答えはすぐそこにあった
お父様がバリス領主に手紙を出してから4日が経ったが、
返事はなく、バリス領主は彼らのことを気にしていないのかと思いはじめた。
バーカスに頼んだので、手紙が届いていないってことはないと思う。
ただただ回り続ける水車を眺めながら、
なにかいい方法はないかと、4日間徹夜で書物等を読み漁った疲れを癒していく。
「どうするか決まったぜ?」
「うん?」
辛うじて塞がるのを耐え忍んでいる瞼のせいで、
ボヤけた視界のまま声の方に顔を向けた。
「おい、起きてるぜ?」
「あぁ~ガリルね、一応起きているわよ」
「そんな状態なら、屋敷で寝てればいいぜ」
そうしたいのも山々なんだけど、
2日前から、お父様たちの寝室の修繕がはじめったお陰で、
屋敷にはカンカン、ギーギーといった音が鳴り響いている。
「大丈夫よ、いま寝たら夜に寝れなくなるし、
この後、避難民の人と会う約束しているから」
手を振りながら、体内時計が狂う方が困ると告げた。
「バタバタしてまだ集まれてないけど、
ガリルはどうする方が良いと思う?」
4日前の結論が出なかった会議の続きを聞いてみた。
「ある程度面倒を見て、出て行って貰うのが最善ぜ」
「それはヴェルデンを守るため?」
「そうぜ、賠償金がないなら悩むぜ、
でも、そうじゃないなら関わらないのが一番ぜ」
「そっか⋯⋯」
お父様の手紙には、今は保護という形を取っていること、
ただ、避難民は戻ることを拒否していて、
うちとしてはこのまま受け入れても構わないから相談したいと書かれている。
「助けてやりたい気持ちがもわかるぜ、
だかど、よくわからない奴らに数千万イェンも払えるぜ?」
そうなのよね、最低でも4000万イェン。
冬のための1000万イェンに、なにかあったとき用の300万イェン、
これがヴェルデン領の全財産だ。
ヴェルデン領をひっくり返していくら叩いたって、
4000万イェンなんて出てくるわけがない。
「もう少し早ければ、農作業の手伝いとか、
こっちでもジャガイモを多く作付けするとかで力を貸せたんだけどぜ」
「本当にそうよね」
お金は無くても、知識ならいくらでも貸し出せた。
「リズ様、そろそろお時間です」
アシュの知らせを受けて、
「でもありがとう。今の話で方向性が見えて来たかも」
「今の話ぜ?」
驚くガリルをそのままにして、避難民のリーダーに会いに行く。
彼に会う前に冷たい水で顔を洗って、
モヤがかかった思考を鮮明にする。
商団事務所の前で、リーダーが私の到着を待っていた。
「中で待っていれば良かったのに」
「いえ、勝手に入るのは悪いので」
1週間近く経つのに、余所余所しい態度は変わらないままだったが、
土色だった顔色がほのかに赤みがさしていた。
「じゃ中で、もう少し村のことやバリス領のことを聞かせてちょうだい」
彼は頷いて、私たちの後を付いて事務所に入った。
「まずは、あなたの名前を教えて」
「はい、俺⋯⋯私はネルガです」
「無理に言葉遣いに気を使わないでいいわ」
「ありがとうございます」
ネルガと言った男は、歳を覚えてないらしく三十は越えていると、
そして、バリス領主から村と1つの山の採掘を任せられていたという。
「バリスは山ごとに数十人の村単位で管理しているの?」
「そうです、大体30から50人で山の近くに集落を作って、
鉄を採掘して、10日ごとに来る荷馬車に掘った鉄を渡して暮らしています」
「じゃ、食料とかはその荷馬車に積まれてくるってこと?」
「はい、前の渡した量によって食料の量が変わります」
怠ければ食料が減らされるから、
村全体で、ある意味監視し合う環境を作っているわけね。
「でもバリス領全体が衰えているってことは、
ネルガが採掘していた山だけが悪くなったって訳ではないのよね?」
「近くの村の奴らとも何度か話す機会があって聞いたんですが、
どこの山もめっきり取れなくなったって言っていました」
そんな同じ時期に、他の山でも取れなくなるってあり得るのかしら。
なんか裏がありそうだなと勘ぐってしまうのは、
バリス領主への不信感のせいかしら。
「前に、去年から急に農作業を割り振られたと言っていたけど、
その前から、村で何かを植えたりはしなかったの?」
「前の代から試していたようですが、
芽すら生えずに、土も雨が降っても水を含まないで流れてしまうのです」
前に知識がないからと言っていたけど、
そもそも土地自体が、作物が育つ環境じゃないのかもね。
「鉄以外は取れないの?」
「鉄以外になにがあるのか、俺たちは知りません。
領主様に言われて取ってるのが鉄ってだけです」
「例えば、透明な石とか色鮮やかな石とかは見たことない?」
「⋯⋯ないです」
諦めた顔で首を振る。
ダイヤとかエメラルドにサファイヤが取れればと思ったけど、
そんなに甘くはないわよね。
てか、ダイヤとかなら存在くらい知られているか。
「鉄が取れ難くなってからいくつかの山を割り当てられましたが、
他の山では煙石ばかりで、鉄が出てくる気配がありませんでした」
「煙石?」
「黒い石で、燃えるんですが煙と匂いが凄くて、
この石が出る山は鉄が取れないって昔から言われています」
うん?
「それって、石炭って言ったりしない?」
「せきたんですか?いえ、煙石とか燃え石としか聞いたことありません」
これだけだと確証持てないわ。
「その石の実物って持ってないの?」
「そんな石をわざわざ持ち歩く訳ないですよね」
私の食いつきに、戸惑っているネルガに、
「他の人が持っていないか聞いて来て、
または同じ物が、ここらへんで取れたり買えたりしないか聞いて」
一段声を大きくして、捲し立てられたネルガ、
事務所を出ていき、仲間のもとに走っていった。
「アシュは、石を薪代わりに使っているのを聞いたことはない?」
「石が燃えるってことを初めて知りました」
「悪いけど、お父様とセバスに煙石を知っているか、
そしてうちにないか聞いてきてもらえる?」
「かしこまりました」
私の指示でアシュも事務所を飛び出し、
一人残ってしまった。
もしネルガが言っている煙石が石炭なら、
元の世界で一時期黒いダイヤと呼ばれた代物よ。
もし石炭なら、最高のカードになるわ。
連日徹夜で探し続けた糸口が、こんな近くに落ちているかも知れないなんて。
一気に興奮したせいか、はたまた一人になって気が抜けたせいか、
石炭の使用方法を思考するも、目の前がボヤけ音が遠くなっていく。
「⋯⋯限界だ」
誰も居ないのに、一言振り絞ってつぶやき、
テーブルにもたれ掛かって、一時の眠りに身を委ねる。
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