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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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二度目の入浴

「あーもう!!」


自室で頭を掻きながら、仕事が増えたことに悩まされていた。


始めは大衆浴場の完成と冬を迎えるための元気づけの祭りのつもりだったのに、

アリーシアが参加したせいで、ユルガ夫人も呼ぶ羽目になり、

身内だけの祭りで済まなくなってしまった。


「貴族なんだから断りなさいよ」


ユルガ夫人からの返事を手にとってため息を付く。


愚痴を言っても仕事が進むはずもなく、

仕方がなくジーノとギルに頭を下げて、

アリーシアや公爵夫人のためだけのテーブルと椅子を作ってもらい、

ちゃくちゃくと11月15日に近づいていった。




「どうにか今日を迎えられたわね」


食堂の前の路地に並べられた長テーブルと、

来賓用のテーブル。


「リズ様大丈夫ですか?」


今日までの苦労を知っているアシュが心配そうにこちらを見つめている。


「今日の夜は思いっきり寝るわ」


私の返事にクスッと笑う。


あの日から時折アシュが部屋に来て、結衣として接してくれていた。


もしあれがなければきっと私は、どっかで倒れていてもおかしくなかった。


そんなことを思っていると、


「ユルガ夫人とアリーシア様がおみえです」


ナツが、来賓の到着を告げてきた。


「アシュ、気を引き締めましょう」


そう言って、ユルガ夫人たちの馬車の方へと向かった。



「お待ちしておりました」


領地の前で馬車を降りてユルガ夫人とアリーシアが待ち構えていた。


「今日という日をずっと待っていたわ」


ユルガ夫人が楽しみを我慢できない様子が伝わってくる。


「今日はお招きいただきありがとうございます」


夫人とは対照的に、フレイナお嬢様はスカートを広げ挨拶してくれた。


「満足いただけるおもてなしが出来るかわかりませんが、

本日は楽しんでください」


私もスカートを広げ挨拶を返した。


「社交辞令はいいから、私はお風呂を楽しみに来たのよ」


奥からアリーシアが、美女6人を引き連れて現れた。


「もう少ししたらお湯が沸くので、それまでお待ちください」


引きつった笑顔でどうにかアリーシアの応対をする。


「それじゃ一応ね⋯⋯」


アリーシアが後ろに視線を向けると二台の荷馬車が構えていた。


「うちからは、ユーデンのエールを2樽送るわ」


それに反応してユルガ夫人も、


「私からは、ホルナのワインを3樽招待してもらったお礼として送りますわ」


この贈り物は素直に嬉しい。

お酒ならいくらあっても困らない。


「ねぇアシュ、わざわざ産地を言っているけど有名なものなの?」


ユルガ夫人とアリーシアに聞こえないように耳打ちでアシュに聞くと、


「どちらも最上級品になります。相場で1樽30万イェンと聞いた覚えがあります」

「30万!!!」


アシュの口から出た思いがけない金額に驚き、

咄嗟に口を抑えた。


「あんたが思っているよりも風呂って貴重なのよ」


アリーシアが私の驚きを読んで説明してくれた。


「でも、それだけあれば自分の屋敷で入れませんか?」

「本当に馬鹿ね」

「どういうことですか?」

「これはあくまでも前金よ」


そう言って、アリーシアとユルガ夫人が微笑んだ。


「前金?」


アリーシアの言葉に引っかかりながら、

彼女たちを大衆浴場に案内した。



大衆浴場の前にはいつの間にか領民たちが集まっていた。


「へぇー結構立派な建物ね」


大衆浴場を見渡しアリーシアが感心してる。


「今年はこれで終わりですけど、来年には領民の家も建て替える予定です」

「それは早くしたほうが良いわ」


ユルガ夫人はここまでの道中で、あの家で領民が冬を越えられるかと何度も質問してきた。


「全部の家を一気に建て替えられないので、

とりあえずは暖かい場所を提供する意味でもあるのです」


私の考えにユルガ夫人も頷いてくれた。


「遅刻したかいな?」


息を切らしながら女将が領民をかき分けて駆け寄ってきた。


「全然大丈夫ですよ」

「仕込みをしていたら遅れちまったさ」

「期待していても良いってことかしら?」


意地悪な笑みで問いかけると、

女将は腕を叩いて答えてくれた。


「リズ、そろそろ良いんじゃないのか?」


いつの間にか、お父様とお母様にシルクも集まっていた。


「え?私ですか?」


挨拶的なものはお父様がすると思っていたのに、

急に振られてお母様を見ても、微笑んで頷くだけだ。


しょうがないわね。


一度目を閉じ、息を深く吸った。


領民たちはそれを見て一瞬で静まり返った。


「イルヴァがこの領地に来たときに私はみんなに言いました。

ヴェルデンを豊かにしたいと――」


言葉なんて考えなくてもいくらでも湧いて出てきた。


「豊かさとはなにか?考えたことがありますか?」


私の問いに、領民たちが隣の人と話し合い、


「それはお金がいっぱいあるってことですか?」


一人の領民が問いかけ返してきた。


私は首をゆっくりと振って、


「お金はあくまでも手段でしかないの。

お金がなければ食料が買えず飢えることもある、

だけど、お金は人を満たすことは出来ないと思っているわ」


戯言だということは、私自身も自覚はしている。

それでも⋯⋯。


「人が困っていれば手を差し伸べられて、

それに対してありがとうと言える、

その心の余裕こそが私は本当の豊かさだと思っているわ」


ボソリと領民がつぶやいた。


「自分で手一杯なら助けてる暇ないもんな」

「そういうことね。これまではそんな余裕も持てなかったと思う――」


みんなを見渡し、お父様とお母様を見上げると

2人は相変わらず微笑み返してくれた。


私は最後にアシュに視線を向けると、

飛び切りの笑顔で背中を押してくれた。


「お金は私が稼げるようにするわ。

私がヴェルデンの領民として誇りを持てるようにするから、

みんなは心を磨き続けなさい!」


鼓膜を破らんばかりの歓声が上がった。


耳を抑えながら見渡すと、

こんな騒ぎの中でもアシュは小さく拍手をしてくれていた。


静まりを待って、


「本当はみんなの家を建て替え直したかったけど、

私の力不足でそれが出来なかったわ。

だから、代わりというわけじゃないけどいつでも暖かく過ごせるように、

この大衆浴場を作ったから好きに使って」


思いっきり息吸って、


「大衆浴場、営業開始よ!!!」


そう言って私は誰よりも早く大衆浴場に駆け出した。



入浴順は事前に決めておいた。


一番風呂は当然私とお母様とアシュにマリーとマァム、ユルガ夫人とフレイナお嬢様とアリーシア。

男性の方は、お父様にシルクとジーノやガリルたち。


後は領民たちにくじを引かせて順番を決めておいてある。



大衆浴場に入るとすぐに、青色と赤色の暖簾が待ち構えていた。


これを見ると銭湯に来たって感じるわね。


「男性は青色、女性は赤色の方に進んでください」

「こっちの扉はなにかしら?」


ユルガ夫人が、3つ目の扉を不思議がっている。


「そっちは休んだり寝たり出来る大広間になっています」

「後で見てもいいかしら」

「どうぞ」


ここで男女に別れて暖簾を潜り脱衣所へと向かう。


「ここで服を脱いで、入口の横に置いてある木箱を一人一個持ってください」

「アシュとやら、悪いが脱ぐのを手伝ってくれ」

「私の方もお願いするわ」

「はい」


これだから貴族や金持ちは本当に⋯⋯。


ユルガ夫人とアリーシアを尻目に、

私とお母様は自分で服を脱いで、いつでも浴場に入る準備が出来た。


「待たせたわね」


みんなが脱ぎ終わるのを確認して、

浴場の扉を開けると、湯気と熱風が私たちを迎えてくれた。


「リズ、あんたすごいものを作ったわね」

「これを維持できるなら、ある種の革命よ」


ユルガ夫人とアリーシアが扉の前で佇んでいる。


「入らないのですか?」


私の声で我に返り、慌てて浴場へと入ってきた。


「まずは、ここで体を湯で流してくださいね」

「湯をそんな使い方していいの?」

「ここでは贅沢に使ってください」


私は桶で湯を掬い勢いよく体に掛けた。


それを見て続くようにみんな体に湯を掛けてくれた。


「これが、自慢のお風呂です」


バリスの村の倍以上ある浴槽には、

溢れんばかりの湯が張られている。


「それじゃ、一番いただき!」


私ははしゃぎながら浴槽へと飛び込んだ。


「もうリズったら」


ずぶ濡れになったお母様が呆れた顔でこちらを見ていた。


「みんなも早く入って、完璧な湯加減よ」


みんな恐る恐る足や手で湯加減を確認して、

お湯に体を沈めていく。


「こりゃ~最高だわ」


全身を湯に沈めて足を伸ばしながらアリーシアが気の抜けた声で漏らした。


「本当にこれを1日中維持できるの?」


未だにユルガ夫人は信じられないと問いかけてくる。


「30分ごとに、この浴槽の湯が入れ替わるくらいこの後ろで沸かし続けています」

「なぜそんなことが出来るのかしら?」

「コークスという新しい燃料を開発したので、

薪の半分以下の量で、これだけのお湯を沸かせられるのです」

「燃料から作ったの?」


ヘヘッと笑って、


「バリス領で、大量生産に向けてちゃくちゃくと準備を進めています」

「あのバリスでね⋯⋯」


ユルガ夫人がなにか含みがある言い方をしたが、


「それでリズ」


アリーシアが割って入ってきた。


「何でしょうか?」

「これ、いくらでうちのところに作ってくれる?」

「え!?」

「前金ってさっき言ったでしょ」


ユルガ夫人とアリーシアが悪い顔でこちらを見ている。


前金ってそういうこと?

高い入浴料をくれたってわけじゃないのね。


2人の思惑を知って肩を落とした。


「すぐには作れませんよ。

バリス村もここも川の近くだから成立しているわけで、

町中や屋敷の中に作るとなると、色々変更しないといけないのですから」


とはいってもそれなりの構想は出来上がっている。


一人が入るくらいのサイズなら、作ろうと思えば作れなくもないけど、

今それを言うと面倒くさくなると思って心にしまっておく。


「じゃ、目処が立ったら私とユルガ夫人のところが先だからね」

「100万イェンって言っても良いんですか?」


ちょっと意地悪にふっかけてみると、


「そんな安いなら、いつでも出すわ」


ユルガ夫人も頷いているのを見ると、

ふっかけたつもりがふっかけきれていない?


「湯に浸かっているだけなのに、

なんでこんなに癒されるんですかね」


マリーが完全に脱力しきった顔をしている。


「ホント、ただのお湯なんですけどね」


マァムも食堂では見せない気の抜けた様子で同意した。


本当はもっと入っていたいけど、

後がつっかえているので、みんなに木箱の中身の使い方を説明することにした。




説明をしながら全身を洗い終わって、脱衣所で体を拭いていると、


「オイルを塗らないと指に絡まっていたのに、

スンナリと指が通るわ」


リンスの効果をしっかりと実感してくれている。


「髪の水気を取ったら、最後に右のオイルを塗れば完璧になります」

「これを、ヴェルデンの住人ならいつでも使えるのか?」


アリーシアが質問してきた。


「そうですけど、ヴェルデン以外の人でも1回500イェンで利用できるようにするつもりです」

「この木箱も一緒にか?」

「はい」


アリーシアがため息をついた後、


「普通なら、0を2個付けても通うやつは出てくるわ」

「それは貴族や富豪と言った人たちですよね」

「庶民に5万はそうそう出せないだろ」

「それなら意味がありません」

「なぜだ?」


和気あいあいとしていた空気が凍りつき、

みんな私とアリーシアを見つめている。


これはアリーシアは私を試しているのか、

それとも単純に商売の話をしているのかわからないけど、


「500イェンなら1食を我慢すれば捻出できます。

薪を節約しながら暮らす庶民と、

気にせず温かい部屋で過ごせる貴族たちとは温まるという意味が全然違います」


大衆浴場を貴族たちの娯楽にするつもりはまったくない。


「そんな庶民が500イェンで買える、

一時の温かさを私は提供したいのです」


私の答えを聞いて、アリーシアが頭を掻き、


「あんたはやっぱ芯が変わらないわね」

「どういうことですか?」

「もしここで、数を呼ぶためにとか言っていたら怒鳴ろうと思っていたのよ」

「合格と思っていいのでしょうか?」

「2日おきにうちの子たちをアタンから連れてくるわ。

そのついでに、うちの馬車に庶民も乗れるようにしてあげるわ」


思いがけないアリーシアからの提案に驚きと混乱が襲ってきた。


「そこまでする理由がわからないわ」

「冬になると、体を洗うのを怠る子がいるのよ、

うちの子たちを身綺麗にするついでに、ただ乗せてあげるってだけ、

それ以上の理由はないわ」


そう言って、アリーシアは髪にオイルを塗り始めた。


お風呂上がりとは言え、

その顔はさっきよりも赤くなっていたのは秘密にしておこう。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
アリーシア姉さん、公爵夫人、結構好きです(*´▽`*) 大浴場、大人気になりますように! 風呂上がりの牛乳もよいぞー
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