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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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善意の限界

自室に戻ってすぐに、帳簿とにらめっこしながら、

40人近くの避難民を受け入れられる余力があるのかを計算する。


「最低でも10軒の空き家の修繕に、1か月で1人に必要なお金は――」


食費や薪代などを積み重ねていくと、

軽く見積もっても、40人増えることで1月100万イェン以上のお金が必要だ。


「困ったわね⋯⋯」


領地の収支は、シードルなどのお陰で格段に改善していた。


以前バンズに聞いた話によると、冬はパンと豆を食べて越していたそうだ。

それを3ヶ月近く食べて耐え忍んでいたと。


でも、今なら冬の間も食堂で肉やスープを出すことが可能なところまで来ていたが、

40人増えることで、肉を出す日を減らすなどしないといけなくなりそうだ。


「時期が悪いわよ」


そう、これが春や夏なら人が増えても仕事を与えて、

彼らにも稼いでもらうことが出来ただろうけど、

冬になると、経済自体が止まる。


「一応は40人増えても賄えるが、削る必要があると」


それでも、削ることで40人の命を救えるなら安いものね。


帳簿を閉じて、お父様に報告をしに行くことにした。




「そうか、ありがとう」


40人の受け入れは、数字上は可能であることを伝えると、

お父様は一言感謝を口にした。


それでも、このままでいいのだろうか?


領外から人が来るのは、ユルたち以来のことである、

ユルたちは私が連れてきたのと、まじめに仕事をしたことでみんなに受け入れられた。


でも、彼らはそうではないし、すぐに頼める健康状態でもないし仕事もない。


領民は彼らを受け入れてくれるのか?


「領民は理解してくれるか心配です」


手紙を書くお父様の手が止まった。


「どういうことだ?」


領民の中には反対する人が出てもおかしくない状況であることを伝える。


「リズが言いたい事は分かるが、なら追い返せと言うのか?」

「違います、受け入れるべきだと思いますが、

それは、領民の理解を得ないでやると軋轢を生むかもしれないと言っています」


頭を抱えて考え込んだ後、勢いよく背もたれにもたれかかり、


「わかった、明日ジーノたちが集まるときに話をしよう」

「はい」


書斎を出て、部屋まで戻る間にも考える。


普通なら領主の一言ですべてが決まる。


でもそれをやるといつか、領民と避難民との間で問題が起こることは、

元の世界で嫌というほど見てきた。


やせ細り、怯える彼らを思い出して、

うまく行くことを願う。



「みんな集まったわね」


アタン観光に行った面々が集まったが、

みんな、今日の議題が宿題でないことを察している様子だった。


「もう知っていると思うけど、バリスからの逃げてきた人たちについて、

先にみんなと話をしたいと思うわ」


そう言って、お父様に視線を向ける。


「バリスは鉱物を採掘して成り立っていた領地であるが、

それが取れなくなったことで、彼らはヴェルデンに来たと話していた」


男から聞いた話をみんなに伝え、


「私は、彼らを受け入れるつもりでいるが、

みんなの意見を聞きたいと思う」


お父様の問いかけに、バンズがすかさず、


「その⋯⋯あれです。金的には大丈夫なんでしょうか?」

「お金の方は問題ないわ。ただ、隠さずに言うけど今まで通りとはいかないのは理解して」


ここに居るみんなに素直に伝える。

隠して後で気づかれたときに、もっとややこしくなるからだ。


「今まで通りとは何でしょうか?」


ギータが私の含んだ言い方を突いてくる。


「分かりやすいところでは、今は夜に必ず肉を出してもらっているけど、

それが2日か3日間隔になるのと、薪の分配を減らさないといけないわ」


領民にとって一番分かりやすい例を提示する。


「まぁ、そのくらいならいいんじゃないのか?」

「僕もそれで、彼らを受け入れられるなら良いと思います」


ジーノとユルは、賛成寄りの意見を言う中、

ギルが手を上げる。


「ギルはどう思うの?」

「僕も受け入れるべきだと思いますが、若い奴の中には、

彼らは大丈夫なのか?って不安を持っている者がいます」

「どういうことだ?」


若者の代弁に、お父様が強めに反応をしたため、

ギルが身を引きながらも続けた。


「ユルさんたちは、お嬢様が連れてきたので納得してたようですが、

今回は勝手に来たのと、人数が多いのでもしなにかあったらと言っていました」


若者の不安は正しい。


だから、お父様は目を細めるだけで言い返さなかった。


その様子を見てか、ガリルが根本的な問題を口にする。


「そもそも奴らは脱領民ぜ、そんなもんを勝手に受け入れるのは問題じゃ?」

「それは私も理解している」

「バリスにバレたら、賠償金を求められてもおかしくないぜ」


賠償金という言葉に、みんながざわめき出す。


過去にも数例似たような状況があったことをセバスに調べてもらってわかった。


古いものでは領地間での戦争まで発展した例や、

王国法で戦争を禁止されて以降は、

1領民に対して100万イェンを支払われた例が多いことがわかった。


最悪の場合、4000万イェンをバリスに請求する可能性⋯⋯。

いや、バリスの現状を考えると間違いなくこの手は打ってくるだろう。


「それなら、今は保護という形で回復したら帰すべきじゃないですか?」

「勝手に領を出た者が、どんな罰を受けるか知っているのか?」


バンズの意見に、お父様が真っ向からぶつかる。


最低でも強制労働、最悪は打首。

領を出た時点で、彼らにはバリスに戻るという選択はありえない。


お父様の一言で、一瞬で場が凍りついた。


静まり返った事務所。


みんなの顔を見るに、受け入れてはあげたいが、

ヴェルデンが危うくなるのは避けたいというのがわかる。


その狭間で葛藤している表情を浮かべている。


誰も話をしないまま、時間が過ぎようとしたとき、


「あの⋯⋯いいでしょうか?」

「マリーどうしたの?」

「ユルさんたちは大丈夫で、今回の人たちはダメなんでしょうか?」


マリーの疑問に、みんな不思議がって慌てて説明する。


「えっと⋯⋯ユルさんたちのときはアタンの領主様はなにも言ってこないのに、

今回はなぜ、バリスの領主様が文句を言うのかなと思いまして、

もっと言うとヴェルデンも若い人たちが出ていっても問題になっていないなぁと」

「そう言えば、そうですね」


マリーの疑問にユルも乗ってきた。


「アタンは自由都市という立ち位置だから、来る人拒まず去る人追わずなのね。

で、バリスやヴェルデンの場合だと言い方は悪いけど、領民は領主の持ち物になる」

「一応は、王国法で領主に一定額を納めるか、1年逃げ切れば浮遊民として、

どこの領地でも行けるってやり方もあるぜ」


私の説明にガリルが付け加えてくれて、

マリーとユルが納得して頷いた。


「うちはお父様が優しいから、外で稼ぎたいと思う人は自由にしていいという方針ね」

「領内で養ってあげられない、せめてもの償いなだけだ」


私の優しさと言ったことに、お父様は償いだと言い換えた。


「1人2人なら、匿って1年だかをやり過ごして助けてやれるけど、

40人は誤魔化しようないしな」


バンズの言うとおりだ。


人数があまりの多いせいで、ヴェルデンに来る前に死んだと言って、

匿ったりすることがあまりにも難しい。


受け入れるべきだと分かっていても、

あまりにもリスクが大きすぎて、みんな二の足を踏んでしまっている。


「お父様、このまま続けてもいい案は出なさそうですので、

一旦みんな持ち帰って、後日また集まる形を取るのはどうでしょうか?」


無駄に時間を浪費するのは得策ではない。


「そうだな、今日はみんなの意見が聞けただけでも十分だ」


そう言って、場を解散することにしたが、

みんなには、それとなく周囲の人たちの意見や反応を調べておくように指示を出す。



みんなが居なくなった事務所で、


「私は間違っているのか?」


お父様が吐露する。


「想いは間違っていません、ただ想いに対して壁が高いだけです」


お父様の判断一つで、40人の運命どころか、

ヴェルデン150人の命運が決まってしまう。


「もっと私の方でも、方法がないか調べてみます」

「あぁ⋯⋯頼む」


肩を落とすお父様を見つめることしか出来なかった。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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