手を胸の前で握った。

 無事に認証されて安心したハンナは、深く息を吐き出した。

 ハンナは操作盤の横にあるボタンを、ぼんやりと見つめた。二人同時に操作するシステム。よほど重要な操作でなければ、そんな回りくどい設計にはしない。


「これは何をするもの?」

「兵器だよ。これを使えば、人類は滅亡する」


 ポールは静かに答えた。その表情は虚ろだった。


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