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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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楽しかった時間から一変

翌日も昼前まで自由時間にして、各々アタンを見て回り、

昼過ぎには、ヴェルデンに帰って来た。


「2日間お疲れ様」


荷馬車からノソノソと降りるみんなに向かって、


「それじゃ、明日の夜に事務所にまた集まってもらうけど、

その時に、アタンで感じたことを踏まえて、

これからの領地をどうしていくか、考えてきてね」


まばらな返事に不安を覚えたけど、

とりあえず、みんなが何を感じたか聞ければ良いや。


そう思い、みんなを見送ろうとしていると、


「旦那様、問題が起こりました」


屋敷の中から、神妙な面持ちでセバスが告げる後ろで、

お母様が心配そうにこちらを見つめていた。



「その人達は今どうしている?」

「奥様の命で、今は空き家を手配してそちらに滞在せております」

「わかった。すぐに向かおう」


セバスの説明では、昨日からバリス領からの避難民のような人たちが、

うちに助けを求めてやってきたらしい。


お父様は、彼らに事情を聞きに行くというので、

私も同行することにした。



セバスに領地の端にある一角へと案内された。


ノックをし、中に入ると少し前のヴェルデンの人たちを思い出してしまった。


やせ細った手足、そして虚ろな瞳には生気が宿っていない。


この家には10人ほどが居るが、セバスは後3軒にも同じ人数が居ると言う。


「⋯⋯ひどいわ」

「あぁ⋯⋯」


私の言葉に頷くお父様と、目をつぶり頭を抱えながら首を振るセバス。


突然の私たちの来訪に、怯える避難民。


「この中で、事情に詳しい者は居ないか?」


お父様の問いかけに、男が恐る恐る手を上げ立ち上がった。


「私が⋯⋯みんなを引き連れて来ました」

「そうか、話を聞かせてもらえるか?」


事務所で話をしようとお父様が提案をし、

男だけを連れて行こうとすると、


「その人だけが悪いのではありません」

「悪いのは俺等みんなです」


懇願するように掠れた声で、男の助命を願い出てきた。


「勘違いしないで、本当に話を聞くだけだから安心して」


怯える彼らを宥めるために声を掛け、


「セバス、食事は出したのかしら?」

「それが、領主様と先に話をしないことには、

食事は受け取れないと言うのです」


律儀というか、逃げてきたのにそういうことを気にするのね。


「お父様、よろしいでしょうか?」

「セバス、すぐに用意しなさい」


お父様は憤りを隠さずセバスに指示を出した。


「私は先に食堂に行って、マァムに事情を説明します」

「頼む、私は事務所で話をしているから、

済んだらすぐに来てくれ」

「はい」


セバスと一緒に、食堂へと駆け足で向かう。


見た様子だと、数日まともに食事を取れていない。

そんなときに、普通の食事を食べるのは胃腸に負担になってしまう。


食堂に駆け込むと、慌ただしくマァムが指示を出し作業していた。


「マァム、話があるの」

「他領から来られた人たちのことですよね?」


彼らのことは領民でも噂になっていて、

帰ってきたばかりのマァムにもすぐに伝わっていたようだ。


「それで、彼らに食事を出したいのだけど――」

「無断で申し訳ありませんが、話を聞いて急いで準備しています」


頭を下げるマァムに、


「何を言っているの、完璧な判断よ」

「あ、ありがとうございます」


叱責される可能性を理解しながら、

それでも、準備をはじめていたマァムに私は嬉しくなった。


「多分、数日食事をしていないから、

消化にいいものをお願いできるかしら」

「そう思いまして、スープにジャガイモをすりつぶして団子にしたのと、

肉を叩いて一口大にしたものを、薬味スープで煮込みます」

「本当にあなたにここを任せて良かったわ」


背丈は子供と変わらないはずなのに、

マァムは本当に大きく見えた。


「じゃセバス、出来上がったらすぐに出してほしいけど、

ゆっくり食べることをちゃんと伝えてね」

「かしこまりました」


後はセバスに引き継いで、慌ただしく事務所へ向かう。



事務所へ入ると、お父様と男が向かい合って話をしていたが、

未だに、男は震えて歯を鳴らしていた。


「どうですか?」


私の問いに、お父様が首を振る。


話が出来なかったのか、それとも結構深刻な話だったのか、

私には読み取ることが出来なかった。


とりあえず、話を妨げないようにお父様の隣に座った。


「去年から、鉱物が取れなくなりだしまして、

バリス領主様が畑の仕事をするように指示をされたのですが――」


男が話をしているから、深刻な方ってことね。


「俺等は、ずっと山を削ることしかしていなかったので、

急に畑仕事をと言われても、まったく育ちませんでした」

「バリス領主はその間、なにも支援をしてくれなかったのか?」

「支援なんて⋯⋯作物が育たなくていつも叱責されていました」


だからか、みんなこんなに怯えているのは。


「1年近くは村のみんなで頑張ったのですが――」


男は喉をつまらせ、下を向き涙をこぼした。


「去年の冬に8人死に、それでも今年の夏に作物が出来ればと踏ん張りましたが、

うまく行かずに、このまま冬にみんなで死ぬくらいならと⋯⋯」

「村を捨て、うちに流れ着いたってことね」


私の問いに、頷いた。


「俺は村の取りまとめを任されていました。

俺が責任を全部取りますのでどうか⋯⋯」


男のこの言葉に、お父様が膝を叩き、


「心配するな、今はとりあえずゆっくりしなさい」


言葉は優しいのに、語気は強かった。


男を家に戻して、お父様からはじめの方の話を聞いた。


まとめると、バリス領では鉱物が取れなくなり、

鉱物を売って成り立っていたバリス領は落ちぶれ、

起死回生の農業もうまくいかなく、彼らは最後の希望として村を出て、

他の領はバリス領とのいざこざを危惧して追い返された末に、

ヴェルデンにたどり着いたという感じね。


「これは⋯⋯まずいですね」

「あぁ、領民が領主の許可なく領地を離れるのは禁止されている」

「それを受け入れたとなると⋯⋯」

「我々も、咎められても仕方がない」


だからといって、食事を与え明日にでも追い返すというの?

そんなの死になさいって言っているのと同じじゃない。


「ただずっと気になっていたことがわかってよかったです」

「どういうことだ?」


お父様が不思議そうにこちらを向いて聞いてきた。


「以前シードルの模造品問題で、鉱物を生業にするバリスがなぜシードルをと思っていたのですが、

バリス領主もなりふり構わずに、稼ごうとしていたということが分かった、ということです」

「あれはそういうことだったんだな」


以前バーカスに探りを入れてもらっては居たが、

これといった情報を聞けなくてヤキモキしていたけど、これで繋がったわ。


それと同時に、バリス商団をアタンから追い出した張本人は私だ。


その結果、彼らを追い詰めることになってしまった。


知らなかったとは言え、胸にいくつもの針が突き刺さる。


「どうしましょうか?」

「一旦私からバリス領主に手紙を出す。

避難民が来たことと、私はそれを受け入れる意思があることを伝える」


お父様は硬く握られた手を見ながら続けて、


「彼は⋯⋯過去の私と同じに見えた」


震えた声で言われたことに、ハッとし納得した。


「もっと言うなら、私の行き着くはずだった先だな」


そうだ。もし私がリズの身体に入っていなければ、

数年後には、お父様も同じ道を辿っていただろう。


だからお父様は、彼を見捨てることが出来なかった。


「でも今は、そんな彼らを受け入れられる選択肢を選べるまで来ています」


お父様の震える手に手を添え、その道は辿らなかったと伝える。


「それはリズが⋯⋯いや、みんなが頑張ったお陰だ」

「お父様が領民を見捨てずに、身を削り守ったからみんな付いてきたのです」


何度も何度も小さく頷き、そうか、そうだなと繰り返す。


「リズ、40人増えても冬を越せるか見直してくれ、

私はバリス領主と王宮に手紙を出す」

「はい」


覚悟を決めたお父様は私に命令して、事務所を飛び出していった。


思えば、お父様からの初めての仕事かもしれない。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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