タイムリミット
「こんな感じでいいぜ?」
斜面を利用した窯を見て、
「うん⋯⋯多分大丈夫」
「おい、大丈夫ぜ?」
自信なく返事をしたところをガリルに突っつかれた。
そう言われても見ただけじゃ、私には良し悪しは判断できないわよ。
知っているのは燃えなさすぎず、燃やしすぎないってことだけ。
「先に煙石を燃やしたぜ?」
さっき居た場所から、えげつない煙が上がっているのが見えたようだ。
振り返って私も見ると、確かに煙石と言われてもおかしくないわね。
5、6個に火を点けただけで、火事かと見間違えるほどに煙が上がり、
周囲に居る人たちが咳き込んで、風上に逃げていた。
「そう言えば、木炭って見ないけどあまり使われてないの?」
「薪でそのまま燃やせばいいのに、わざわざ木炭にする理由があるぜ?」
言われてみればそうよね。
ガリルの言葉に納得しかけたとき、
「一部の貴族は木炭を使用しておりまして、中央都市では煙の多さから、
木炭の使用を命じている場所もございます」
イルヴァがすかさず補足してくれた。
「やっぱり高いのかしら?」
「薪と比較しますと、5倍くらいの価格で取引されております」
「5倍も!?」
「作る手間もですが、鍛冶場では木炭でないと鉄が溶かせないと言うことで、
消費量が多いため需要が高いのです」
「なるほどね」
「木炭職人を抱えている貴族や鍛冶職人も居るほどです」
ここまで聞くと、コークスを作ることが出来れば、
どれだけの市場が手に入るかワクワクしてきた。
「とりあえず、煙石を入れて蒸しましょう、
窯も続けて作ってほしんだけど、上の穴は次は小さくして頂戴」
「へい」
返事をした後すぐに斜面にスコップを突き刺し、窯作りを再開した。
「山一つ、こっちの窯に運んで!」
煙石を分けていた人たちに、運んでもらうように叫んだ。
「それじゃ、火を点けて」
私の合図で、男が木筒を思いっきり押し込んで、
火種を作って藁に移した。
息を吹き込み藁から火が上がったのを見て、
「入れます」
「お願い」
男は窯の焚き口に燃え上がる藁を投げ込んで、
木の板で空気を送り込み、火を大きくする。
徐々に窯の排煙口から白い煙が出てきて、バチバチと窯の中で弾ける音が聞こえだした。
「あとは待つだけね」
そう思ったのに、排煙口からの煙がすぐに途切れてしまった。
「空気をもっと送って!」
「は、はい」
木の板を扇ぐ男に激を飛ばし、倍以上の速度で仰がせても、
始めほどの煙は出てこず、弾ける音も静かになってしまった。
焚き口から中を覗くと、手前は燃えたようだけど、
奥まで火が回った様子は見られなかった。
「煙石って結構燃え広がりにくいのね」
「後は空気の通り道がないのかもぜ」
それからは、ガリルと地面に絵を描き試行錯誤する。
「下の方に大きい石を敷いて隙間を作ってぜ、
上に小さいのを乗せるのはどうぜ?」
「それに、藁から直接火を点けないで、
底の中央に薪を置いてそれに火を点けるのは?」
窯の中を見たり、煙石を重ねたりと、
考えうる方法をいくつも出し合う。
「燃やすことに苦労するとは思ってなかったぜ」
「でも、こういう時が一番楽しいじゃない」
「顔が黒くなっているぜ」
「ガリルもね」
考えることに夢中になりすぎて、
煙石で汚れていることさえ気づかないでいた。
「本当にリズ様は」
呆れるアシュがタオルを取り出して、
私の顔を強めに擦ってくれた。
タオルの隙間から、見慣れない馬車が屋敷の方に走っていくのが視界に入った。
「どこの馬車かしら?」
「なんじゃ?」
アシュの手が止まり、ガリルとイルヴァも馬車の方を向く。
「どこかで見たことある家紋だわ⋯⋯」
記憶を辿ろうとしたとき、
「あれは、バリスの家紋でございます」
イルヴァがそれよりも早く答えをくれた。
「もしかして!?」
アシュと顔を見合わせ、ガリルたちに一旦作業を止めておいてと指示をし、
急いで屋敷へと向かった。
息を切らして玄関のドアを勢いよく開けて駆け込んだ。
「お父様!」
「そんなに慌ててどうした?」
「バリスの馬車を見かけたので」
深呼吸をして、息を整えてお父様の前に人が居ることに気づいた。
「今バリス領主から手紙を受け取ったところだ」
「それでは、確かにお渡ししました」
バリス領主の使いがそう言って、屋敷を出ていくのを見届け、
「なんと書かれていますか?」
「慌てるな、まだ開けてもおらん」
お父様はベルトに下げられた小さいナイフを取り出すと、
勢いよくバリスの家紋が押された封蝋をナイフで剥がして、中身を取り出した。
手紙を開いたお父様はすぐに険しい顔をし、
手紙を掴んでいる箇所にシワが走った。
「なんと書かれていましたか?」
私の再度の問いかけに何も言わず、手紙を手渡してきた。
手紙に目を通すと、そこには予想通りかつ常識外れな提案が記されていた。
「3日以内に領民を戻すか、一人150万イェンで買い取るか⋯⋯、
同じ数のヴェルデン領民と交換のどれかを選べ?」
「本当に何を考えているのだ!」
憤慨するお父様の声に、お母様が2階から降りてきて、
「ごめんなさい、私が勝手なことをしたことで」
「何を言う、お前のせいではない。
領民を物としか見ていないバリス領主が悪いんだ」
お父様の言葉は正義だ。
だけど、正しいことを言っているのはバリス領主。
これで、3日以内に結果を出さないと、
彼らを引き渡すか6000万イェンを払うしかない。
ヴェルデンの領民を渡すなんて絶対にありえない。
「アシュ、戻りましょう」
「はい」
手当たり次第にやるしかない。
すぐに作業場に戻り、一つ試してそれを踏まえて次を試すなんて、
呑気なことは出来なくなったことをみんなに伝えた。
「いい?何が何でも3日以内に結果を出すわよ!」
「「はい!」」
この際、些細なことでも提案をさせて、
窯を毎日使っているバンズすらも呼び出した。
「イルヴァ、すぐに戻って煙石をこれの10倍運んできて!」
「バリスとなにかあったのでしょうか?」
「アシュ悪いけど、イルヴァに説明してあげて」
イルヴァに説明する時間すら勿体無い。
「もっと人数集めて、窯をいっぱい作ってちょうだい、
悪いけどこの3日間みんな――」
私の言葉にみんな手を止めた。
「死ぬ気で私に付いてきて!」
元の世界ならブラック企業もいいところだ。
なのに、
「3日くらい任せて下さい!」
「他に窯が作れそうな場所探してきます」
みんな不満を言うどころか、活気づいてくれた。
そんな士気が高い中で、イルヴァが、
「これは面倒くさくなりました」
「どうしたのよ?」
「煙石はバリスから仕入れていたのです」
「他はないの?」
「バリス以外ですと、片道で4日掛かります」
1回の仕入れなら物珍しく買うやつが居ると流されるが、
続けて大量に仕入れられたら、こっちの動きがバレる。
いや、もうバレているのかも。
「他にないならしょうがないわ。
出来るだけうちのことは伏せてくれればいいわ」
「かしこまりました、それではすぐに馬を走らせます」
「イルヴァ!バリスがゴネたら5倍出すといいなさい」
私の言葉にお辞儀で返し、馬車に乗り込んでいった。
「とりあえず、煙石を大中小にさらに分けて、
そして、窯も今の半分の大きさにして1回に使う量を減らすわ!」
私の指示を聞いて、みんな慌てる様子もなく作業に取り掛かった。
「地獄の3日間が始まるわ」
「いいのですか?イルヴァさん」
「何がですか?」
揺れる馬車の中で、厳つい護衛がイルヴァに質問をする。
「あんな小娘に良いように使われて」
「私は商人です。敵対しないのであれば、
あんなにお金の匂いがする人を放っておく理由がありません」
「そういうものですかね」
眉を一瞬あげ、商人の考えはわからないと肩をすくめた。
自分の雇い主がリズにお使い感覚で使われることに、
不満を持つ護衛に対して、イルヴァは割り切ってリズと接していた。
「とはいっても、お金の匂いが消えたらそれまでです。
よく言うじゃないですか、金の切れ目が縁の切れ目だと」
馬車から外を眺める。
「まぁザルザ商団に利をもたらす間は、使われてあげましょう」
最後までお読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけたら★評価とフォロー・感想お願いします。




