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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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タイムリミット

「こんな感じでいいぜ?」


斜面を利用した窯を見て、


「うん⋯⋯多分大丈夫」

「おい、大丈夫ぜ?」


自信なく返事をしたところをガリルに突っつかれた。


そう言われても見ただけじゃ、私には良し悪しは判断できないわよ。

知っているのは燃えなさすぎず、燃やしすぎないってことだけ。


「先に煙石を燃やしたぜ?」


さっき居た場所から、えげつない煙が上がっているのが見えたようだ。


振り返って私も見ると、確かに煙石と言われてもおかしくないわね。


5、6個に火を点けただけで、火事かと見間違えるほどに煙が上がり、

周囲に居る人たちが咳き込んで、風上に逃げていた。


「そう言えば、木炭って見ないけどあまり使われてないの?」

「薪でそのまま燃やせばいいのに、わざわざ木炭にする理由があるぜ?」


言われてみればそうよね。


ガリルの言葉に納得しかけたとき、


「一部の貴族は木炭を使用しておりまして、中央都市では煙の多さから、

木炭の使用を命じている場所もございます」


イルヴァがすかさず補足してくれた。


「やっぱり高いのかしら?」

「薪と比較しますと、5倍くらいの価格で取引されております」

「5倍も!?」

「作る手間もですが、鍛冶場では木炭でないと鉄が溶かせないと言うことで、

消費量が多いため需要が高いのです」

「なるほどね」

「木炭職人を抱えている貴族や鍛冶職人も居るほどです」


ここまで聞くと、コークスを作ることが出来れば、

どれだけの市場が手に入るかワクワクしてきた。


「とりあえず、煙石を入れて蒸しましょう、

窯も続けて作ってほしんだけど、上の穴は次は小さくして頂戴」

「へい」


返事をした後すぐに斜面にスコップを突き刺し、窯作りを再開した。


「山一つ、こっちの窯に運んで!」


煙石を分けていた人たちに、運んでもらうように叫んだ。



「それじゃ、火を点けて」


私の合図で、男が木筒を思いっきり押し込んで、

火種を作って藁に移した。


息を吹き込み藁から火が上がったのを見て、


「入れます」

「お願い」


男は窯の焚き口に燃え上がる藁を投げ込んで、

木の板で空気を送り込み、火を大きくする。


徐々に窯の排煙口から白い煙が出てきて、バチバチと窯の中で弾ける音が聞こえだした。


「あとは待つだけね」


そう思ったのに、排煙口からの煙がすぐに途切れてしまった。


「空気をもっと送って!」

「は、はい」


木の板を扇ぐ男に激を飛ばし、倍以上の速度で仰がせても、

始めほどの煙は出てこず、弾ける音も静かになってしまった。


焚き口から中を覗くと、手前は燃えたようだけど、

奥まで火が回った様子は見られなかった。


「煙石って結構燃え広がりにくいのね」

「後は空気の通り道がないのかもぜ」


それからは、ガリルと地面に絵を描き試行錯誤する。


「下の方に大きい石を敷いて隙間を作ってぜ、

上に小さいのを乗せるのはどうぜ?」

「それに、藁から直接火を点けないで、

底の中央に薪を置いてそれに火を点けるのは?」


窯の中を見たり、煙石を重ねたりと、

考えうる方法をいくつも出し合う。


「燃やすことに苦労するとは思ってなかったぜ」

「でも、こういう時が一番楽しいじゃない」

「顔が黒くなっているぜ」

「ガリルもね」


考えることに夢中になりすぎて、

煙石で汚れていることさえ気づかないでいた。


「本当にリズ様は」


呆れるアシュがタオルを取り出して、

私の顔を強めに擦ってくれた。


タオルの隙間から、見慣れない馬車が屋敷の方に走っていくのが視界に入った。


「どこの馬車かしら?」

「なんじゃ?」


アシュの手が止まり、ガリルとイルヴァも馬車の方を向く。


「どこかで見たことある家紋だわ⋯⋯」


記憶を辿ろうとしたとき、


「あれは、バリスの家紋でございます」


イルヴァがそれよりも早く答えをくれた。


「もしかして!?」


アシュと顔を見合わせ、ガリルたちに一旦作業を止めておいてと指示をし、

急いで屋敷へと向かった。



息を切らして玄関のドアを勢いよく開けて駆け込んだ。


「お父様!」

「そんなに慌ててどうした?」

「バリスの馬車を見かけたので」


深呼吸をして、息を整えてお父様の前に人が居ることに気づいた。


「今バリス領主から手紙を受け取ったところだ」

「それでは、確かにお渡ししました」


バリス領主の使いがそう言って、屋敷を出ていくのを見届け、


「なんと書かれていますか?」

「慌てるな、まだ開けてもおらん」


お父様はベルトに下げられた小さいナイフを取り出すと、

勢いよくバリスの家紋が押された封蝋をナイフで剥がして、中身を取り出した。


手紙を開いたお父様はすぐに険しい顔をし、

手紙を掴んでいる箇所にシワが走った。


「なんと書かれていましたか?」


私の再度の問いかけに何も言わず、手紙を手渡してきた。


手紙に目を通すと、そこには予想通りかつ常識外れな提案が記されていた。


「3日以内に領民を戻すか、一人150万イェンで買い取るか⋯⋯、

同じ数のヴェルデン領民と交換のどれかを選べ?」

「本当に何を考えているのだ!」


憤慨するお父様の声に、お母様が2階から降りてきて、


「ごめんなさい、私が勝手なことをしたことで」

「何を言う、お前のせいではない。

領民を物としか見ていないバリス領主が悪いんだ」


お父様の言葉は正義だ。

だけど、正しいことを言っているのはバリス領主。


これで、3日以内に結果を出さないと、

彼らを引き渡すか6000万イェンを払うしかない。


ヴェルデンの領民を渡すなんて絶対にありえない。


「アシュ、戻りましょう」

「はい」


手当たり次第にやるしかない。



すぐに作業場に戻り、一つ試してそれを踏まえて次を試すなんて、

呑気なことは出来なくなったことをみんなに伝えた。


「いい?何が何でも3日以内に結果を出すわよ!」

「「はい!」」


この際、些細なことでも提案をさせて、

窯を毎日使っているバンズすらも呼び出した。


「イルヴァ、すぐに戻って煙石をこれの10倍運んできて!」

「バリスとなにかあったのでしょうか?」

「アシュ悪いけど、イルヴァに説明してあげて」


イルヴァに説明する時間すら勿体無い。


「もっと人数集めて、窯をいっぱい作ってちょうだい、

悪いけどこの3日間みんな――」


私の言葉にみんな手を止めた。


「死ぬ気で私に付いてきて!」


元の世界ならブラック企業もいいところだ。


なのに、


「3日くらい任せて下さい!」

「他に窯が作れそうな場所探してきます」


みんな不満を言うどころか、活気づいてくれた。


そんな士気が高い中で、イルヴァが、


「これは面倒くさくなりました」

「どうしたのよ?」

「煙石はバリスから仕入れていたのです」

「他はないの?」

「バリス以外ですと、片道で4日掛かります」


1回の仕入れなら物珍しく買うやつが居ると流されるが、

続けて大量に仕入れられたら、こっちの動きがバレる。


いや、もうバレているのかも。


「他にないならしょうがないわ。

出来るだけうちのことは伏せてくれればいいわ」

「かしこまりました、それではすぐに馬を走らせます」

「イルヴァ!バリスがゴネたら5倍出すといいなさい」


私の言葉にお辞儀で返し、馬車に乗り込んでいった。


「とりあえず、煙石を大中小にさらに分けて、

そして、窯も今の半分の大きさにして1回に使う量を減らすわ!」


私の指示を聞いて、みんな慌てる様子もなく作業に取り掛かった。


「地獄の3日間が始まるわ」



「いいのですか?イルヴァさん」

「何がですか?」


揺れる馬車の中で、厳つい護衛がイルヴァに質問をする。


「あんな小娘に良いように使われて」

「私は商人です。敵対しないのであれば、

あんなにお金の匂いがする人を放っておく理由がありません」

「そういうものですかね」


眉を一瞬あげ、商人の考えはわからないと肩をすくめた。


自分の雇い主がリズにお使い感覚で使われることに、

不満を持つ護衛に対して、イルヴァは割り切ってリズと接していた。


「とはいっても、お金の匂いが消えたらそれまでです。

よく言うじゃないですか、金の切れ目が縁の切れ目だと」


馬車から外を眺める。


「まぁザルザ商団に利をもたらす間は、使われてあげましょう」



最後までお読みいただきありがとうございます。

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